詩人・谷川俊太郎さんのご冥福をお祈り申し上げます
詩人の谷川俊太郎さんが亡くなった。
鉄腕アトムの主題歌(♫空をこえて〜ラララ星のかなた〜♫)やアニメ「ハウルの動く城」の作詞者であり、「スイミー」や「マザー・グースのうた」などの翻訳も手がけていたので、教科書や合唱コンクールなどで、誰しも一度は見聞きしたことがあるだろう。
かくいう私は、少女の頃から彼のファンで
「こんなにも明るくて、それでいてこんなにもロマンチックな詩が書ける俊太郎さんて、いったいどんな人かしら。お顔立ちもけっこうイケてるし…一度会ってみたいなぁ」と、そんなふうに思っていた。
そう…
彼のこの詩を読むまでは…🤪
……………
【 なんでもおまんこ 】
なんでも おまんこなんだよ
あっちに見えてる うぶ毛の生えた丘だってそうだよ
やれたらやりえてんだよ
おれ 空に背がとどくほどでっかくなれねえかな
すっぱだかの巨人だよ
でもそうなったら空とやっちゃうかもしれねえな
空だって色っぽいよお
晴れてたって曇ってたって ぞくぞくするぜ
空なんか抱いたら おれすぐいっちゃうよ
どうにかしてくれよ
そこに咲いてるその花とだってやりてえよ
形があれに似てるなんて そんなせこい話じゃねえよ
花ん中へ入っていきたくってしょうがねえよ
……………
って、えっ? えっ?
な、何だこれは?
これ本当に、俊太郎さんの書いた詩か?
何かもう、そのへんの何を見てもヤリたくてしょうがない、という思春期の少年の性欲を発狂しそうなほどあけすけに書いていて
も…もしかしたら、この人、ただの変態オヤジじゃないのか?
って、もう、この時は膝から崩れ落ちるぐらいにブッ飛んだね。
今までの彼に対するスイートな気持ちがいっきに吹き飛んで、思わず キッショー!と、叫び声をあげていた。
でも、この年になって読み返すと…わかるんだよね…
うん。これは みんなが言うように名作かも、って。
どうにも抑えきれない、はちきれんばかりの若さをこんなにも大胆に こんなにも自然体で大自然に向かってぶつけていて、そして最後は
「おれ死にてぇのかな」なんて言って身悶えしている。
そんな彼の素直さと、センチメンタリティには、今さらながら笑ってしまう。もう、愛しくなるぐらい。
そういう意味では、けして子供の心だけじゃない、年を重ねてたくさんの経験を積んできた大人にもひびく作品を長く書いてきたんだな、と思う。
ちなみに…
私が俊太郎さんの詩でいちばん好きなのが以下の「死んだ男の残したものは」である。
少しばかり長いけど、お時間ある方、どうぞお目通し下さいませ。
享年92歳。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
……………
【 死んだ男の残したものは 】
死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった
死んだ女の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着物一枚残さなかった
死んだ子どもの残したものは
ねじれた足と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
死んだ兵士の残したものは
壊れた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった
死んだ彼らの残したものは
生きてる私 生きてるあなた
他には誰も残っていない
他には誰も残っていない
死んだ歴史の残したものは
輝く明日と また来る明日
他には何も残っていない
他には何も残っていない