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「マンスリークイーン投票」に関する考察といちプロデューサーとしての総括


1.はじめのごあいさつ

 はじめましての方ははじめまして。
 765プロダクション所属プロデューサーのぴゅあふる一と申します。
 私は出向先の876プロで”PROJECT vα-liv”(以下、ヴイアラ)のアイドル候補生レトラのプロデュースをしておりましたが、さる2024年3月末の最終審査の結果、おかげさまでレトラ含む3人の候補生が無事デビュー権を獲得し、先日無事デビューを果たしました。

 この結果は、第一に元候補生たちの1年間の努力によるものです。
 しかし、目標を大幅に上回る結果を得られたのは、ヴイアラ運営と我々プロデューサーのみならず、候補生たちを支えているファンの皆さま、そして他事務所のプロデューサーの皆さま方が元候補生たちを応援してくださったおかげでした。
 この場をお借りして、ヴイアラに携わった全ての方々にお礼を申し上げます。

 俺が……俺たちが……ヴイアラオールスターズだ!!!

 「こんなクソなげえnote読んでられるかアホ!」と思われた方、まことにごめんなさい
 最終章の7.「マンスリークイーン投票」の総括で全体のまとめがございますので、そこだけでも見ていただければ幸いです。

2.記事執筆の背景

 さて、元候補生たちのデビューが決まった後、ヴイアラPたちを中心に、今までのヴイアラの活動を振り返っている方が多く見受けられます。
 私自身は2023年の9月末から本格的に追い始めた関係上、厳密には半年ほどしかヴイアラの活動には積極的に参加してこなかったのですが、それでも語りたいことが山のようにあるほど、元候補生たちや同僚のみんなと過ごしてきた時間は濃密なものでした(いうてそんなに交流熱心ではなかったので、「誰だよお前」となるかもですがそこはご愛敬)。

 しかしながら、私は自分の活動の振り返りよりも何よりも、私がヴイアラのプロデューサーとして最も頭を悩ませていた、マンスリークイーンを決める月間デイリー投票(以下、「MQ投票」)を総括せずして、候補生たちのこの一年間を語ることはできないと思いました。そこで、今回この記事を書くに至った次第です。

 最初に申し上げておきますと、この記事は運営を批判するものではありません
 私の「MQ投票」に対する評価は、一言でいえば「必要悪だった」というものです、
 このプロジェクトは、あまりにも実験的色彩が強く、とにもかくにも手探りでやっていかなければならないものでした。
 色んな施策のなかには、大小の差はあれ成功したものもあれば「失敗」したものもあったと思います。
 しかしながら、そのトライアンドエラーの末に「ヴイアラ」としての独自のスタイルを確立していったことを考えれば、一概にそれらの「失敗」を否定的に捉えることはできないと考えています。
 私は性善説的立場から、ヴイアラ運営が「MQ投票」の運用に対して試行錯誤を繰り返していた経緯、そしてこのシステムの(社内政治的)意義を考慮した上で、「運営が廃止したくてもできなかった代物」なのだろうと解釈しています。(詳細は後述します)

 では、なぜアイドルデビューが決まった今この記事を書いているのかと言えば、このシステムが我々プロデューサー以上に、元候補生たちを思い悩ませてしまっていた可能性があると考えているからです。
 実際のところ、彼女たちが「MQ投票」に対してどのような想いを抱いていたのかについては、想像することしかできませんが、ある時期を境に「MQ投票」に対する複雑な思いを私は感じるようになりました。
 この「MQ投票」の問題認識は、私の知る限りP間でも相当なばらつきがありましたし、その評価についても同様でした。
 しかし、この話はプロジェクトの根幹部分に触れる話題のため、ともすれば「火種」になりかねないものであったことから、中々真正面から触れることが難しかったテーマでもありました。
 運営側も独自に一年間の総括は行っているでしょうが、紆余曲折を経て様々な変遷を経た「MQ投票」についての評価は、運営側といえど難しい側面もあるでしょう。
 そのため、あれだけ候補生たちを思い悩ませた「MQ投票とはなんだったのか?」という問いに対する答えが、未だに出せないままになっているのではないか?と思ったのです。

 私はこのような状況に対して、プロデューサーとして、可能な限り彼女たちの気持ちに寄り添うためにはどうすればいいのかを、デビュー権獲得以前から常々考えていました。
 そして、そのためには、問題の根幹である「MQ投票」システムをプロデューサーの立場から総括し、「MQ投票とはなんだったのか?」という問いに答える努力をすべきではないかという結論に至りました。 
 そこで、今回私は半年間のヴイアラにおけるプロデュース活動の総括として、この「MQ投票」について、様々な角度から分析・考察していこうと思います。

3.「マンスリークイーン投票」導入の経緯

ヴイアラにおける投票とその意義

「PROJECT IM@S vα-liv(ヴイアライヴ)発表会」より

 ヴイアラにおける投票とは、盛況を誇るVTuber業界でヴイアラを特徴づける要素の一つです。
 公式配信の後編におけるアンケートや、毎日一票だけ特定の候補生に票を入れることができる「MQ投票」は、「プロデューサーが候補生の活動実績を評価する」ことにより、毎月のマンスリークイーン(以下、MQ)の座を決定するものでした。
 そして中間審査では、MQ同様四半期ごとのクオータリークイーンを決める投票が行われると同時に、候補生たちの成長を評価するための能力値投票も行われていました。
 この能力値投票は、集計後に候補生の「ステータス」へと反映され、その数値の増減をもって候補生たちの成長を測るという、ヴイアラにおける成長要素を裏付ける重要なものでした。
 このように、ヴイアラにおける投票要素とは、候補生の普段の活動とそれを通した成長を可視化するものであり、コンテンツの根幹と言っても過言ではない、かなり重要な意義を持つものでした。

「マンスリー投票」なき4月のマンスリークイーン

「PROJECT IM@S vα-liv(ヴイアライヴ)発表会」より

 さて、これまで話してきた「マンスリー投票」ですが、このシステムは、実は最初期から存在していたものではありませんでした
 勝股Pが4月の配信で行っていたMQについての説明によれば、月初の公式レッスン前半から一か月の間テーマに沿った活動を行ったうえで、成果発表を行う月末の配信でプロデューサーに評価してもらい、MQを決めるとされていました。
 アーカイブの勝股Pの説明を聞けばわかりますが、4月の初放送時にはMQを決定する要素として、まだ「MQ投票」というシステムは存在しておらず、発表されてもいなかったのです。
(画像をクリックすると勝股Pが最初の配信で行っていたMQについての説明箇所に飛べます)

