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30歳からの『スナック入門』


スナックに行ったことがない人は、そこにどんなイメージを持っているだろうか。

地元の常連しかいない、中年の楽園、昭和の酒場。そのどれもが正解だが、スナックの一部を表しているに過ぎない。

一般的な居酒屋やキャバクラ、バーにはなく、スナックだけが持ち得る特徴、それは「奥行き」である。

店ごとに独自の雰囲気があり、物語がある。それはお店のママと、地元の常連たちにより積み重ねられ、熟成されてきた唯一無二の個性だ。スルメのように噛めば噛むほど、つまり通えば通うほど味が出てくる。それがスナックである。

そしてこれは序盤で是非とも言っておきたいことなのだが、
そうしたお店へ入るハードルは思ったより低い。何も知らずに入っても楽しめる場合がほとんどだ。

一軒目で普通の居酒屋に行った後、どこへ行こう…?
ちょっとゆったりしたい、誰かとおしゃべりしたい、時にはカラオケも歌いたいそんな人、そして何より「安らぎを求める人」にスナックはおススメの場所である。

ここではスナックへ行ったことがない人に向け、その魅力と具体的な営業・料金形態、お店でのふるまい方などを紹介していこう。

なぜ30歳からスナックなのか

正直、特に意味はない。20代で行ってももちろん良いし、70代でデビューしてもいい。

ただ一般的に、仲間と騒いで楽しく飲む20代が終わり、ちょっと落ち着いた飲みが多くなってくるのが30歳ごろ。仕事も新人では無くなって、いつしか年齢層の高い人と話も合うようになってきた。こんな時にジャストフィットするのがスナックである。

時には楽しく、時にはしっぽり、気分に合わせた楽しみ方ができるのがスナックの良いところ。同僚や恋人、友人に話せないこともスナックのママになら話せるということもある。そして話し終わってスッキリしたらカラオケだ。老若男女関係なくそのまま包み込み癒してくれるような「奥行き」の魅力がここにある。

スナックの魅力①:「家感」

「奥行き」と並んでスナックの魅力なのが「家感」である。

スナックの店主=ママは大体がおばちゃんである。たまにお婆ちゃん。
そして多くのママが客を受け止めてくれる包容力を持っている。

これは表現が難しいが、話を聞いてくれるママもいれば、口数の少ないママもいるし、逆に自分の話ばっかりするママもいる。しかし共通に不思議な「親しみやすさ」がある。「ママ感」がある。逆に言うとママ感を感じなかったらそのスナックはあなたに合っていない。

こうしたママと同じ空間にいるだけで、気持ちは何となく落ち着いてくる。
カウンター、もしくはソファに腰かけて水割りを一口飲むと、ホッと一息ついている。

そして自分と同じくお店に来ているお客さんも、多くの場合この店ならではの落ち着きを求めて来ている。「ねえママ聞いてよ」と日常の愚痴をこぼす隣のお客さんを見ていると、どこか親しみを感じることもあるはずだ。うんうんとうなづくこともあるだろう。そしていつしか初めて会ったお客さんと熱心に話している。

スナックが家なら、客はどこか会社や学校など別々の場所から家を目指して戻ってくる家族のようでもある。いやそんなことはないか。

スナックの魅力②:「情報収集の場にもなる」

スナックとは「超・地元密着型の飲食店」である。お店でも当然、地元のディープな情報が飛び交う。どこのスーパーが安いとか、どのお店が美味しいとか、この前こんな事件があったとか、その地域の歴史から現状までの様々な話を聞くことが出来る。

自分の住んでいる地域のスナックでも、逆に旅行で行った地方のスナックでも、その土地のディープな情報が聞けることが多いので面白いし、役立つ情報が手に入ったりもする。

スナックとは?

まずスナックとはどのような店なのか、その定義は難しいが基本的には以下の点が満たすお店と考えても良いだろう。

・「ママ」という女性店主を中心としたお店で、カウンター席+ボックス席(テーブル席)がある。

・ママもしくは店員がお酒を注いで接客してくれる。

・食べ物のメニューはほぼなくお酒が中心。基本的にはボトルで注文し、プラスで氷や水、ウーロン茶などの割り物を頼んで飲む。ボトルは残った場合キープできる。

・カラオケがある。

スナックのタイプ

スナックには大まかにいくつかのタイプがある。主に年代・人数でそのタイプが分かれる。

①ママ+チーママ

基本かつ盤石の布陣。カウンターの内側にいるママと、それよりいくらか若く副店長的な役割のチーママの2人がスナックにおいてのオーソドックスと言っていいだろう。値段もオーソドックス。客層は40~50代多めで男女とも来る。

②ばあさん一人

個人的にはこの形態のスナックが一番好き。60~80代のママのみで営んでいるパターンで、スナックなどの乾き物以外に、手作りのお料理を出してくれたりする。キャラも面白い人が多い。値段も安め。客層は50代overが多めで男女とも来る。

③女の子いっぱい

ママ、チーママ以外にも女性店員がたくさんおり、テーブルやお客さんごとについて接客する。ほとんどキャバクラだがホステスの年齢層がやや高め。店員が多い分当然値段も高め。客層は30~40代多めでほぼ男性。

④そのほか

ママでなくマスター、つまり男性がやっているパターンや、夫婦でやっているパターンも少数だがある。値段はちょい高めが多いか。客層は40~50代多めで男女とも来る。

スナックっていくらかかるの?

