ブンメイ!!
第三話
メスのような刃物を高くふりかざしたスワンは一気にそれを振り下ろした。スワンの心臓に向かって振り下ろされたそれをクラムが掴む。
「やめるんだ!」
ぐぐぐっ
刃先を掴んでいるクラムの手から血が流れ出ている。
「離して!」
「なんでこんなことをするんだ」
「寝てたんじゃないの?」
「君の様子が少しおかしかったから君を疑って寝たふりをしていたんだ。てっきりぼくを攻撃するのかと思っていた!」
「それならわざわざ怪我を治したりしないでしょう?」
「どうしてぼくを助けて自分のことを…」
「戦いたくないからよ!」
スワンは目に涙を浮かべている。
「あなたもわかるでしょう?あんな文明の力は初めてみた。あんな得体の知れないものに勝てるわけない…」
「でもきみが諦めたらきみの文明はそこで終わるんだよ」
「…私の、私の国では人の寿命は200年ある」
「そんなに??」
「うん、医療も発達していて病気もほとんど治せる。だから私も死の恐怖なんてずっと先だと思ってた。未来だって信じてた。なのにこんなことになるなんて、、、死ぬのが怖いって初めて思って。その恐怖に耐えられない」
スワンは肩を震わせている。
「あなたは優しそうだから、あなたの側で死のうと思った」
クラムはスワンの肩を掴む。
「そんなのダメだ。ぼくが君を守るから!一緒に生きよう!」
「わかってるの?私は敵なんだよ。いなくなったらあなたも得をするのに」
「ぼくはそんなルールに納得してない。あの男の言いなりにはならないよ。ぼくと君は敵じゃない」
「…!」
スワンは驚いた顔でクラムを見た。
「だけど、他の人達は襲ってくるわ。勝てっこない…」
「大丈夫。ぼくには君がいる。手を組むんだ。残念ながらぼくら一人づつでは勝ち目は薄い。けど二人なら勝ち目はある。ぼくが彼らと戦う。そしてぼくの怪我を君が治してほしい。怪我が治れば何度だってぼくは立ち向かうよ」
「…無謀よ」
「勝機はある」
「え」
クラムは立ち上がりスワンに手を差し出した。
「着いてきてほしい」
スワンは恐る恐るクラムの手をとった。
洞窟の外は真っ暗闇だった。
暗い空の下に真っ黒な荒野だけが続いている。
「本当に何もない」
クラムは自分の国があったはずの場所でそうつぶやいた。あらためて見るとショックだった。
「勝機って何?」
「ここにあったぼくの文明は、争いのない平和な文明だった。だけど最初からそうだったわけじゃない。ぼくの文明は過ちの先にある。その平和は争いの歴史の上にあるものだ。数々の犠牲を払い手にした平和だ。絶対に奪わせない」
「え?」
「父さんに昔よく読んでもらった本に書いてあった。国々が立つ地下に争いの痕跡がある。御伽噺と思っていたけど…やっぱり。地下に通じる道がある。ほらあそこ」
スワンが目を凝らすとそこにはわずかな隙間があった。
隙間の中を除くと階段がずっと続いているのが見えた。
「本当だったんだ。本当ならあの本の通りこの先には、争いの痕跡がある。人々は皆古代に魔術を操っていたそうだ。争いの歴史に幕が降ろされた時に魔術は封印された」
「…」
「この先にそれを呼び起こす方法があるかもしれない」
「…大丈夫なの」
「大丈夫。地下は安全だと思うよ。ぼくが先を歩くし」
「そうじゃなくて…」
「?大丈夫だよ。きっとうまくいく」
クラムはそう言うと階段を降り始めた。
スワンはその後ろ姿を心配そうに見つめている。
「もうこれしかないんだ。文明を取り戻すには先人達の力を借りるしかない。先に進むしかないんだ」
そうぶつぶつ呟きながらクラムは階段のおくへ消えていった。