シャドウスレイヤー ──全滅の記憶──
ウィッシュという通常魔法使いが触れることもない禁呪で時を巻き戻したせいか、唯一全てを見た筈の戦士もこの事件の詳細を忘れかけている。悲しい物語だった事だけが、あわ雲のように脳裏に残ってはいるのだが……
確か一つの村が竜により壊滅させられたのだ。
「少年はレッドドラゴンの頭のツノを両手でしっかり握りしめ、頭の上に立ち……」
?
少年が身長140cmぐらいと仮定して、彼が立てるほどの後頭部を持つレッドドラゴン……
「ラージサイズじゃん!」
「エルダーだよ」
ふざけんな!(涙)
ドラゴンというものは襲うものであり襲われるものでは無い(金言)
ヒットポイントと同値のドラゴンブレスという特殊攻撃を持つドラゴンスレイの基本は不意打ちにある。まず不意打ちして全力攻撃でHPを削り、その特性上必ずドラゴンが初手で放つブレスのダメージを削る。鉄則だ(力説)
削って更にイニシアチブ取って更に削る。ここまでして更にレジストファイアなどの防御を固め、ドラゴンブレスのSTに成功した後に、微かな「ドラゴンスレイヤー」称号の道が見えるのだ。ランダムエンカウントのドラゴンなんてのは公開処刑に等しい。8HDのドラゴンですら、ネームドクラスの冒険者一行の半数を死亡させ得る悪辣な罠なのだから(準備なしだと魔法使いや盗賊、エルフ辺りはウェルダンだ)
不意打ちの機会を喪失して怒り狂うドラゴンの前に立った時点で一党は棺桶に両足を突っ込んでいる。更にエルダーだと? 冗談も程々にして欲しい。しかし目の前に現れてしまった以上仕方がない。戦士は敵が出たら走り寄り切り付けるものだと相場が決まっている。エンチャントウェポン、レジストファイア、ストライキング、ヘイスト……フルバフを背負いシャドウスレイヤーを振るう……待て、竜?
「まさか、竜鱗って……」
「うん、金属鎧相当だね!」
ガキンという派手な音を立てて、ドラゴンはシャドウスレイヤーの攻撃を半減させた。魔獣だから、鉄鎧の騎士じゃないからと判断を誤った。遠隔攻撃するべきだった!
(当時バスタードでサムライとかが出てたから、当時の戦士は割と悩みもせず衝撃波やら真空波を飛ばしていた)
更なる不幸が一党を襲う。彼らの勝ちパターンは戦士に有らん限りのバフを与えて「敵を戦士で足止めする」作戦である。なんと困った事に足止め役は1人でバフ役が武僧、魔法戦士、魔法使い、吟遊詩人とアンバランス極まりないのだ。
賢い竜は当然こう考える。「あっち」を先に焼き払おう。
見ての通り、武僧以外は皆モヤシである。冒険者としてのレベルは高い(確かネームド到達してた筈……)彼らではあるからドラゴンブレスの回避には成功したが、戦士なら回避成功でなんとか生き延びる事が出来る程度の一撃だ。当然アンブッシュ出来ず初手の戦士攻撃を半減させられて「体力を削りきれていない」ドラゴンのブレスは彼らの命を容易に奪う。
「マジかよ……」
体力だけは戦士並みの武僧が力無く呟く。この時点で立っているのは戦士と武僧だけだ。しかも武僧はかつて負った事もないレベルで被害を受けている。てゆーか良く生きてたな。神様にこっちくんなって言われたか?(涙目)
(この瞬間のプレイヤー全員の放心具合はよく覚えてる)
「ドラゴンが次はお前だと戦士を見るんだけど、彼はちょっと驚いた顔をしたよ」
戦士の足下に小箱があり、それをドラゴンが見つけたという話。この時点で戦士(のプレイヤーであるワイ)はものすごーくイヤーな気がした。
何故か戦闘ターンが進まずプレイヤーの会話が続く。
謀ったな、謀りおったなGM! 完全即死布陣したのはこの為か!
大長考。
戦場は盤上から机上に移った。もう状況的には全滅した様なものだ。ドラゴンブレスのダメージからこの竜の残りHPは分かってしまったし、これを全て削り取るまでどれだけのターンが必要かも算出出来てしまう。武僧と戦士だけでこれは倒せませんわ。無理無理の無理ですよ。初撃で戦士が遠隔攻撃選択してフルダメージ入れても女エルフの魔法戦士がギリ生き残るぐらいで結果変わらず。もう最初からポーション飲んで特殊魔法戦士化して寿命削りウィッシュ唱えるぐらいしか解決法が無いのである。
本当にウチのGMは凄い奴だ。尊敬に値する。校庭に埋葬したくなるぜ!
仕方なく、飲んだ(涙)
さようならさようなら戦士ちゃん。同じ人物ではあるがアイデンティティが死滅した様なものだ。やはりそれは死なのでは無いか? 皆はHPをゼロ以下にしたが、私は魂を失った。その悲しみ憎しみを今、ここに!
「Wish!」
「死人は喋らぬ様に」
「俺まだ死んでないもん」
「では死ね(コロコロ)」
ほんとウチのGMは凄い奴だ。友達のPC良くもまぁ簡単に殺すよな!
「で、ウィッシュは?」
「……なかったことに」
本来あり得ない効果の様な気もするが、GMはこれを良しとした。ドラゴンによる村の襲撃も、ドラゴンも、不幸な少年も無かった事になった。なら仲間も蘇生してくれて良さそうなものだが、超魔法戦士になって良かったネとでも言いたいのかレイズデッド使わされた。そしてリードマジックでスクロールを読むと、なんとビックリこっちもウィッシュ。しかも三つの願いが叶う版で寿命減らない奴!
「魔法使える奴が生きてたら良かったのにねー(ニヤニヤ)」
そういうトコやぞ、お前。
「あ、後「無かったこと」だから今回経験値無いから」
「「マジでか!」」
「くっそう、一個願い叶えさせろ!」
「どーぞどーぞ戦士ちゃん。何を叶えたい?」
「今すぐ元の戦士に戻せ!」
こうして戦士も「元通り」蘇生したのであった。これがかの一党の「全滅事件」のあらましである。