予算感

ということでここからは具体的な営業形態と料金形態を紹介していこう。
初心者にとって最も気になる料金についてはざっくりだが以下の感じだ。

・一人で行った時のお会計
安いとこ:3000円くらい
高いとこ:8000円くらい

もちろんこれは店によって、そして後述するシステムによってもかなり変動する。おおまかに最低料金と考えてくれればよい。なので1万円札を持っていけば高い店でも3~4杯は飲めると思ってもらいたい。

ただ個人的なスナック経験から言うと、現在(2025年2月)の東京なら5杯くらい飲んでカラオケ2~3曲歌って6000円くらいが相場ではないだろうか。ただもっと安い店もたくさんあることは記しておきたい。

料金形態

スナックの料金形態は統一されていない。どうやってお会計が決まっていくのか、それは下記の各要素の組み合わせによってである

①チャージ料金
②ボトル(orショット)の料金
③時間料金
④込みこみ
⑤カラオケ料金

①チャージ料金
席料、つまり店に入った時点で発生する料金だ。これはお店によっては無い=無料の場合もあるが大体の店は2000円くらいだ。この席料によってポテチやチョコなどのおつまみが出て来るので、勝手に出てきたおつまみは席料に含まれていると考えてよい。

②ボトル(orショット)の料金
スナックにはボトルの注文を前提としている場合が多い。単品でも飲み物を頼めるスナックがほとんどだが、ボトルを頼まないといけないスナックもある。ボトル料金も店によってかなり違い、安いとこだと一本3000円くらい、高いとこだと8000円くらいだ。

③時間料金
1時間あたりいくらという時間制のスナックもある。こういう店は大体が若い女の子がたくさんいるキャバクラ的なお店だ。
時間制の場合はキャバクラと同じく1時間当たりの料金を払えば飲み放題の場合が多いが、時間当たりの料金が安い代わりに、飲み物は別料金という形態もある。こういう店は女の子にも飲ませることになるし高くつきがち。最低料金は大体5000円くらいか。

④込みこみ
は稀にしかない形態で、一定の金額で飲み放題、歌い放題、時間制限なし、という儲ける気があるのか疑いたくなるシステムだ。値段もたいてい安く3000円~5000円くらい。

⑤カラオケ
大体1曲200円。1000円で5枚つづりのチケットを購入する店もある。1000円で歌い放題みたいな店も。無料の店もたまにある。


スナックの選び方

ここからは実際にスナックに入る時の手順や心構えを説明していこう。
どのスナックに入ったらいいのか、お店の決め方は大体下記の3種類だ。

①飲み屋などで聞く

最も手堅い手法。知らない土地の場合、まずは地元の人が来そうな個人経営の居酒屋などに入り、そこの店主に「この辺りでいいスナックってありますか?」と聞こう。地元の評判が高い店はやはりいい店の確率が高い。
店主が知らなくても、お店の常連さんに聞いてくれて情報を得られる場合もある。もちろん空振りもある。そしたらその居酒屋を楽しもう。おススメのスナックを聞けた場合は店に行った際「●●ってお店から紹介してもらいました」と言えば会話がスムーズに進む。

②店名や看板がピンときた店

いわゆる「ジャケ買い」。店の名前が良い、看板がキレイなど感覚的にピンと来た店に入るだけ。「静江」みたいな人の名前のスナックはママが高齢で、「moon light」みたいな英語の店名はママが若いことが多い。
と思いきや全然違ったりもするので、そのギャップを楽しむのもいいだろう。

③中から歌声が聞こえない店

歌声が中から聞こえない場合、お客さんがいない、いても落ち着いたお客さんの場合が多い。そうするとお店の説明がスムーズに受けられ、入った後も「うちの店は初めてですか?」などママとのトークが始まりやすい。逆にカラオケが聞こえている場合は、歌の音量が邪魔したり、他のお客さんの対応であまりママと話せない場合も考えられる。
逆に賑やかに飲みたいならカラオケが聞こえている店の外で耳を澄ませ、曲が終わったタイミングで入店しよう。

心構えは「ダメなら出ればいい」

僕が常に心の持っているのは「ダメなら出ればいい」だ。
所詮、というと言い方は悪いが一軒の飲食店である。悪いことが起きるとしても会話が無くてちょっと決まずい思いをするくらいだ。そしたら「お会計で」と言って出てしまえばいい。変に気を使う必要はない。数千円は失うが、まあそんなこともある。気楽に行こう。