 実際に4月の投票では、最初の配信を終えた「第一印象」のみを評価対象として、そのプレ投票が、期間中一回の投票だけをもって行われました。
 プレ投票ということもあってMQ報酬などはありませんでしたし、過去のツイートを調べる限り公式から特にMQ獲得のアナウンスもありませんでした。
 しかし、公式ホームページやアーカイブではしっかりとMQ獲得実績にカウントされており、4月のMQは、「MQ投票」を伴わないMQであったことが確認できるのです。

「マンスリークイーン投票」の起源とそのコンセプト

 それでは、この「MQ投票」はいつ生まれたのでしょうか?
 このシステムが発表されたのは、ヴイアラ最初の公式レッスン配信(前編)である、5月21日の配信のことでした。

【Official Lesson】アイドル育成プロジェクト vα-liv 5月前編より

 この時は珍しく配信の前半で勝股Pが登場し、「MQの基本ルール」と題されたこの画像を元に、MQ決定のフローについて改めて説明を行いました。
 この画像は4月の配信で公開されたものからほとんど変わっていませんが、先月の時点では「アイマスポータルを活用し、配信をプロデュース」とされていた部分が、「デイリー投票により活躍を審査」へと変更されています。
 この配信で勝股Pは、「毎月課題への取り組みが一番輝いていた人への投票」を行うためのものとして、投票のコンセプトを説明していました。
 ここで、初めて「MQ投票」というシステムの導入が公表されたわけです。

4.なぜ「マンスリークイーン投票」が生まれたかの考察

試験運用期間としての4,5月

 それでは、なぜこの「MQ投票」システムは4月の時点で発表されなかったのでしょうか?
 それを考察する上でまず手始めに考えるべきは、ヴイアラというプロジェクトにとって、おそらく最初の4月、5月が実質的な試験運用期間として位置づけられていたであろう、ということです。
 以下の年表はヴイアラ非公式wikiからの引用ですが、これを見ていただければわかるように、5月の最初の配信は初配信に始まり、タグ決めや収益化記念配信など、最初期ならではの配信ばかりが行われていました。

PROJECT IM@S vα-liv非公式wiki より

 これらの配信は、当然ながら新人である元候補生(以下、候補生)たちを、配信者としての環境に慣らす意味合いもあったことでしょう。
 そして、「月初」に公式レッスンの前編が行われると説明されていた発表会では、5月9日に公式番組が行われると記載されていました 

「PROJECT IM@S vα-liv(ヴイアライヴ)発表会」より

 発表会の内容から順当に考えれば、本来はこの5月9日に公式レッスンの前編が行われていたはずでしょう。(ミスなのかLIVE配信のマークが入っていないため、「公式番組」の動画を投稿しようとしていた可能性も一応ありますが)
 しかし、実際に行われたのは、公式レッスンではなく候補生たちの初コラボ配信でした。

 その後、5月18日に公式アカウントから公式レッスン前編の告知が行われましたが、そのツイート文面からは、ファン・Pたちを「大変待たせている」という運営側の認識が伺えます。

 本来月初に行われるとしていた公式レッスンの実施時期が下旬近くにまでずれ込んでいる以上、この5月18日の告知は、運営側として可能な限り早く打ち出されたものであると解釈できるでしょう。
 これらのことから、5月最初の公式配信が下旬にまでずれ込んだ背景には、候補生たちだけでなく、プロジェクト運営の都合も多分に含まれていたのではないかと考えられます。

 詳細な背景については知る由もありませんが、公式レッスンの開始時期すら確定に半月以上を要したというこのような流動性は、ヴイアラというプロジェクトにとって、4、5月の展開が試験運用期間として位置づけられていたことを示唆しているのではないでしょうか。
 そして、4月の試験投票の結果や5月の正式稼働後の反響等々をふまえ、5月以降の「プロデュース」要素、および「投票」要素について内部で検討を重ねた結果、試験的に生みだされたのがかの「MQ投票」方式だったのではないか、と考えられるのです。

「マンスリークイーン投票」導入の背景に関する考察その1

 さて、このことを踏まえて「MQ投票」が導入された背景を考察すると、色んなことがわかります。
 すべてを上げるとキリがないので厳選して3つほど挙げますが、第一に考えられるのは、レッスン成果の投票システムへの落とし込みが、そもそも難しかったという点です。

 まず、当初の勝股Pの説明では、月末の配信でプロデューサーに評価してもらう旨が示されていました。
 しかし、この評価を4月の初配信同様にポータルの投票形式で行ってしまうと、肝心の結果発表を配信内で行うことができなくなり、投票企画のエンタメ性が大きく損なわれるという問題が生じます。
 配信内で行われる投票だけでMQを決めるというのも一つの手ではあったでしょうが、それはリアタイできない、しないプロデューサーの排除とも捉えられかねない措置であり、現実的ではなかったでしょう。
 後にも触れますが、このことは4月以降唯一「MQ投票」が行われなかった12月の公式放送における、「基本的には当日のパフォーマンスを中心にMQを決めていきたい」ため、「ぜひリアルタイムで見て視聴していただければ」という勝股Pの発言からも示唆されています。

 それに、1か月という短くはない活動期間中の評価を最後の成果発表のみで結果を決めてしまうことは、普段の活動に対する候補生たちのモチベーションやインセンティブにも大きな悪影響を与える可能性がありました。
 MQ決定にあたっての理想的な展開の一つは、あえて挙げるとするなら、「各々が努力した結果成長しているけど、わずかな差でMQを獲得した(逃した)」といった、自身の努力や成長を実感できる結果を得ることでしょう。
 しかし、月末の投票ないし配信のアンケート、あるいは審査員特別賞だけでは、この普段の努力や成長「感」を視聴者に伝えることが難しくなってしまい、それらに対する評価を具体的に可視化することが困難でした
 これにより、場合によっては、候補生たちは普段の活動が評価されているという実感を得にくくなり、得票差次第では「普段の活動が無駄だった」と思わせてしまう可能性すらあったでしょう。

 まとめると、アーカイブ勢にも目を配りつつ、日々の活動をMQの評価項目に加え、公式配信のラストにMQを発表することもできる「MQ投票」というシステムは、これらの難点の多くを解決する形式でした。
 このような点を考慮すると、運営にとって「MQ投票」というシステムは、少なくとも試験運用する価値を見出せるものだったのではないでしょうか。

「マンスリークイーン投票」導入の背景に関する考察その2

 また、「MQ投票」導入の背景には、当初から実験的プロジェクトであることを隠していなかった、ヴイアラの特殊性を考慮する必要もあるでしょう。
 とりわけ、明らかにアイマス運営を取り巻く状況が変化した2023年4月以降において、ヴイアラの運営は、このプロジェクトに「未来がある」ことを、外部以上に内部に対して説得する必要があったはずです。

