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カシミア演算子

$${\boldsymbol{A}}$$はSU(N)群の生成子とします(太字は$${A_i \ (i=1,2,\cdots,N^2-1)}$$をベクトルとみなしたものとする)。すなわち$${f_{ijk}}$$をSU(N)のLie代数の構造定数とすると$${[A_i,A_j]=if_{ijk}A_k}$$が成立します。ここで$${f_{ijk}}$$は完全反対称であることに注意。このとき

$$
\begin{aligned}
[\boldsymbol{A}^2,A_i]=0
\end{aligned}
$$

が成立します。証明は簡単で、$${L,M,N}$$を任意の演算子とすると$${[LM,N]=L[M,N]+[L,N]M}$$が成立することを用いると

$$
\begin{aligned}
[\boldsymbol{A}^2,A_i]&=A_j[A_j,A_i]+[A_j,A_i]A_j\\
&=A_j if_{jik}A_k+if_{jik}A_kA_j\\
&=0\ \ \ (\text{第2項で}jをk、kをjと書き直し、\\ &\hspace{2cm}f_{ijk}の完全反対称性を用いる)
\end{aligned}
$$

となるからです。この事実から$${\boldsymbol{A}^2}$$と$${A_i}$$のどれかとの同時固有状態が存在することが言えます。$${\boldsymbol{A}^2}$$はカシミア演算子と呼ばれます。

$${\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}}$$はSU(N)群の代数とし、また$${\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}}$$は可換であるとします。このとき$${\boldsymbol{C}:=\boldsymbol{A}+\boldsymbol{B}}$$とすると

$$
[\boldsymbol{C}^2,C_i]=0
$$

が成立します。これも証明は簡単:

$$
\begin{aligned}
[\boldsymbol{C}^2,C_i]&=[({A}_j+{B}_j)^2,A_i+B_i]\\
&=[A_j^2+B_j^2+2A_jB_j,A_i+B_i]\\
&=[A_j^2,A_i]+[A_j^2,B_i]+[B_j^2,A_i]+[B_j^2,B_i]+2[A_jB_j,A_i]+2[A_jB_j,B_i]\\
&=2[A_jB_j,A_i]+2[A_jB_j,B_i]\\
&=2(B_j[A_j,A_i]+A_j[B_j,B_i])\\
&=2(B_ji f_{jik}A_k+A_jif_{jik}B_k)\\
&=0 \ \ \ (A,Bが可換であることとf_{ijk}の完全反対称性より)
\end{aligned}
$$

軌道角運動量$${\boldsymbol{L}}$$とスピン演算子$${\boldsymbol{S}}$$の和(全角運動量と呼ぶ)は$${\boldsymbol{C}}$$の一例です。全角運動量の2乗およびその第3成分の同時固有状態が存在し、これを2x1行列の極座標で表示したものは球面スピノルと呼ばれます 。

おしまい。$${{}_\blacksquare}$$


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