スナックに入ってからの振る舞い


①入店時:まず勇気を出してシステム確認

ここはかなり大切なことなのだが、知らないスナックに入る際は、まず料金システムを確認することを強くお勧めしたい。

ドアを開けて初対面でいきなり料金を聞くのは失礼な気もするが、これを知らずには安心してスナックを楽しめない。

「こんにちは~」となるべく愛想良く挨拶をしてから「あの~…料金システムってどんな感じですかね…?」と平身低頭で聞くのがベスト。

そして
チャージ料金がいくらか 
・一番安いボトルがいくらか

は最低限確認しよう。場合によっては

・単品で飲み物は頼めるか
・時間制かどうか

も聞いてみよう。たいていは聞かずとも向こうから説明してくれるが。

もしこれで「高いなあ…」と思ったら、
これまた平身低頭で「ああ~…じゃあ大丈夫です。すいません」とペコリとやってドアを閉めればよい。どうせもう会わないし向こうも大して気にしてない。「ああ~…じゃあもうちょっとこの辺のお店周ってから来ます」でもOKだ。実際また来ても良い。

②席に着いたら:新入社員の気持ちでしっかり返事

新規の客が来た場合、当然だがママの方もこの客がどんな人物なのだろうと思っている。飲みたいのか、話したいのか、歌いたいのか、構ってほしいのか、ほっといてほしいのか。

今回の場合は自分がお話をメインに歌も楽しみたい客だとする。でも自分から話しかけるのはきまずい。そういう人はまず返事をしっかりしよう。

おしぼりをもらったら「ありがとうございます!」
飲み物の割り方を聞かれたら「水割りでお願いします!」

しっかり聞こえるように気持ち大きめの声で、できれば目を見て、ちょっと笑みを浮かべられればベストだ。新入社員の気持ちで行こう。そのようにしてそこはかとない「後輩感」を醸し出せば、ママや他の客も話しかけやすい。

そして小賢しいテクニックとしては、飲み物を選ぶときなどに「あ~どれにしようかな…じゃあ芋焼酎にします!」などとちょっと表情をつけて悩むふりをすると親しみやすさがアップ。「芋で」とだけ言うのとは大違いなのは明らかだ。

③人のカラオケに拍手しよう

スナックではカラオケの間奏で拍手することがよくある。他人のカラオケでも間奏に入ったら拍手しよう。歌ってる人が「ありがとう」とお礼を言ってくることも良くある。すると歌の後に話しかけてきてくれることも多くなる。

余裕があれば「上手い!」、「懐かしい~!」、「いい歌だな~」など感想を聞こえよがしに言ってみるとなお良し。

良いスナックの見分け方

外観から良い店は分からない。中に入らないと分からないのだ。
しかしいくつかのスナックへ行ってみて、良い店の共通点というものがある。

それは「乾き物以外のお通しがあるか」だ。

普通スナックのチャーム(≒お通し)はポテチやチョコなどのスナックがほとんどだ。来るお客さんもそれまでに居酒屋などであれこれ食べてきている場合が多いので、しっかりした食べ物にはあまり需要がないからだ。

しかしスナックによっては漬物や煮物など自家製の簡単な料理をお通しとして出してくれることもある。

これはつまり「お客さんに喜んでほしい心がある」ということを意味している。乾き物の方が出すのは簡単だし、誰もそれで手抜きだとは思わない。しかしわざわざ調理の手間を取って湿り物(そんなことばあるか分からないが)を出してくれるのは、外ならぬママの優しさである。

そのようなお店は、あまり儲けを考えていないし、料理以外でも色々とお客さんを気遣ってくれることが多い。

そしてこれも当たり前だが、乾き物しかなくても素晴らしいスナックもたくさんある。

最後に:スナックもあなたを求めている!

スナックは店の中が見えない場合がほとんどなので、やはり入りづらい
当然、新規の客が来ず常連が多くなる。

そうすると何が起きるか、マンネリになるのである。いつも同じメンツでいつも同じ話。話題の種、新しい刺激を求めているのだ。

そこへ見知らぬ客=あなたが入ってきた。
好奇心を持たれることはあれど、「いつもの店の雰囲気を壊すなよ」とは思われないはずだ。もしそう思われたなら、その客がウンコなので気にしないでいい。

常連客は圧倒的ホーム感を背景にアウェイである新規客より心理的に優っているので話しかけやすい。「この店はこんな店だよ」と古参マウントを取れるし、今までママに何回もしてきた話を新鮮な気持ちで聞いてくれるフレッシュマンの存在は、テンションの上がるイベントに違いないのだ。

そこで楽しくお話できれば、お店に溶け込む第一歩は成功だ。
あとは、次の日「楽しかったなあ」と思ったらまた行ってみよう。

ちなみにやたらに話しかけてきてウザい常連がいた場合どうするべきかも
書いておこう。

ずばり「無視」

目を合わさずカウンターの向こうを見つめ、あいづちも打たずに飲み続けよう。どうせ酔っ払いだから相手にしなくても問題ないし、そういう人は塩対応に慣れてる場合が多い。

「聞いてる?」とか言われたら「ああすいませんぼーっとしてました」と言おう。

さあもう怖いものはないはずだ。気になるスナックへ行ってみよう!
何度も言うが「ダメなら出ればいいだけ」!

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