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荒山徹という魔人

Discode酒場で微妙に盛り上がったので書いておく。

世間一般では荒山徹という作家は歴史小説家という肩書きで知られているが、それは魁!男塾を教育漫画と認識したり、聖闘士星矢をギリシャ漫画と呼ぶようなものである。怪傑ライオン丸が歴史ドラマではない様に、荒山作品はあくまで伝奇小説という史実の隙間に妄想をぶっ込むファンタジーの一種である。お前朝鮮妖術とか実在したとか正気か? 民明書房をガチで信じる奴があるか!

で、伝奇小説家というのは忍法で人が蘇ったり、実像を肥大化させて北斗の拳の黒王号の様な巨馬に跨る無敵の男にしたり(花の慶次の慶次、時代的にはじーさんやぞ)好き勝手するのがお作法?なんですが、荒山徹氏はそれがある意味天元突破して「勝手にワールドをシェアしちゃう」域に達した魔人である。

詳しくは上記をご参照頂きたいが、普通先行した創作物とネタ被ったらそれ避けるじゃんよ? 剣豪復活させたいにゃーとか思っても「普通は」魔界転生をギミックとして使わない。パクりじゃーとか非難されるし。しかし荒山先生は違う。無視するのは失礼だな、とか考えてしまう。

失礼、とは……(哲学)


歪なリスペクト、倒錯した敬意。これらが発現した結果として荒山徹先生の世界ではモスラやキングギドラや朝鮮柳生、ジャンボーグAや赤影が出て来る。まぁそれは瑣末な問題だ。最大の問題は朝鮮好きとか韓国好きを公言しているにも関わらず、誰がどう見ても日韓関係が悪化しかねない言説をナチュラルかつパワフルに書いてしまっている部分だ。檀君神話は捏造だ!とかふつーにナチュラルに、それでいて執拗に書いたりしたからね。大先生の脳髄にはポリティカルコレクトネスとか政治的配慮という言葉はござらぬ。(まぁ、先輩魔人である隆慶一郎氏も大概アレで、花の慶次では原作小説の朝鮮編が丸々琉球を舞台に書き直された。流石に少年ジャンプで原作そのままやったら国際問題になりかねん)

無論、韓国に対してのみポリティカルな精神が欠落している訳ではなく、日本に対しても政治的配慮は無い。ここで漸く「ああ、荒山徹師匠は悪意を持っていた訳ではなく、なんか脳内の倫理とか道徳とか社会に対する配慮を司る部分に重大な問題があるのだな」と納得するわけであるが、それは商業作家でそこそこヒット飛ばしてる小説家として如何なものでありましょうや……

と、ここまで書くとタダのキワモノ作家なんだが、誠に残念な事にというか、大変困った事に文芸ぢからは旺盛であり、文章能力やその発展である文芸カラテは一流の主人あるじとして申し分ない域に達しているのだ! 上手いんだよ文章がっ!(頭を抱える)

例えば皆は主人公が鬱蒼としたジャングルを進む様を文章で表現する時に、どんな表現を用いるだろうか? 荒山師父はこの様にした。

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ガッチョり文字を詰めてファランクスの様な文字の塊を形成したのである。

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安心して欲しい。荒山師父の通常文体はこんな感じであり、昨今のラノベに比べればかなり密だが、先の文章ほど詰まってはいない。密林シーンが終われば元に戻る。

鬱蒼とした木々を抜けてくダルさを文字列詰めて再現し、実際読者にもそのダルさを体感させようとか発想が非凡過ぎないか。(これがあるから荒山初心者にシャクチは勧めにくい。貴方が大菩薩峠を苦もなく読めるのなら、或いは……)
思想的に困ったレベルでフリーダムな師父の脳髄は文を綴る際にもその自由さを発揮して様々な妙手を繰り出してくる。この非凡さが政治的な(悪い意味での)フリーダムさと直結している辺りに神々の残酷さが見え隠れする。いや、ほんとの話荒山徹師父がもしも政治的に「弁えた」なら、NHK大河の原作行けると思うよ? 執拗に朝鮮朝鮮書いてナチュラルにDisるもんだから抜擢できないんだよ。NHK大河で島津家を取り上げられないのと同じだ。朝鮮の役無視する訳にも行くまい。

多くの人は売れっ子作家になれば作品が読み継がれると考えているだろうが、荒山徹師父も読んだ西村寿行(一時期作家の長者番付でトップ取るクラス)ですら、今この令和の時代に読んでいる人は居ないだろう。半村良の妖星伝すら見たことない人多いと思う。実は大衆小説は時代に愛されるもので「時代を超えて愛される」とは限らないのだ。時代を越える名作というのは、本当に得難いものなんよ。

西村寿行や半村良がそうである様に……恐らくは魔人荒山徹の作品も……いや、

朝鮮Disにしか見えない師父なりのユークリッド幾何学から乖離した朝鮮愛の深さ故に……


時代の波に消えて行くか、様々な政治的圧力により埋められてしまうだろう。どんどんしまっちゃおうねー、と。


それが誠に残念な形で結実してしまったのが、大東亜忍法帖下巻発売禁止事件である。

私が荒山徹師父の担当だったら、まぁたどこぞをナチュラルにDisってないか目を皿の様にして探すぞ。歩く地雷原みたいなもんだもん。それを……それを上巻刊行した後に気付いて震え上がるというのは、確かに出版社側の手落ちだ。この点においては全く荒山徹師父が正しい。あと、私も担当編集だったら粗筋や構成の段階で「センセそりゃ流石に不味いっスわ」ぐらい言うで。

この様に、荒山徹師父はヤバい側面がアリアリなので、逆に「今荒山徹師父と同じ時代で同じ空気を吸える」と言うのは激しくラッキーなのである。時代を経ればいつの日か……来て欲しくは無いのだが……荒山作品が読めなくなる日が来るかもしれない。正直並みの作家より「読めなくなる確率」はメチャクチャ高いぞ。電子媒体もサーバーから削除される可能性があるから、紙の本を手元に置くのが一番安全だ。


方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!