 アイマス運営、もっと言えばバンナムという内部からの視点でヴイアラのプロジェクトを見た場合、評価基準は単純な配信の同接数や再生数、チャンネル登録者数だけでなく、当然内部データも評価の指標に含まれていたでしょう。
 近年のアイマス運営がアイマスポータルの機能を強化していることから、少なくともアイマス運営にとっての重要な評価軸としては、「ヴイアラがポータルをどれだけうまく運用できているか」といった側面が評価の対象になっていたであろうことは、想像に難くありません。
 たとえば、ウェブページのアナリティクスには、新規訪問者数だけでなく、「再訪問者数」という、「一度ページを訪れた人がまたページを訪れた数」を示す指標があります。
 この指標は、言うなればユーザーの「熱量」をある種可視化するようなものだと思いますが、「MQ投票」の実装とは、シンプルにこの数値を押し上げるものであったと思います。

 その他にも、再訪問者数の増加は、客観的に見ても単純接触効果が期待できました。
 そのほか、ボイス販売や差し入れ企画などのポータル展開への誘導にもつながるなど、「毎日ポータルで投票させる」ことがプロジェクトにもたらすメリットは、かなり大きいと判断されていたはずです。
 このため、まずもってプロジェクト存続のための説得材料を作るために、「MQ投票」というシステムが必要であると考えられていた可能性が高いのではないかと個人的には思います。

「マンスリークイーン投票」導入の背景に関する考察その3

 また、顧客維持率という面もふまえた上で、「MQ投票」の導入は行われたのではないかと考えられます。
 あえて具体的に取り上げることはしませんが、ゲームという形式をとらないが故の「プロデュース要素の不在」について、ヴイアラに対してはコンセプトムービーの発表当初から懸念の声が上がっていました。
 厳密には、配信の視聴や配信に対するコメントはすべからく「プロデュース」とも考えられるのですが、少なくとも「MQ投票」のシステムは、目に見えてわかりやすいヴイアラ独自の「プロデュース要素」と言えるものでした。

 毎日の投票は単純接触効果による候補生・プロジェクトへの好感度増が期待できるほか、投票行動に慣れさせることにより、ヴイアラにとって最重要と言っても過言ではない、中間審査への投票誘導や投票忘れの防止にもつながっていたと考えられます。
 このように「MQ投票」は、「プロデュース要素」を強化し、四半期ごとの中間審査、最終審査への導線を引くことで、単なる「視聴者」を「プロデューサー」へと昇華させると同時に、言ってしまえば顧客離れを予防し、プロジェクトの勢いを維持しようという狙いのもとに導入されたのではないでしょうか。

小結

 以上書いたように、「MQ投票」は、ヴイアラにおける「プロデュース」要素を肉づける独自の「投票」要素、そして「成長」要素を担保するものとして、後付け的に導入されたものと考えられます。
 それは、「MQ投票」導入以前のシステムが孕んでいたリスクを解消するだけでなく、実験的側面がある先行き不透明なプロジェクトにとって、様々なメリットが期待できるものでした。
 しかしながら、散々プロデューサー間で不満が上がっていたように、この「MQ投票」システムは様々な問題を抱えたものでもありました。
 ここからは、それらについて考察していきたいと思います。

5.前期「マンスリークイーン投票」の問題点

 さて、ここまで「MQ投票」導入の経緯と、このシステムが誕生した背景について、考察をしてきました。
 しかし、この投票システムは、必ずしも完璧なものではなく、むしろ多くの問題を抱えていたものでした。
 本章では、「MQ投票」の導入当初からしばらくの間維持されていた、常時候補生たちの得票数が可視化される、いうなればオープン投票形式の「MQ投票」を『前期の「MQ投票」』とし、その問題点について考察をしていきます。

「マンスリークイーン投票」の一般的性質

 さて、「MQ投票」の問題について分析する前に、この「MQ投票」が実際に運用された時、どのような一般的性質とその傾向があったのかについて、説明しておきたいと思います。(当時のデータが確認できない部分は、一部私の記憶を頼りに書いています)

 まず、「MQ投票」の一般的性質として、「MQ投票」における得票数は、MQの選定において、単純な数字上の比率の大部分を占めていることが挙げられます。
 通常MQは、①「MQ投票」における得票数を基礎点として、②審査員特別賞による加点、③配信中に行われる視聴者投票の順位に基づく加点を行った総合得点をもとに決定されます。
 しかしながら、①の「MQ投票」における得票数が数千点単位であるのに対して、②、③で行われる加点は少ない時は数十、多くても数百点単位でしか行われていませんでした。
 このため、「MQ投票」の得票数次第では、審査員特別賞、視聴者投票でどれだけ追加点を獲得したとしても、MQを逃す可能性がありました。
 このように、「MQ投票」には、一貫してMQの選定プロセスにおける最も影響力の大きい要素であるという一般的な性質がありました。

前期「マンスリークイーン投票」の一般的傾向

 また、前期の「MQ投票」における一般的傾向としては、「候補生の配信があった日は、基本的にその候補生の得票数が伸びる」という点が挙げられます。
 あくまで体感ですが、特に盛り上がった「良い配信」をした候補生は、その日の得票数が目に見えて伸びる傾向があり、それが続いた月などは、序盤から結構な差が開くようなこともあったような印象があります(そういった投票動向について、候補生たちが配信で言及することもありました)。

 しかし、次節でも考察しますが、このような「MQ投票」の一般的傾向は、勝股Pが説明していた「毎月課題への取り組みが一番輝いていた人への投票」という、「MQ投票」のコンセプトには反しているものでした。
 すなわち、ここでは「MQ投票」のコンセプトと実際の投票行動には乖離があったことが、強く示唆されているのです。

Twitterから確認できた電音部歌枠当日の投票動向(レトラの時間当たり得票数が比較的多かった)

 また、上の画像からもわかるとおり、オープン形式で行われていた前期の「MQ投票」では、基本的に大きな票差が付くことはありませんでした
 一時的に差がついたとしても、投票が締め切られる頃に大きな票差が付いていることはあまりなく、このことはツイッター検索に引っかかる過去の投票スクショツイートを見ていても明らかです。

 まとめると、前期の「MQ投票」は、当初のコンセプトからは外れていたものの、候補生の「活動」を評価する指標として一定の役割をはたしていた側面があり、同時にその票差が大きく開くことはなかったという一般的傾向がありました。

票の平準化メカニズムの考察-「MQ投票」の根本的欠陥-

 それでは、なぜこのように候補生間の得票差がつかなくなるという、いわば「票の平準化」現象が起こっていたのでしょうか。
 票の平準化メカニズムを考察するにあたっては、まず最初に「MQ投票」の根本的な欠陥を指摘しなければなりません。
 それは、そもそも「公式課題への取り組み」が毎日行われているわけではないということです。

 より正確には、仮に候補生たちが毎日公式課題に取り組んでいたとしても、そのすべてがプロデューサーの目に見えていたわけではありませんでした。

6月公式課題とその間の候補生配信一覧(非公式wikiより)
7-8月公式課題とその間の候補生配信一覧(非公式wikiより)

