ChatPDFという、OpenAI社のチャットボットがあります:
pdfをポンと放り込み、そのテキストに関して質問すれば回答してくれます。ChatGPTのAPIを使っているそうです。そしてこれがすごいのです。
先日、生成文法がご専門である金沢学院大学の嶋村貢志先生(ゆる言語学ラジオではお馴染み)が、以下の論文:
Keir Moulton, "Clausal Complementation and the Wager-class," Proc. of the 38 the Annual North East Linguistics Society Vol 2.
http://individual.utoronto.ca/keirmoulton/Moulton_NELS38.pdf
をtweetされていました。これは以下のtweet:
に関連して紹介されたものです。ECM(これが何かは以下でChatPDFが回答してくれています)が可能な単語とそうでない単語との違いを高校レベルでどう説明するのか?という疑問を投げかけるtweetかと思います。
嶋村先生は「統語論的には以下の論文に答えがあります…」と仰って、上記の論文を挙げていました。私はその答えを知りたいと思い、論文を読もうとしたのですが … まあ一切わかりませんでした。知らない単語が多く、そのたび辞書を引かなければならないし、専門用語もそれに関連する概念もちんぷんかんぷん、という感じで、一切理解が進みませんでした。
そこでいっちょChatPDFでも使ってみるか、ということで、ポンと放り込んで質問をしてみるとまあすごい。以下、質問と回答を列挙します:
(・の行が質問、…の後がChatPDFの回答です)
このように、概念の説明、関数の意味やそのargumentの意味まで答えてくれます。しかも日本語で回答してくれるのです。これにより、少なくとも[[…]]が存在する式の意味解釈はわかるようになりました(※[[…]]は、… の部分に存在する日常言語の意味解釈をメタ言語で論理的に定義するときに使う記号)。もちろんChatPDFがおかしなことを言うときもありますが、文脈などから判断するとなんとなくその真偽がわかるものです。また私などは素人であり、多少の思い違いをしていても、おおざっぱに理解していればそれでという感じなので問題ないです。
しかもすごいことに、テキストに書いていないことも回答してくれます。上記の会話でChatPDFはECMについて説明してくれていますが、これは本文には書いていません。ChatPDFはChatGPTを使用しているとのことなので、基本的にはどんな質問にでも答えてくれるのでしょう。
まとめ
ChatPDFはOpenAI社のチャットボットであり、テキストに関する質問に対し回答をするAIです。前章にあるように、高度で専門的な学術用語に関しても丁寧にわかりやすく回答してくれます。しかも本文には存在しないことでも答えてくれます。論文読解のアシスタントとして非専門家には極めて有用です。
物理学関連での論文で使ったことは何度かあり、そのときもすばらしかったのですが、しかし物理学の概念てけっこういろんなテキストに記述されていますし、また言語学のような分野ほど概念が込み入ってなく、機械には理解・記述しやすいのだと思っていました。それが言語学関連論文でもこれほど役に立つとは思っていなかったので感動しました。
論文は、一定の割合わかると途端に全体的な理解が進みます。全く理解できなかった本論文が突然(全く理解していなかった時と比較すれば)理解できるようになりました。ChatPDFに蒙を啓かれた感じです。このように専門家でない人間が論文を読むには凄まじく役に立つAIです。ぜひ使ってみてください。
おしまい。$${{}_\blacksquare}$$