口伝の二刀流
男の脳裏に師匠の声が蘇る。「我が流に二刀流あり」ーー目録受けた頃だった。吹けば飛び門人も無き「杖術」に何で刀の型が有るのかと。頭の中をハテナがマイムマイムを始めた頃、漸く教授が始まった……
まさかまさかの暴漢2人。ナイフを構える姿が決まっている。手元にあるのは自家製柳生杖。もしかして杖を持つから老人と誤解されたか……マスクに帽子の新コロファッションは罪深い。俺はこう見えてまだごじゅう……やめた。確かに老人か。
2人は無言で距離を詰める。帰る道すがらのススキがたな引く空き地の遊歩道。街灯は遠く月は近い。物取りにしては物騒だ。2/15だからといって全ての老人が年金もらっている訳じゃない。
乾いた夜風が頬を撫でると、申し合わせたかの様に2人が振りかぶる。両手で杖を水平に構えて自然体。
二刀流、それがこの技だ。合気の二人掛けに似て同時2人の攻撃を捌き制圧する技だ。左が突けば右は引き、どちらも相手の獲物を受け流しながら手首を絡め取る。鉄の心金を仕込んだこの杖は思いの外固く、重い。声にならない悲鳴を挙げる2人がくるりと回るとうつ伏せに倒れ、両者の首筋に漆塗りの杖が置かれて男が杖に体重を掛ける。懐からスマホを取り出し柳田君へと繋ぐ。
「あー、もしもし。長谷だが。暴漢が採れたので逮捕お願いします。調書は面倒だからキミが捕縛した事にしてくれると助かるんじゃが……」
流石に怒られた。
(600文字)
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