 上の表を見ればわかる通り、候補生たちによる公式課題に関連する6~8月の配信は、月に1~2回だけしかありませんでした
 候補生たちがツイッターで課題への取り組み状況を報告することもありましたが、そもそも候補生全員が必ずしも毎日このようなツイートをしているわけでもありません。
 そのため、勝股Pの言うような「毎月課題への取り組みが一番輝いていた人への投票」は、基本的に不可能でした。

 このような状況は、「毎月課題への取り組みが一番輝いていた人への投票」という「MQ投票」のコンセプトを根底から揺るがし、Pたちが候補生たちの「活動」を評価するといった投票行動をとる遠因になったといえるでしょう。
 こうした混乱はPたちだけに起こっていたわけではなく、プロジェクト後半になるにつれて、しばしば候補生たちも「MQ投票」の取り扱いには苦慮している様子が見受けられました。
 このように、「MQ投票」は、そもそもそのコンセプトに即した投票が困難であるという、根本的欠陥を抱えていたのです。

票の平準化メカニズムの考察ー浮動票と「箱推し」Pの存在ー

 さて、上述した「MQ投票」の根本的欠陥は、コンセプトに従う限り、「投票先がない」という事態をしばしば引き起こすことになります。
 しかしながら、実際には配信やツイッター上で公式課題への取り組み実績報告や、あるいは一切の活動が確認できないような日であっても、票数は増加し続けていました

 こうした票の動きを検討すると、一つの可能性として、「特定の候補生を特に応援する人が、活動内容に関係なく常に毎日特定の候補生に票を入れている」、という仮説を考えることができます。
 しかしながら、このような仮説だけでは、票の平準化現象を説明することは困難です。
 もちろん、性善説的に考えれば、票の平準化現象が偶然起こる可能性は否定できませんが、それが数か月もの間続くというのは考えにくいでしょう。
 そこで、詳細な検討は省きますが、本稿では、票の平準化を引き起こしていた、「投票対象が存在しないことにより行き場をなくした一定数の浮動票」が存在していたと仮定して考察を進めていきます。

 ここで私が着目したのは、いわゆる「箱推し」Pの投票行動です。
 一般にヴイアラの候補生たちは、9月を境に急成長していったと言われています。
 そのため、私の感覚になりますが、特に前期の時点では、まだ特定の候補生を特に応援するというよりも、三人を平等に応援したいと思う、「箱推し」Pが多数居た印象が強いです。
 このことは、二回目の中間審査以降投票可能数が、3票から4票に変更された際の勝股Pの説明からも示唆されています。

 勝股Pによれば、「前回の投票だったりとか、プロデューサーの皆さまからの声」を受けてこのような変更を行ったとのことですが、これは前述したような、「箱推し」Pの存在を念頭に置いた仕様変更であると考えられるでしょう。

 では、このような「箱推し」Pの存在を前提とした時、先述した「MQ投票」の浮動票はどのような動きを見せるでしょうか?
 前期の「MQ投票」がオープン投票であったことをふまえれば、「箱推し」Pの投票行動には、強いアンダードック効果が働いていたと考えられます。
 言い換えれば、この浮動票は、候補生間の票差を縮小するため、その時々で票数の少ない候補生に対して投じられていたことが推察できるわけです。

 このように、私は、「MQ投票」の根本的欠陥に起因する浮動票の存在と、「箱推し」Pの投票行動がもたらすアンダードック効果が、前期の「MQ投票」には候補生間の得票数差を縮小させていた、票の平準化現象のメカニズムなのではないか?と分析していました。

前期の「マンスリークイーン投票」が抱えていた問題とはなにか

 さて、ここまでの考察では、「MQ投票」の根本的欠陥を指摘し、それが前期の「MQ投票」における票の平準化現象をもたらしていたのではないか?と考察してきました。
 しかしながら、結局のところ前期の「MQ投票」が抱えていた問題とは、なんだったのでしょうか。

 まず一つ言えるのは、毎月の公式課題への取り組みが、必ずしもMQに反映されなくなってしまう点です。
 これまでの考察では、「MQ投票」における投票には

①公式課題への取り組みが一番輝いていた人への投票

というコンセプトに基づいた投票のほかに、

②コンセプトから外れた(公式課題とは直接関係のない活動を評価した上での)投票
③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票
④「箱推し」Pによる票の平準化メカニズムに基づく投票

という三つの投票パターンの存在を指摘してきました。
 全体の総得票数に対して、これら4つのパターンに基づく投票が、それぞれどれくらいの割合で行われたのかは知る由もありません。
 しかし、少なくともMQを決定するうえで、極めて影響力が大きい「MQ投票」の結果に、公式課題とは関係のない要素が多分に含まれているという状況は、本来のコンセプトであったはずの「公式課題への取り組み」への評価が、必ずしもMQに反映されていないことを意味しています。

 また、「MQ投票」において得票差があまり生まれないという状況それ自体も、「MQ投票」が抱えていた問題であるといえるでしょう。
 「MQ投票」によって得票差が生じないという状況は、実質的に審査員特別賞と配信の視聴者投票のみによってMQが決定されていることを意味します。
 仮にこの「MQ投票」がコンセプト通りに機能していたのであれば、このような状況は特に問題がなかったでしょう。
 しかし、これまで議論してきたように、前期の「MQ投票」は、候補生同士の努力や競争以外の様々な要因によって、「結果的に平準化されている」といっても過言ではありませんでした。
 すなわち、前期の「MQ投票」は、MQの決定プロセスにおいて、事実上半ば形骸化しているような状態でした。

 このような「MQ投票」の形骸化は、月によって審査員特別賞やユーザー投票による追加点が、これといった基準もなく変化していたことによっても促進されました。
 これらから、前期の「MQ投票」は、各候補生の総得票数の平準化による、「MQ投票」それ自体の形骸化という、致命的な問題を抱えていたといえるでしょう。

6.後期「マンスリークイーン投票」における問題の本質とはなんだったか

 さて、ここまで私は、前期の「MQ投票」が抱えていた問題の構造を分析・考察してきました。
 不十分なデータと憶測に基づく不完全なものですが、少なくとも一定程度の妥当性があるのではないかと自負しております。

 ところで、前期の「MQ投票」を繰り返し実施したのち、ヴイアラ運営は投票形式の調整をしばしば行うようになります。
 具体的には、これまでオープン化されていた投票期間中の得票数を、一定期間、あるいは全期間を通して非公開にするといった調整を行っていました。
 最終的に「MQ投票」は、投票期間を通して完全に得票数を非公開化する形で落ち着くことになりました。(以降、この非公開形式で行われた「MQ投票」を、移行期間におけるものも含めて『後期の「MQ投票」』と呼称します。)

