銀馬車
それが何かと問われれば、カテゴリー的には幌馬車なのであろう。隊商が馬に引かせて荷物を運ぶアレだ。一般的な物に比べて著しく車高が低く、車体は銀色に輝く金属製。車輪は太くタフな道でも走れそうだ。街道筋を行く優雅な乗り物や輸送向けのカーゴではない何か。御者台の両サイドには丸盾が固定されており、車体下部では水がチャポチャポ音を立て、荷台には雑多に荷物が積まれている。
遥か後方から駆け寄ってきたこの銀色の馬車は先を行く冒険者の横を併走し始めると手綱を引いて速度を落とし、冒険者に陽気に声を掛けた。
「やぁ、お嬢さん。町まではまだ距離がある……乗って行かないか? 今なら隣が空いてるんだが」
チャック・コナーズを少しだけ小ぶりにして頭にテンガロンハットを載せた男、と言えば分かりやすいだろうか。厳つい顔に優しい目。しかしその目に大柄な戦士や魔法使いの老爺は写っておらず、エルフのレンジャーと女司祭にだけ視線が注がれている。
「乗せてもらえるなら有り難いが……幾らだい、兄さん」
「野郎は銀貨10枚、お嬢さん方はタダさ。俺はフェミニストなんだ」
荷台の方からゲヒャゲヒャと笑い声がする。子供のような体躯に愛らしい顔を載せている割には下卑た声。
「オヤジ、その顔で、フェミニストは、ねぇ」再び咳き込むようにひと笑いして「この馬車に乗るぐらいなら棺桶に脚突っ込んだほうがいい。歩け歩け若い衆!」ゲヒャゲヒャ。
「おい、マーク……」
「どこの世の中にワイバーンからトンズラこきながら女口説く馬鹿がいるよ? もうすぐ視界に入るぞ?」
「くっそ、弾《アモ》はまだか!」
「愛しの銀馬車ちゃんの言う事にゃ、あと10分、ちょいと急ぎな!」
「失敬、借金取りみたいな奴に追われててね……この先の町で、また」
ルーカスは精一杯の笑顔でウィンクすると馬に鞭を入れ《《右足でアクセルを踏み込む》》、銀色の馬車は緩やかに加速を始め、みるみる間に景色に溶け込んでいく。
一応続く予定。