見出し画像

機甲シン・ゼロ 第五話

まえのおはなし

「マジかよ……」
 イーグルドライバー、山本三等空佐は言葉を失った。円筒形を組み合わせたレトロな人型の18m級ロボが、空を、飛んでいる。まるっきりアニメだ。しかもこいつは友軍機だという。せめてバルキリー--勿論マクロスの方で爆撃機ではない--のファイター形態なら現実味があった。山本の中の航空力学の神が「飛ぶわけないだろっ!」と唾を飛ばして力説していた。
「謎のロボットへ、こちら日本国航空J隊。どういう真似したらそんなふざけた物が空を飛ぶんだ?」
「任務ご苦労! こちらゼロ。第一航空団か。ヒヨコは元気か?」
「よく知ってるな。ヒヨコは元気だ。お前さんの姿見たら卒倒しそうだがな。反重力でも見つけたか?」
「我々も色々工夫したんだがね、どうやらロボは鳥になれないらしくて原点に帰った。全身に推力配置して力技で浮かんでいる」
「飛べるのかそれで?」
「浮かんではいるだろう?」
「魚釣りに行くと聞いたが、燃料足りるのか?」
「足りる。このまま世界一周だってできる」
「何積んでるん…」
「聞かない方がいい、オーバー」
 山本は何となく察した。あ、これ三原則に触れる奴だ。そもそも戦闘可能なロボで世界一周だってできるという辺りで国会と新聞がひっくり返って中国が深刻な懸念を表明するのは間違いない。出来れば見なかったことにしたい奴だ。
 逃さぬ為に母艦を叩いて地球内に封じ込める。作戦は単純だ。地球内に留めれば交渉なり捕虜交換なり呈示はできる。大統領には明かせなかったが、シキシマラボでは独自にハッキングを行い宇宙人関係資料をガセネタ含めていくつか入手している。現在地球にコンタクトしているのは4星系、内直接地球に降下したもの2、うっかり合衆国で撃墜したものが1、今回は残る1だろう。いわゆるUFOというのは大部分が偵察機で交戦能力はほとんど無い。偵察機を運んで来た母艦も、長距離単独航行してきている事から武装はほぼ無いと見て良い。軍事的侵攻が目的なら単騎で来る事はあるまい。そも、何故にウサギは突然攻撃を仕掛けて来たのか。自分の所の大統領でもアメリカに殺されたのか?

 残念な事にボイジャー1号はアメリカ船籍であった。わざとではない。あくまで偶然そうなっただけなのだが、過ぎた偶然は地球人類が何らかの因果操作で謀殺を仕掛けたと誤解された。はやぶさのミッションでアホの様に正確な軌道コントロールをしてしまったのも運が悪かった。地球上では宇宙開発後進国の日本がアレなら、最先端のアメリカの力量はいかほどか。
 そして決定的だったのは「お時間があればお越し下さい」というゴールデンレコードに収められた声……それはかの地で正確に翻訳されたが、あちらのイディオムでは「かかって来いや」を意味する挑発であった。かの星系が1990年代に送り込んだ偵察用コマンドに暗殺を指示するのも無理はない。

 駿河湾沖、23:24(日本標準時)
 ゼロは西南西から飛来したUFOの襲撃を受けた。どの様な技術によるものかは不明だが、空間が震えると突然3つの光の玉がゼロを囲む様に現れた。
「ブレイク! ゼロから離れろ!」
「一切反応無かったぞ!」
「だからどうした、見えてる今なら!」
「可能な限り捕獲。専守防衛!」
「ナノボット散布します」
「待てと言うに!」
「サンダーブレー
「落ち着け馬鹿!」
 ゼロの機体を引き起こして急減速し、ほぼ空中に静止させるとUFOは編隊を組み、水平方向に円を描く様な軌道をとる。
「何してんだ?」
「分からん。とりあえず害意が無いことを」
と、ゼロに両手を上げさせるとUFOの動きが突如変わり、3機の内2機が接触した。
「「あ」」
墜落する2機を目で追うゼロの背後で残る1機が砲座を開く。
「焼結! プロテクトミラー!」
「え?」
「囮?」
「回避だっ!」
 周囲に展開していたナノボットが防御膜を形成し切る前に謎の怪光線が照射される。ナノボットは機能を停止して飛散しつつも怪光線を散乱させ、辺りを眩い光で照らす。
「被弾! 損害軽微」
「だからサンダーブレークを
「消し炭にしようとするんじゃ無い! サンプルだサンプル!」
「見上げたマッドサイエンティスト魂ですな!」
「ロケットハンドだっ!」
「射出!」
「すぐにオープンゲット!」
 肘部から先が往年のロケットパンチの様に飛び出すと、すぐに粒子分解してUFO周辺に展開する。
「そして焼結! 掴み取れ!」
 UFOにこびりつく様に粒子が集まったかと思うと、そこにUFOを鷲掴みにするゼロの肘から先が現れた。3トンの重量超過にも関わらず、UFOは何とか浮いている。
「どんな原理なんだかな……」
 解析用のプローブを周囲に展開して外部から非破壊検査を開始する一同。カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響き、スクリーン上に各種データがスクロールし、複雑なグラフや模式図を表示する。そして天才たちは磁力線の状態から同時にある事に気付く。
「モノ
「ポー
ル?」」
「おおおおおちつて!」
「トラクら!とらくらびっ!」
「えー、何それ!! 超欲しい! 記録! 記録!」
「電磁波は? 他の力は?」
 もう戦闘どころでは無い。科学に魂を売り渡した男たちの最大の弱点、それもまた科学だった。探査プローブが慌ただしく動き出すとUFO背面が開口してミサイルの様な弾体を射出、亜音速でゼロに肉薄する!
「あ、物理で来た」
 光学系兵器対策は割と豊富なゼロであったが、物理的な衝撃に関してはPNGZ合金そのものの対弾性能に頼っている。そして物理エネルギーへの対策はまだ見ぬ重力制御技術が不可欠だった。つまり、未搭載だ。
 貫通こそ逃れたが、凶悪な衝撃が機体を揺らす。敵は重力制御をモノにしているのかミサイルじみたそれの衝撃は破格だった。重力に引かれて落下するゼロ本体との距離が離れ、UFOを掴んでいた手が力を失う。
「くっそ、逃げンなモノポール!」
「置いてけ、試料置いてけ!」

 男たちの声が虚空に響いていた。


小ネズミさんのチュー釈

静岡ら辺にいる第一航空団は航空J隊のパイロット養成をやってるとこだよ!(百里にしたかったがスクランブルできるかなと……)


いいなと思ったら応援しよう!

純戦士のおじさん
方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!