 このような投票形式の調整が行われたということは、詳細なデータを有し、より正確な分析を行っているはずの運営の目線からも、前期の「MQ投票」に対してなにかしら改善すべき点があると認識していたことを示しているでしょう。
 しかし、運営によって行われた「MQ投票」の調整は、その本質的な問題を解決するものではなく、むしろ新たな問題を引き起こすものでもありました。
 本章では、「MQ投票」の抱える構造的欠陥や問題点を、恐らくは誰よりも認識していたはずの運営が、なぜこのような調整を行ったのかについて検討し、その結果引き起こされた新たな問題について考察していきます。

ヴイアラ運営による調整―運営側から見た問題点―

 様々な問題を抱えていたと論じた前期の「MQ投票」でしたが、実験的プロジェクトを運営し、「成功」させなければならない運営にとっての問題認識は、ユーザー側とはまた違っていたことがまず考えられます。
 それでは、得票数の非公開化という調整を行った、ヴイアラ運営による前期の「MQ投票」の問題認識とはどのようなものだったのでしょうか?

 ここで、客観的な事実として、「MQ投票」の絶対数が減少していた点を指摘することができます。
 「MQ投票」を繰り返す中で、当時のPたちは感覚的に、「票がならされる」現象を感じ取っていました(当時のツイートを検索すれば、票の平準化を指摘する投稿が複数確認できます)。
 しかし、途中で差が付いたとしても、「箱推し」Pたちの浮動票によって終盤に票がならされるのであれば、「特定の候補生を応援するPによる毎日投票」だけでなく、コンセプトに即した投票の意味も薄れていってしまいます。
 このような状況は「MQ投票」のモチベーションを低下させ、実際に6~8月期の「MQ投票」の総得票数は、実施期間の長短はあれど、おおむね停滞か減少傾向にありました。

2023年6~8月期の「MQ投票」得票数

 特に問題だったのが、6-7月期の運営方針転換により電音部歌枠などが行われるようになり、新たなファン層を開拓した結果、公式チャンネルの登録者数が大幅に伸びたにもかかわらず、得票数が伸び悩んでいた点です。

https://virtual-youtuber.userlocal.jp/user/D90B36E9D7EE1659_135762の過去データから筆者作成
(実数からの測定ではないため、あくまで大まかなトレンドの変化を捉える用)

 もちろん、投票動向の変化は、実施されている公式企画の内容に左右されますし、「チャンネル登録者数の増加が投票数の増加に繋がらなかった」可能性も考えられます。
 しかし、チャンネル登録者が大幅に増加した6-7月期の総得票数が停滞し、8月期の投票総数が(投票期間が短かったとはいえ)減少していることからは、「これまで投票していた人が次第に投票しなくなっている」というトレンドの変化が示唆されているのです。

 さて、本稿の前半では、ヴイアラ運営が「MQ投票」を導入した背景についていくつか考察しましたが、考察その2とその3において、私はバンナム内部に対しての説得材料としての側面と、顧客維持の側面について指摘しました。
 これら2つの側面を考えると、同時期における投票の絶対数の減少は、当時のヴイアラ運営にとって、プロジェクトの存続に直結するかなりの死活問題であったはずです。
 このことから、当時のヴイアラ運営にとっての至上命題は何よりも投票数の増加、より具体的にはユーザーの投票への誘導であり、これが前期の「MQ投票」の調整における問題認識の中心であったと考えられるのではないでしょうか?

「マンスリークイーン投票」得票数非公開化の意図に関する検討

 私の考察に基づけば、10月以降のヴイアラ運営による段階的な得票数の非公開化は、前述したような問題認識に基づく投票数の増加を目的としたものであったことになります。
 特に、電音部歌枠後の「MQ投票」の総得票数の伸びが一定程度に止まったことを考えれば、投票者数の増加よりも、既に投票に参加しているコア層の投票頻度を高めることが重要でした。

 しかし、なぜヴイアラ運営は、「MQ投票」における得票数の非公開化が、投票数の増加に繋がると考えたのでしょうか。
 得票数の非公開化によって前期の「MQ投票」から変化する点は、「候補生の得票数が一切わからなくなる」という一点だけです。
 ここで先の考察に立ち返ると、私は前期の「MQ投票」には、公式課題への取り組みが一番輝いていた人への投票というコンセプトに基づいた投票のほかに、

コンセプトから外れた(公式課題とは直接関係のない活動を評価した上での)投票
特定の候補生を特に応援する人による毎日の投票
「箱推し」Pによる票の平準化メカニズムに基づく投票

という三つの投票パターンが存在していたことを指摘しました。
 この中で、得票数の非公開化によって影響を受けるのは、「「箱推し」Pによる票の平準化メカニズムに基づく投票」だけです。
 すなわち、ヴイアラ運営によるこの調整は、明らかに「箱推し」Pによる得票数のならし現象、すなわち票の平準化メカニズムを破壊し、「MQ投票」することを企図したものであったと考えられるわけです。

 先に指摘したとおり、ヴイアラにおける「MQ投票」とは、本来MQの選定プロセスにおいて、最も影響力の大きい要素であるという一般的性質を持っていました。
 前期の「MQ投票」は平準化メカニズムの存在によって形骸化していましたが、このメカニズムが崩れ、票差が生まれる下地が出来上がったことで、投票の価値は増大し、「MQ投票」は本来の影響力を回復することになりました
 そして、自分の担当アイドルのMQが「MQ投票」によって大きく左右されるという状況は、競争原理の作用によるさらなる得票数の増加も期待できるものでした。

得票数の非公開化は投票数を増加させたのか?

 こうしたヴイアラ運営による得票数の非公開化は、「MQ投票」の性質を大きく変えることになりました。
 後期の「MQ投票」の評価はプロデューサーによって大きく異なっていた印象ですが、人によっては、この調整の「功罪」のうち、「罪」の部分が大きかったと理解している人も少なくはありません。

 しかし、ここまでの議論で私は、「少なくとも運営の至上命題として、得票数の増加があったのではないか?」という考察を行ってきました。
 そこで、本節では後期の「MQ投票」が孕んでいた問題点を分析する前に、この調整の「功」の部分にあたる、「得票数の非公開化は投票数を増加させたのか?」について検証を行っていこうと思います。

 さて、データが欠けている部分も多いですが、以下は9月以降の「MQ投票」の総得票数の推移をまとめた表です。

2023年9月~2024年2月期の「MQ投票」総得票数(過去アーカイブから筆者作成)

 表を見る限り、9月に前回の8月から2倍近い得票数の伸びを見せ、その後票数が大幅に減少した後、10月から2月にかけては緩やかに総得票数が伸びていったことが確認できます。
 この9月中の得票数の大幅な増加には、①8月末に開催されたTGSにおける露出のブーストと、②ヴイアラ公式番組におけるアイマスおじさんずの出演、および春香の特別審査員としての参加という二つの要因が作用していると考えられます。
 そのため、9月期にみられた得票数の急増は、一定程度割り引いて数字を見る必要があるでしょう。

