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野分(のわき)と土器(かわらけ)積み【おとなのためのSFファンタジー #5】

ようこそ!
こちらは「おとなのための、創作小説」です。
ほんのひととき、
ちょっぴり不思議な世界を
お楽しみください。

今回のおはなしは
『野分(のわき)と土器(かわらけ)積み』
です。

では、いってらっしゃいませ。

***** ***** *****

野分(のわき)と土器(かわらけ)積み


 かしゃん、かしゃん…

 道の真ん中に座り込み、土器(かわらけ)積みはひとつ、またひとつと土器のかけらを地面に敷き詰めていきます。

「これはあのお屋敷の、こちらは向こうのお宿の…」

 かけらを指で摘まみ、あちこちひっくり返して文字の在りかを探しては見つけ、もとの持ち主の素性をちょっと知った気になる。そんなこそばゆい心地良さを感じながら、かれは日々土器積みに励むのでした。

 すずめ色の土器を敷き詰め、ぱり、ぱり、と踏みつけて均(なら)していきます。そしてときどき、隙間に白い貝殻を挟み込むのです。それはかれのちょっとした楽しみでした。自分にしか分からない場所に、そっと貝殻を紛れ込ませる。まるで気まぐれに宝物を授けているような特別な存在になった気がして、土器積みは得意気にふふん、と鼻を鳴らしながら仕事を続けていくのでした。

 かしゃん、かしゃん…
 
 捨てられた土器を集めることから、かれの仕事は始まります。この土地では宴会が催されると、青菜や魚、穀物は素焼きの土器に盛られて饗されます。土器に染みついたお酒や煮汁のしみを見つめながら、どんなに賑わった宴かと想像するのが、かれは大好きでした。かけら拾いのため、あちらこちらのお屋敷の庭、お宿の裏手を訪ねて歩いています。
 よいかけらを拾ったら背負った大きなかごへ、ひとつずつ、こつん、こつんと入れていくのです。そしてひとしきり集め終えた後は、かごから程良い大きさのざるにかけらを移し、どこへどのように当てはめていこうかと、道端に腰を下ろしてゆっくりと考えるのでした。

 このあたりの道端には反魂草が繁茂し、風が吹くたびにさわ、さわと揺れ動きます。花盛りの時期は特にその音が重層的な響きを湛えるのです。

 「魂(たま)のゆくえは 反魂草の ゆらり揺らるる その彼方…」

 どこかで覚えたのか、それとも自然に沸き上がったものなのか。土器積みが口ずさむ歌は、旋律を心得ないまま湿った空気をすり抜け、風と共に流れて消えていきました。

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