「YASHA-夜叉-」に描かれる愛情
漫画「YASHA-夜叉-」を読みました。
「YASHA-夜叉-」は「BANANA FISH」を読んだ時に作品の存在を知り、電子書籍が安く買えるタイミングで買ったまま何年も読まずにいました。
というのも、「YASHA-夜叉-」を買ったと同僚に話したら「とうとうあの作品に…!!」と息を呑んでおり、気圧されたのであります。
そんなに……そんなに、どんな作品なんだ?? 「BANANA FISH」もある意味ショッキングな、間違いなく胸を刺す作品だったから、それ以上なのか…?? この表紙の双子らしき青年達……きみたち、もしかしてそういう関係なの……??
なんて、一人でドギマギして遠ざけ、いつしか買ったことすら忘れていました。
しかし最近『BANANA FISH』を読み返した時にその存在を思い出しました。そろそろ読んでみるか、と恐る恐る見始めたのが朝の通勤の電車です。そしてその夜、日付が変わる頃には泣きながら全巻読み終えていました。
びびって数年間寝かせてたのは何だったのか? 静と凛がそういう関係? 私の不安は全て杞憂でした。こんなに素晴らしい作品が他にあるか? 深夜に感嘆のため息です。
まず思ったのは、クオリティに知名度がついてきてないのではないかということです。
もちろん名の通った作品である事は疑う余地無しなのですが、やはり『BANANA FISH』があれだけ有名なことを考えると、『YASHA-夜叉-』の知名度は今ひとつな印象です。
個人的には『BANANA FISH』よりも作品としての精度は高いのでは無いかと感じます。最初から最後まで兄弟愛や親子愛のテーマが一貫していて、殺人ウィルスを巡る事件もブレる事なく見事描き切られている気がします。しかも間延び無しで12巻完結と思えないストーリーの濃さ。「漫画を読む」事の満足度がかなり高い作品だと感じました。
1周目は静を取り巻く人間関係や、凛の不遇な人生、尊の献身を追うのでいっぱいいっぱいでしたが、2回目をじっくり読めば本当にウィルス感染や新人類という存在について細かく描かれていることに気がつきます。
そしてそこに、父の、母の、兄の愛情を求めた凛の孤独が重なり、これはもうとんでもない作品だと感じました。
色々な事件が立て続けに起きますが、振り返ると早くも4巻あたりから凛の、父親の気を引くこと、愛されることに対する感情の起伏が描かれてるんですね。
静が凛に手を差し伸べて助け出そうとすることは、イコールして凛が父親に愛されていないという事実を突きつけること。
そんなの凛が攻撃的に突き放してしまうのも当然だと思います。誰しも傷つきたくない。愛されてないなんて思いたくないですからね。そんな事認めてしまえば、もう凛は孤独で立っていられないのでは無いかと思います。
『BANANA FISH』における英二的な存在として茂市や十市がいます。そして伯父である有末医師や、ボディガードのケン。
アッシュがただ1人の英二に大切に思われていたのに対して、静にはたくさんの英二のような愛情を与えてくれる存在があります。
でもこのお話のアッシュは静ではなく凛だと思います。そして静もまた凛にとっては英二なのではないかと。
親に愛されたかった凛と、最後まで凛のそばにいた尊。
尊は凛に生涯を捧げるような気概で存在していましたが、これも4巻あたりの時点で凛が静を殺したがるのを嗜めているんですよね。
あいつはお前の兄貴だぞと言って。
凛を傷つけることになっても有末医師を助けたのち、静と向き合うよう凛を諭す尊は、本当に心から凛を大切に思っていたのだなとまた胸が痛みした。
藁を掴む溺れた人間は、それが藁だと気づいたらもう終わり。差し出された手を握る力など残っていない。
この表現には圧倒されました。12巻かけて語られたことが言語化されていて、ただただ感服しました。
藁だと気づかせないように寄り添っていた尊と、
気づかせて助けようとした静。
形は違えど2人とも深く凛を想っていた事に変わりありません。
小説を読んでいるような心地のする漫画でした。
静の表情ひとつで悲しみや怒り、諦めや希望が表現されているのにも圧倒されました。漫画の力ってすごい。
各巻語りたいことがたくさんあるので、
また巻別にnote書きたいと思います。
はぁ。非常に満足度の高い作品でした。
みなさんもっと感想書いてください
(とにかく検索しても感想がでてこなかった)
どうかよろしくお願いいたします。