 また、「なし」とされている12月は、前半でも触れたダンスがテーマの月であり、4月以来初めて「MQ投票」が行われない月となりました。(その代わりに、候補生のダンス動画のシェア数を競い合う形になりました)
 そして、1月は私の調べる限り「MQ投票」の得票数が公開されなかった月でした。
 最終的なポイント数は公表されたものの、得票数が完全非公開であったことに加え、加算されるポイントも非公開データであったため、大まかにしか総得票数を類推することができませんでした。

 この表に加えて、以下に示す9月以降のヴイアラ公式チャンネルの登録者数の推移のグラフを参照してみます。

https://virtual-youtuber.userlocal.jp/user/D90B36E9D7EE1659_135762の過去データから筆者作成(空白部分はデータ欠如。
実数からの測定ではないため、あくまで大まかなトレンドの変化を捉える用)

 「MQ投票」の総得票数においても9月は特筆すべき票数の増加が見られていましたが、このように9月中は大幅にチャンネル登録者数が伸びていることがわかります。
 ヴイアラ公式チャンネルの登録者数が大幅に増加したのは、それまでの運営方針を転換して歌枠などを行うようになった6-7月期と、この9月期のみです。
 この二つの時期がヴイアラにとってかなり特別な月であったことは、このグラフからも窺えます。

 しかしながら、このグラフで重要な点は、10月から12月にかけて公式チャンネルの登録者数が減少しており、12月以降も緩やかな増加にとどまっていたことです。
 後期の「MQ投票」の結果と併せて考えれば、これは10月以降の「MQ投票」における総得票数の増加が、投票者数の増加ではなく、既存ファン層の1人あたり投票率の増加によってもたらされたことを意味しています。
 すなわち、得票数の非公開化という後期の「MQ投票」における調整によって、少なくともヴイアラ運営にとっての史上命題と目される得票数の増加は達成できていたのです。

後期「マンスリークイーン投票」における浮動票の動向

 さて、前節では後期の「MQ投票」がもたらした「功罪」のうち、「功」の部分について検討してきましたが、私はあくまでこのシステムが「必要悪」であったと認識しているだけで、決して肯定的には評価していません
 むしろ、私は大多数のヴイアラPと同様に、後期の「MQ投票」については否定的に見ていますし、その「功罪」における「罪」の存在は否定しようがないと思っています。

 しかし、私の見る限り、この「罪」の部分についてもプロデューサー間の認識は様々で、かなりばらつきがあったように思います。
 そこで、本節では私なりに後期の「MQ投票」が抱えていた本質的問題とは何だったのかについて考察していきます。

 まず、票の平準化システムが崩れ、票のならしがなくなった後の投票行動について検討してみたいと思います。
 前節で示した得票数の推移を見る限り、前期の「MQ投票」において存在していた浮動票は、後期においても消滅することなく残り続けていることが確認できます。
 それでは、それまで存在していた浮動票はどこへ行ったのでしょうか?

 ここで、以前取り上げた

①公式課題への取り組みが一番輝いていた人への投票
②コンセプトから外れた(公式課題とは直接関係のない活動を評価した上での)投票
③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票
④「箱推し」Pによる票の平準化メカニズムに基づく投票

という4つの投票パターンについて再び考えてみると、票の平準化システムが崩れたことにより、浮動票にあたる④の投票パターンに基づく投票が、①~③の投票パターンに配分されたと考えられます。
 それでは、それらの票の比率はどのようなものだったのでしょうか?

 ①、②、③の3パターンのうち、③に流れた割合については類推することしかできません。
 しかし、①、②に関しては、「MQ投票」の根本的欠陥であると指摘した、「MQ投票」のコンセプトに基づく「毎月課題への取り組みが一番輝いていた人への投票」の余地がどれだけあったかを検討することで、①と②に流入した浮動票の比率については検討することができるでしょう。

 以下は、10~翌年2月までに実施された公式課題と、それらの「MQ投票」のコンセプトに基づく投票のしやすさについての個人的評価を表にまとめたものです。

筆者作成

 表に示される通り、実は10月、11月の公式課題は、おおむね普段の活動を評価対象としたものであり、一年を通して最もコンセプトに基づく「MQ投票」を行いやすいものでした。(話はそれますが、運営によるこの課題設定は、公式が「MQ投票」の抱えていた根本的欠陥を認識しており、それに対応したものだったのではないかと個人的には考えています。)

 一方で、12月以降の公式課題はほとんどの場合コンセプトに基づく投票が困難な内容であり、むしろコンセプトからの乖離が進んでいました。
 これらから、後期の「MQ投票」が合理的に行われたと仮定すると、後期の「MQ投票」において流入した浮動票の比率は、10月から11月にかけては②より①、12月以降は①より②のほうが高かったものと考えることができます。

後期「マンスリークイーン投票」における投票トレンドの変化

 また、後期の「MQ投票」の問題を考えるうえでは、前期に存在していた浮動票の動向のみならず、得票数の非公開化による投票トレンドの変化自体についても考察しなければなりません。

 ここで着目したいのが、後期の「MQ投票」では票の平準化システムが壊れたことで、MQの決定プロセスにおける「MQ投票」の価値が増大し、競争原理が働くようになった点です。
 票の平準化メカニズムについての考察において、私は前期の「MQ投票」を実施していた時期は、「三人を平等に応援したいと思う、「箱推し」Pが多数居た」ことを指摘しました。
 しかし、それはあくまでヴイアラの候補生たちがまだまだ未熟だった時の話であり、9月を境に候補生たちが急成長していったことで、後期の「MQ投票」が実施されるようになった時期においては、「箱推し」であることは変わらなくとも、特定の候補生を特に応援するPが増える傾向にありました
 これは定量化できない変化ですが、少なくともそのような変化が生じる土壌が存在していたことについては、プロデューサー間で合意ができると思います。

 さて、このような状況における投票行動は、どのように変化すると考えられるでしょうか? 
 厳密に言えばこの理論を当てはめるのは適切ではないのですが、わかりやすく説明するため、ここではゲーム理論における「囚人のジレンマ」ゲームに当てはめて考えてみようと思います。(参考)

 後期の「MQ投票」におけるゲームでは、ヴイアラPによる①公式課題への取り組みが一番輝いていた人への投票か、②コンセプトから外れた(公式課題とは直接関係のない活動を評価した上での)投票に基づく公平な(恣意的でない)投票結果によって、自分の推し・担当候補生のMQ獲得を祈る行動を、全体の利益の追求、すなわち「協力」の選択肢であると位置づけます。
 そして、逆に③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票によって、自分の推し・担当候補生のMQ獲得を図る選択を、個人の利益の追求、すなわち「裏切り」の選択肢であると位置づけます。

