Becher(ベッヒャー)的なもの
【ベッヒャー夫妻の事】
Bernd and Hilla Becher(ベッヒャー夫妻)は、ドイツのArtistであり、写真学校の教授であった。かれらは、大判カメラをかかえて世界中を旅して、30年以上の間、世界中の産業設備や構造物、例えば給水塔、ガスタンク、鉱山設備、石炭工場設備等を撮影して、それらを類型的にまとめた写真カタログを作った。それらの写真は、影が出るのをきらって必ず曇りの日の早朝に撮影され、可能な限り人や雲、空を飛ぶ鳥さえも、画面から排除されている。もちろん水平、垂直は十分に考慮されておりパースもほぼほぼ無く、すべてが慎重に配慮されたうえで撮影された写真である。被写体である産業設備以外の部分、例えば背景や前景は白く飛ばして、被写体がひと際目立つような写真なので、現像やプリントにも相当な時間を費やしたに違いない。彼らの作品を見ると、主な活動は1970年から2000年あたりまでの30年間と思われるが、夫のBerndは2007年に、妻のHillaは2015年に亡くなっている。
【火の見櫓の類型学】
【構造】
ー櫓型火の見櫓ー
さて、翻って、火の見櫓はどうかといえば、櫓全体は防災設備であるけれども、産業構造物、あるいは建築物とも言って良いものである。少なくともアーティスティックなものではない。よくモノクロ写真は光と影の構成物と言われるのだが、構造物の表現にはアートな表現が場合によってはなじまないのである。むしろベッヒャーのように一切の影を消し、背景も飛ばしてしまい、人の影もなく空には鳥も雲も写り込まない表現が適していケースが多いのである。構造物や建築物を類型的に表現するのであれば、それはベッヒャー的な写真でなければならない。
とは言え、ベッヒャーのように影も雲も、人も空を飛ぶ鳥さえ写っていない写真を撮るのは結構難しいのだ。天気に左右されるのだが、特に影は強く出てしまいがちで、時間が有り余るほどあるわけでもない僕にとっては晴天の日に撮影してしまうのは良くあることだ。必ずしも天候を選んで撮影できるほどの余裕も無いのである。
さて、火の見櫓の事だが、形状的に見て2種類の形に分類できるだろう。一つは櫓型でもう1種類は梯子型である。櫓型は1枚目と2枚目の画像で示した火の見櫓で、3本もしくは4本の等辺山形鋼や、場合によってはレール材などを使い、この3本もしくは4本の主材を組み合わせて自立型の櫓を形成するわけである。そしてその頭頂部に見張台を設け、そこに半鐘、サイレンといった防災設備が設置されている。さらには見張り台を雨風から覆うように屋根が設けられているのが普通で、櫓の存在を誇るよう丸形や6角形、8角形の形をして装飾的な意味合いを持っ屋根も多い。場合によっては多角形の屋根の縁には”ヒゲ”と呼ばれる装飾を施したものも珍しくなく、見張台の手すりなどに施した装飾とともに櫓の個性、あるいは製作者の個性を主張している。おまけに屋根のてっぺんには風見鶏を付けた避雷針が立つ。そこにも個性を主張するように装飾が施されているものもある。
ー梯子型火の見櫓ー
梯子型は4本の脚材を使い櫓を作るがその一面が梯子になっており、梯子を櫓に取り付けた櫓型の火の見櫓とは違った形をしている。また、形だけではなく梯子型はシンプルさを特徴としており装飾じみたものは一切排除されているようだ。おそらく、各町村が競うように設置した火の見櫓の中で、機能本位で低コスト化を狙った櫓なんだろう。見張り台も簡素なもので、人が載るというよりも、半鐘を叩く棒や照明器具などの物を置くための台である。
この辺はまた次回以降、詳細な話をしていく予定。