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月下の二人 それは立ち会いの様なものだ

狐狼が如き二人は何気ないやりとり…それ自体は本当に些細なことだ…により出会ってしまい、互いに引かれ合う様に距離を縮めて行く。

最初は…互いの手の内が見えない。

それは何故か、あれは誘いか…互いに「そうであれば…」と策を巡らせるが共に対決を望んでいるとは露とも考えない。

確証が無いからこそ、策を巡らせる。
なぜ故に策を巡らす? 知りたいからだ、確証が欲しいのだ!

そして二人は月が照らす人気の無いところへどちらともなく歩を進める。
分からぬ…分からぬからこそ決着を付けねばならぬ…人気の無いところに共に進む以上…彼奴も同じ事を考えている筈…

人気はない。見ているのは銀色に輝く月のみ…男は相手と対峙した。意外にも相手はそれを予期していたかの様に莞爾と笑う。

やはり、雌雄を決せねばならぬ。相手もそれを望んでいる。「それだけ」は間違いない!

若いながらも心は狼たる二人の意思は一致した。

片方が構えを上段に取れば相手は下段に、押せば引き、引けば押す。男は察した、彼奴も必殺の一撃の機を伺っている…
片方が固唾を飲めばその音が聞こえ、片方が言葉に詰まれば相手の心音すら聞こえそうな静寂の中、月の光が奏でる音すら聞こえそうなこの緊張!
それは熟達の武芸者の立会いにも似ていた。
死合いである。
極度の緊張により心の臓を掴まれたが如き息苦しさを感じる。

月の光が二人の相貌を照らす。攻防の最中でありながら男はそれを美しいと思った。次に繰り出す致命の一打を探りながら一瞬男は隙を見せた。僅か寸毫の間である。
「わたしは…」

出来るっ!

彼奴はその指呼の間すら見逃さなかった。素早く右手を上げてそれを制すも男の心臓は早鐘の様に高鳴る。
相手は必殺の一撃が致命とならなかった事を悔やむとも、残念とも、不安とも取れる顔をしていた。

先制を許してはならぬ…それは男の流儀であり、矜持であった。俺が繰り出し、彼奴が決める。俺の全てをかけるのだ。それで叶わぬなら重畳。涼やかにいこう…それが俺のやり方だ。
「何?」
彼奴の誰何、だろうか。ささやく様なその言葉に促される様に正中線を立て、臍下丹田に力を集める。

気持ちが座ると男は実に良い顔をした。力が抜け、自然体に。相手はそれを好ましいと思った。所詮見ているのは十六夜月のみ、遠慮は要らない。事ならずばそれまでよ!

「俺は、君が好きだ」

滝から水が落ちるかの如く、川面を木の葉が流れるが如く、致命の一打はするりと流れて相手の心の臓を貫いた。まこと必殺であった。虎眼流曰く3寸斬りこめば人は死ぬ。しかしてその言葉の切っ先は既に彼奴の背中を抜けていた。

その言霊が男の口から放たれると、不思議なことが起きた。彼奴の髪が美しく輝いていた。目の潤みは宝玉の様、雪国の子供の様に紅潮した頬は優美な線を描き、全てが暖かな光に満ちて見えた。月は燦然と彼女を照らしていた。
そう、俺は彼女が好きなのだ。
そして…そう、彼女も私を好きなのだろう。

「付き合って、貰えますか?」

致命の一打を放っておきながら、男はヌケヌケと尋ねた。もしもここに他人が居たなら余りの恥ずかしさに逃げ出したに違いない。

時に令和元年葉月吉日。
二匹の孤狼は新たな番《つがい》となったのだ…

* * * * * * *

という様な、下手で粗野だが卑ではない若々しいカップルの甘酸っぱく初心でありながら細やかな駆け引きや逡巡が見えるラヴを読みたいなと思ったので自分で書いた。ぼかぁおじさんだからこーゆーのも恥ずかしくなく「青春してるねぇ」とニコニコしながら読んだり出来る。たまにゃストレートに行こうぜぃ!

世に愛と尊敬が満ちます様に。

方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!