 投票者はプロジェクトとして「協力」の選択肢が望ましいと考えていても、お互いの投票行動を知ることができない「不完全情報ゲーム」においては、常に「相手」(ここでは自分の推し・担当以外のP)の「裏切り」の選択肢を警戒しなければなりません。
 その結果、どの候補生のPにとっても、「裏切り」を選択することが最適な選択になってしまうのです。

 繰り返しになりますが、上記の思考実験は不完全な状況設定による参考程度のものでしかありませんし、「協力」の選択を行ったプロデューサーが一定程度居たことを否定するものではありません。
 しかしながら、合理的な投票行動のモデルとしてある程度の妥当性を有しているとも考えられ、後期の「MQ投票」に存在していた投票トレンドの変化を、ある程度は表せているのではないかと個人的には考えています。
 このように、後期の「MQ投票」には、前期の「MQ投票」において存在していた④に基づく投票を行っていた「箱推し」Pだけでなく、前期において①、②に基づく投票を行っていたPまでも、③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票を行う動因が存在していたと考えられるのです。

 また、このような傾向を強めるもう一つの問題として、MQの決定プロセスにおける「MQ投票」の票の案分の問題が挙げられます。
 前期の「MQ投票」の問題点に関しての考察でも指摘しましたが、ヴイアラのMQ決定プロセスには、月によって審査員特別賞やユーザー投票による追加点が、これといった基準もなく変化していたという問題がありました。
 この問題は、票の平準化システムが機能していた前期の「MQ投票」においてはあまり深刻ではありませんでしたが、このシステムが崩壊し、MQ決定プロセスにおける重要性が増した後期の「MQ投票」では、深刻な問題となっていました。
 というのも、「MQ投票」における得票数は、MQの選定において単純な数字上の比率の大部分を占めているがゆえに重要であるにもかかわらず、「MQ投票」の結果生じた票差を埋め合わせるような形で、審査員特別賞とユーザー投票による追加点が増減したためです。

 運営の意図は推し量れませんが、このような恣意的な追加点の操作は、少なくとも名目上はコンセプトに即したものとされている「MQ投票」の結果を無意味化するに等しいといえるでしょう。
 このような状況に直面したユーザーの行動は、③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票を行う動因が存在していたことをふまえれば、「このような追加点の操作を上回るほどに票差をつける」といった行動へ向かうことになったと考えられます。
 すなわち、上に示したような投票トレンドの変化をさらに促進する結果をもたらしたと考えられるのではないでしょうか。

後期「マンスリークイーン投票」の本質的問題とはなんだったか

 さて、ここまで後期の「MQ投票」における功罪の「罪」の部分についての考察を進めてきましたが、最後にまとめとして、後期「MQ投票」が抱えていた本質的問題とは何だったのかについて考察していきたいと思います。

 まず、後期の「MQ投票」における投票動向の変化をまとめると、③特定の候補生を特に応援する人による特定の候補生への投票を行う動因が基本的にもっとも強かったといえます。
 そして、時間の経過とともに①公式課題への取り組みが一番輝いていた人への投票から②コンセプトから外れた(公式課題とは直接関係のない活動を評価した上での)投票へと優位が変化した、ということになるでしょう。
 この変化を前提に、もう一度先の「囚人のジレンマ」ゲームを考えてみようと思います。

 通常、「囚人のジレンマ」ゲームにおける得失点は一定であり、プレイヤー全員が「裏切り」を選択した際に、得点差が生じることはありません
 しかし、後期の「MQ投票」が「囚人のジレンマ」ゲームと大きく異なるところは、プレイヤー全員が「裏切り」を選択した場合、得点差が生じてしまう点にありました。

 わかりやすいように、「候補生全員がある月において全く同じだけの努力をした結果、投票パターン①と②において全く同じ数の票を獲得した場合」を考えましょう。
 この場合、「MQ投票」における得票に、本来であればほとんど差は生じないはずです。
 しかし、③のパターンに基づく投票が優位な後期の「MQ投票」においては、このパターンに基づく投票数に応じて、得票差が生じることになるのです。

 それでは、この③のパターンに基づく投票とは具体的にどのようなものだったのでしょうか?
 これは、基本的には各候補生のチャンネル登録者による数票程度の散発的な投票と、登録者の中でもとりわけ熱心なファン・P層によって行われていた「毎日投票」によって構成されていたと言えるでしょう。

 ファンの熱量は定量化できるものではありませんし、投票のし忘れなども往々にして考えられるので、ここではチャンネル登録者の中で散発的な投票を行っていた層と、「毎日投票」を行っていた熱心なファン・P層の割合が、それぞれ同一であったと仮定します。
 この場合、③のパターンによって得られる得票数とは、ほぼ「各候補生のチャンネル登録者数」によって決定されてしまいます
 すなわち、③のパターンが優位性を保持していた後期の「MQ投票」には、各候補生が同じだけの努力を行ったとしても、その結果がチャンネル登録者数によって左右されてしまう、パワーゲーム的側面が存在していたといえるのです。

 もちろん、現実には散発的な投票や「毎日投票」を行っている人の数や割合は、それぞれ異なっていたでしょう。
 ですが、ここで問題なのは、本来MQに影響を及ぼさないはずのチャンネル登録者数が、システム上、MQを決定するうえで重要な要素となってしまっている点です。
 これは、「MQ投票」におけるコンセプトからの乖離よりも、はるかに深刻な問題をもたらしていました。

 本来チャンネル登録者数とは、ファン獲得のため候補生たちが日々行っている活動の努力・工夫の成果を示す指標に過ぎず、MQとは直接の関係がない指標のはずでした。
 しかしながら、後期の「MQ投票」では、前述のとおり、チャンネル登録者数(=獲得したファン数)が、システマチックに「MQ投票」へ一定以上の影響を与えてしまうという状況を生じさせることになりました。 

 チャンネル登録者数(=獲得したファン数)が「MQ投票」に影響を与えてしまっているという状況は、これまでファン獲得のために行ってきた努力とその成果の価値を毀損するだけでなく、その後のアイドル活動における無形のプレッシャーとして作用することになったでしょう。
 このように、後期の「MQ投票」において生じた変化は、「MQ投票」におけるコンセプト乖離の問題を深刻化させ、私の理解によれば、候補生たちが「MQ投票」の位置づけを半ば見失う状態にまで陥らせてしまいました
 その結果、本来喜ぶべき「MQ投票」における勝利を、素直に喜べないという事態すら引き起こされてしまったのです
 後期の「MQ投票」は様々な問題を抱えていましたが、こういった候補生の全般的な活動のモチベーションに大きな悪影響を与えてしまった事象こそが、後期の「MQ投票」が抱えていた本質的問題だったと言えるのではないでしょうか

