機甲シン・ゼロ 第一話
城北大学シキシマラボ。
かつてIQ600の超天才を輩出した科学の城。T京都I橋区にある大学構内の温かな日差しが差し込むその場所に、後に人類の反逆者と称される俊英の姿があった。
「超合金Zの名は譲れない」
「フェイズシフトでインチキ変形するんだからこれは確定的にゲッターだ!」
「マジンガーだって関節構造インチキだぞ?! 漫画関節舐めんな!」
「ダイナミックプロマニアは面倒じゃのぅ……」
「お前、ケン・イシカワの墓前で同じこと言えンのか?」
結局フェイズシフトナノテクゲッターZ合金……論文が長過ぎてやはり学会で非難轟々となり、PNGZ(ぴーえぬじーぜっと)と呼ばれて「語呂が悪い」と難癖が付き、いつしか非公式に「超合金」と呼ばれてバンダイと深刻な問題を引き起こす事になるのだが……それはまた後日の話である。
最先端科学の場には手塚や石ノ森、横山の子供達が山ほどいる。彼らは幼き日に見たアトムや鉄人、サイボーグ009に憧れて、憧れ続けて夢を現実にしてきた大きなお友達である。DNAは違えども精神は実際巨匠達の子供であり、ここシキシマラボに在籍する若き俊英……のフリをした大きなお友達もまた、ダイナミックプロに魂を捧げて些か変な所を走り抜ける天才である。
前述のフェイズシフト(以下略)は種田博士(ラボ内ではシキシマ博士と呼ばないと振り返りもしない)がバンダイ辺りに売れないかなーと無駄に最先端の更に256歩先を歩む素材工学の粋を集めて構築した超合金である。金属内部のエネルギーを相転移させる事で自由な変形と剛性を兼ね備える……これで永井メカの完全再現をしようと試みたが「それだけでは」機構制御が十分には行えず、富野のイデオナイトからナノテク利用のアイデアを頂戴し、エネルギーとしてゲッター線「の、様なもの」を添加し、なんでジャパニウムにしなかったんだと怒りを露わにしながらニホニウムを加えて完成させた奇怪な物質である。
そしてラボのメンバーは恐るべき事に気付いてしまう。自由に変形して剛性をコントロール出来るこの金属、アクチュエーターにもなれば装甲材にもなり、超合金ロボット……ポピニカやバンダイの超合金魂ではなく、18m超級の戦闘ロボを作る基本構造に流用できる……文字通りに超合金だったのだ!
頭がダイナミック過ぎて理性が異次元に到達した彼らは、東武練馬駅近くの飲み屋で祝杯を上げた。そしてそれは酒飲み話で終わる筈だった。
そこに某総理大臣に居酒屋を教えられてマニアになり、お忍びでやってきたジャンクフードが大好物の某大統領が居なければ。シークレットサービスとべいぐ…某国国防総省の武官と、たまたま近いからと練馬の駐屯地から来たじえ…J官が居なければ。
酔っ払ったMAD三兄弟、カブト、サオトメ、ナンブ(それぞれ林と田中と中島だが、本人たちのたっての希望で本名は今後一切登場しないので覚える必要は無い)がPNGZの話を居酒屋で大放談して「ロボットが実用化されたらライトニングIIなんてコロイチよ!」と叫んだ言葉が大統領の耳に入った。果断過ぎる判断とTwitterでの放言が注目されがちな彼ではあるが、その実彼は愛国心や自国への自負心が強い。強過ぎる愛国心が故に色々滑るという側面も少なからずある。そして日本語ネイティブなら良くあるアニオタの話と喝破出来たが、不幸にも彼は日本語には不慣れで漸く好物のエイヒレを覚えたばかりである。彼にはがっし……我が国が誇る超絶イカしたF-22がポンコツ扱いされて、ロボットに劣るというニュアンスしか伝わらなかった。
気さくに「何事か? どういうことか?」と問う大統領閣下を前に、シキシマは胸を張って酩酊したままこう答えた。
「じすいずシキシマ。ざ、べすと あんど まっですと さいえんてぃすと! ういーちえんじ じ おーるおぶざわーる!」
酔っ払ってもallの前のtheをジと発音しようとした辺りにシキシマの僅かに残った天才が輝く。
世の中では実は数多くの奇跡が発生している。その奇跡を我々が認知できるとしたら、それこそが奇跡だと人のいう。
偶々ボイジャー1号が不遇にも人類初のファーストコンタクトを華麗にも爆散という形でキメて、その直前の画像から「星間航行が可能な異星文明が存在すること」「ファーストコンタクトは考え得る限り最低の状況から始まってしまったこと」で頭を悩ませていたその状況下で、出会う筈の無い彼らが出会ってしまった事。
それは正しく奇跡だった。東武練馬のAEONの近くの飲み屋でまさかこの様な奇跡が起きるとは……世界は不思議で満ちている。