衛府の七忍 9 読了
遂に若先生が魔界に帰ってきた。そんな感がある。
伝奇、それは魔界である。
魔界転生を例に取るまでもなく、過去日本人は「何じゃそりゃぁぁぁあ!」な説明に対して「忍術だから」と言われると何故か納得する不思議の性質を育んで来た。何で忍術で屍人が蘇生するんだか分からんが、忍法 魔界転生と書いたら何故か忍術だからしゃーないと納得したのである。思えばニンジャスレイヤーもジツという説明で軽々と常識の垣根を飛び越えるふりして木っ端微塵に破壊して回るクチではあるが、海外小説翻訳の筈なのに、何故にこの日本人が持つ性質を熟知しているのか……私は、ニンジャスレイヤーが日本在住歴の長い在日海外人による作品では無かろうかと疑っている。荒山徹作品で柳生や朝鮮妖術で無茶やる技法も、言ってしまえば日本古来からある「忍者だから」で思考停止を誘うテクのバリアントだ。忍法獅子変幻でライオン丸に変身するのは不合理だし、妖術だからノッカラノウムは説明の様で説明では無い。しかし我々はそれで説明が完了したものと理解してしまう。日本人の機微を掴んでいるからこその荒技。
衛府の七忍は、当初零鬼の所で「変身忍術 嵐」が元ネタと明かされている。
んまぁ、その。モチーフ的には似てる。
で、そんな物語も遂に9巻まで来たんだが、この巻では真田忍軍つーか、真田10勇士が出てくる。そして珍妙な忍術が出て来てある人物が複数人の異能を一身に集めてアレでそれなんだけど……
それって、「吹き荒ぶ風がよく似合う」あの方達モチーフでは……
まぁ、前々からその傾向はあったが、若先生最近好きなもん混ぜ混ぜして混沌を生むキル・ビルめいた作劇をお楽しみの様でござるなぁ。楽しそうな作劇風景に当方も破顔してヘッドバンキングしまくりだ。
9巻である。言うなれば「009巻」である。なんかどろろとかブラックジャックも入ってる気がするが、言わばジャイアンシチューだ。くぅ〜っ! こう来たかぁ!
忍法「加速装置(奥歯噛み)」
やられたわー
間違いないわー
隠す気も無いわー
チェストですよ。若先生のチェストですわ。渾身の刃を小細工なく振り下ろす。俺が描きたいのはこれだ! 判るか? コレだっ!
一時期キャラに物語を動かされて来た若先生が、遂に物語の主導権を奪還した。役者も若先生の意図を把握していい演技している! そしてその行く末は魔界だ。
誰も指摘してないよーな気もするが、これは私も好んで使う「既存物語を混ぜて再構成する」言わばプラモの「ミキシングビルド」に似た作劇方法である。割と好き勝手やってる割には(自作としては比較的に)好評頂いている「因幡の白兎異聞」のアレも、因幡の白兎と鏡の国のアリス、ウィザードリィやモンティパイソンのホーリーグレイル、そしてチャオチュールが混ざったジャイアンシチューと言える。
私もオタじゃけん、古典(と言われる作品群)を借用して遊ぶの好きやねん(ぶっちゃけた!) 衒学的に様々な知識を散りばめて、判る人には判るを徹底する「本歌取り」じみた、教養や前提知識を必要とする話大好きだっちゅーの。
エヴァなんかもそこかしこにモチーフ盛り込んだ作風だが、そっから語れる内容が多岐に渡るのがアレなんよな。庵野監督もオタだから盛り込める内容は多岐にわたる。最後のおめでとう!で話を締めたのは未だに許せんが、ありゃあ20年早かったな。
でだ、この巻通じて主人公は好きに生きろと言われ続ける。10勇士の異能を身体パーツという形で「実際己の血肉として」継承し、その上で好きに生きろと言われている。
先人たちの異能を血肉として受け継ぎ、好きに生きろと鼓舞されるこの主人公とは誰か。言うなればこの物語の総体そのもの、骨格以外の血肉が「受け継いだもの」と言える。さぁ、その先に進む時が来た。俺が、受け継いだ俺がその先に歩を進めるのだ!
決意であり、宣誓であり、願いではあるまいか。それは西洋北方の蛮人にも似た、父祖の名を挙げその裔であると宣言し、血に恥じることなく戦うという名乗りなのかなぁ、と。
涙が滲んでくるね!