7.「マンスリークイーン投票」の総括

考察のまとめと「ヴイアラの」プロデューサーとしての総括

 以上、候補生時代の「MQ投票」についての考察を全面的に行ってきました。
 長くなりましたが、ここまでの議論をまとめると、以下のようになります。

 まず、冒頭でも述べたように、「MQ投票」自体はプロジェクトの進行・存続の上で様々な意義があるものでした。
 そのため、昨今のバンナムにおけるアイマスの地位を加味して、ヴイアラが置かれているバンナム社内における立ち位置を考えると、「MQ投票」システムは、コンセプトと実態の乖離といった様々な問題を抱えていたにもかかわらず、容易に廃止することができないものと言えました。

 後期の「MQ投票」において行われたヴイアラ運営による調整の主眼は、基本的には停滞しつつあった「MQ投票」の活性化にあったと考えられ、そのためシステムの廃止や抜本的な変更が行われることはありませんでした。
 一方で、後期の「MQ投票」における運営の試行錯誤は、「MQ投票」が抱えていた様々な問題を運営自身も認識していたことを示唆しており、それは、ヴイアラ運営が「MQ投票」の停滞問題を深刻視していたことを逆説的に示すものとも考えられました。

 しかし、このような事情があったとしても、ヴイアラ運営による「MQ投票」の調整がもたらした弊害は、無視できないものであったと言えます。
 後期の「MQ投票」における投票トレンドの変化は、候補生全員が同程度の努力を行った場合、本来は普段の活動における努力や工夫の成果を示す指標に過ぎなかった、チャンネル登録者数(=ファン数)の多寡によってMQがほぼ決定されてしまうという、MQシステムの歪みを露呈させました。
 これにより、候補生が「MQ投票」の位置づけを半ば見失うという、前期の時にすら生じなかった事態を引き起こすだけでなく、チャンネル登録者数の増加に繋がる普段の活動にプレッシャーを与えることにもなりました。
 この二つの事象は、後期の「MQ投票」が抱えていた本質的問題であったと言えるでしょう。

 ですが、冒頭で述べた通り、私は基本的に性善説的立場に立って、ヴイアラ運営が常に最善を尽くそうと努力してきたと理解していました。
 そのため、私はヴイアラ運営が「MQ投票」を廃止しなかった以上、ヴイアラにとって「MQ投票」は、なくてはならない必要悪だったのだろうと考えています。
 冒頭でも述べましたが、これが私の「ヴイアラの」プロデューサーとしての立場からの「MQ投票」の総括となります。

「アイドルの」プロデューサーとしての総括

 しかし、だからといって、それによって生じた諸問題を全肯定するつもりもありません。
 それはなぜかと言えば、6章で考察した後期の「MQ投票」の弊害は、「MQ投票は必要悪だった」という一言で済ませられないほどに、候補生たちの活動に悪影響を及ぼしていたと考えているからです。
 問題の性質上、誰にも本心を晒せないままに思い悩んでいた時期もあったんじゃないでしょうか。
 そのことを考えるだけで私は心苦しくなり、プロデューサーとしての贖罪意識のままに23000字もの長文を書き上げてしまったほどです。

 ここで、「アイドルの」プロデューサーとしての総括として強調しておきたいのは、特に後期の「MQ投票」は、MQ決定フローにおける要素としては大きな欠陥を抱えていたかもしれないが、そこで得た得票数は、間違いなく候補生個々人の活動の成果であったという点です。
 後期の「MQ投票」における得票数を誇ることも、喜ぶことも難しくなってしまったほぼすべての原因は、「MQ投票」のシステムに集約されます。
 問題があったのはあくまでシステムであったという事実は、後期の「MQ投票」によって得られた結果に偏りが生じていたとしても、それが候補生個々人の成果や努力を毀損するものでは決してないことを意味しています。

 たとえば、後期の「MQ投票」に大きな影響を与えていたチャンネル登録者数(=ファン数)にしても、極力候補生たちの配信活動量が平均的になるよう調整されていたことを考えれば、その数において生じる差とは、積み重ねてきた公式レッスン等を経た上での個々人の成長や、SNS運用における工夫といった努力の成果によって生じたものであったということができます。
 また、ファン・Pの熱量の向上施策や、投票の呼びかけ、リマインドといった細かな工夫が、自身の得票数の増加につながったとしても、本来であればそれは、純粋な活動成果の表れであり、誇りこそすれ、後ろめたさを感じるようなものでは決してなかったはずです。

 たしかに、後期の「MQ投票」は、6章で議論したような様々な問題を孕んでいました。
 しかし、その得票数自体は、少なくとも自分のそれまでの活動と努力の成果を示すものであり、誇り、喜ぶべきものであったというのが、私のアイドルのプロデューサーとしての立場からの「MQ投票」の総括です。
 そして、後期の「MQ投票」の結果を素直に喜ぶのは困難だっただろうと思いますが、少しでも肯定的に捉えてほしいというのがプロデューサーとしての個人的な想いです。

8.おわりに

 いやはや、正直候補生が読むことは全く想定していないような内容と文章量になってしまいました。
 加筆修正を繰り返したので読みにくい部分があるかもしれませんが、同じわだかまりを抱える同僚の皆さまの吐き出せないもやもやを、言語化する助けに少しでもなれば幸いです。
 本稿の内容をふまえて昨年度一年間を振り返ると、とてもじゃありませんが「終わり良ければすべて良し」などとは言いたくなくなってきます。
 元候補生の三人には、なんどでも「一年間お疲れさまでした」と声をかけてあげたいですね……特に宇宙には。

 さて、アイドルデビュー配信で「MQ投票」に類する施策が発表されなかった時は、大いに安堵しました。
 しかしながら、勝股Pの発言を聞く限り完全廃止とはなっていない模様です(その背景は、先に考察した通りです)。
 私は本稿で散々議論してきた通り、候補生時代に行われていた「MQ投票」を継続することには反対でしたが、個人的には投票・競争企画自体には全反対というわけではありません。
 むしろ、本稿で論じたような問題点を解消でき、ヴイアラとしての活動に過度な制約やプレッシャーをもたらすものでなければ、何かしらの投票・競争施策を講じてもいいのではないかと思っています。

 本稿を執筆した目的は第一にプロデューサーとしての義務感からですが、第二にはヴイアラ運営による今後のプロジェクト展開に資するような文章になることを意識して書いております。
 根拠薄弱な考察が多く、事実誤認も多々あるかと存じますが、本noteが多少なりともヴイアラの発展に寄与できれば幸いです。

 勝股Pを筆頭とするヴイアラ運営スタッフの皆さま方も、お疲れさまでした。
 そして、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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