ブンメイ!!
あらすじ
主人公のクラムは平和な国で穏やかに暮らしていたが、ある日その暮らしは一変する。
いつものように湖に釣りをしに出かけたクラムは大きな地響きと物音に驚き急いで家に帰るもそこは荒野と化していた。
絶望に打ちひしがれるクラムの前に現れたのはスーツを着た謎の男。
この男の口から全てはこの男の仕業と告げられる。
未来から来たというこの男はこの星を文明同士の争いから守る為に全ての文明を一度滅ぼしたのだと述べる。
さらにひとつだけ文明を復活させることができると伝え、主人公は各文明の代表ひとりに選ばれたのだと知らされる。
争う術を持たない主人公は失われた文明を取り戻す戦いに巻き込まれていく。
第一話
クラムはごく普通の元気な少年だ。虹のように光る首あたりで揃えられた髪が美しい。耳がとんがっていて頭から触角のようなものが生えているのはクラムの種族の特徴である。クラムが属する文明は長い歴史があり、多種多様な種族が穏やかに共存している。まるで奇跡のような平和が何百年と続いていた。クラムはそんな文明の中で争いなどまるで知ることもなく暮らしてきた。クラムだけではなく全ての種族が皆この先の平和を疑うこともなかった。
その日クラムはいつものように湖へと向かおうとしていた。手には釣り具を持っている。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。おやつを用意しておくからそれまでには帰ってくるんだよ」
「にいちゃんでっかいお魚釣ってきてね」
母親と弟がクラムに声をかけた。
「ああ、わかったよ」
家族に手を振ってクラムは出かけた。天気も良い風が気持ちいい穏やかな日だった。道中にはたんぽぽがたくさん咲いていた。綿毛が舞う中クラムは鼻歌を歌いながら歩いた。
クラムがご機嫌なのには理由がある。来月から学校に通うことが決まっていたからだ。今年18になるクラムは今まで村の学校にしか通ったことがないが、来月から地元よりも少しだけ都会の学校に進学することになった。そこでたくさんのことを学ぶことに今からわくわくしていた。
湖に着き腰を下ろすと釣り具を垂らした。
「ぼくはまだ知らないことばかりだ。ここでの暮らしには満足しているけど、来月からはもっと世界は広がっていく。いろんな文化をまだまだ学べるんだ」
クラムが頭に思い浮かべたのは父親の顔だった。クラムの父親は自然災害の研究をしている。争いのない平和な暮らしの中にも災害や疫病などの脅威はある。その研究をして、安全な暮らしを守ろうとしている父親のことをクラムは尊敬している。自分も将来は研究者になりたいとも思っていた。クラムは人の役に立っている将来の自分の姿に想いを馳せ想像に耽った。
そうしている間釣具は全く動く気配がなかった。水面は波ひとつなく静かだ。
が、次の瞬間の不意をつくような地響きと爆音にクラムは驚き飛び起きた。
「な、なに⁈」
爆風とともに真っ黒い何かが突如目の前に迫りクラムは目を閉じ倒れ込んだ。
(う、なんだ⁈)
しばらくの間眠っていたような気がする。だが実際には一瞬の出来事であった。
目を開いたクラムの目の前には何もない荒野が広がっていた。
(どこだ、ここは)
しばらく真っ白になった頭で身動きひとつ取ることができなかった。
少しずつ現実感が襲ってくると激しくなった鼓動とともに飛び起きた。吹き出す汗を拭う暇もなくクラムは自分の家があったはずの場所へ走った。
だが走れども走れども荒野が続いているばかりだ。
「どこに行ったんだ!家は!みんなは!!」
そう叫んだクラムは足に力が入らなくなりその場にへたり込んだ。手も何もかもが震える。
絶望にのまれそうになったときに人の声が聞こえた。
「おめでとう。選ばれしくん?」
縋るように後ろを振り返ったクラムの視界に立っているのは紺色のスーツと帽子を被った背の高い男だ。
「だ、誰?」
「私か?私はこの星の救世主。そしてたった今、君の文明を滅ぼした者だよ」
「え?」
「まぁ急に言われても理解などできないだろうね。優しく、丁寧に順を追って説明しよう」
そう言うと男は気持ち良さそうに語り出した。
「まず最初に私はこの時代の者ではない。未来から来た。未来はそれはそれは悲惨なものだ。この星に巣食う文明と文明同士の争いは長期にわたった」
「ちょっとまってよ。未来?文明同士の争いってなんだ。文明同士の接触、交流は禁止のはずだ」
「ふむ。全くの無知ではないんだね。まぁ続けるから聞きたまえ」
男はクラムの口を手で塞ぎ話を続ける。
「長い長い高度な技術を持つ文明同士の争いによってこの星は壊滅的な被害を受けた。このままではこの星の生態系に被害が出たり、あるいは星そのものの存続すら危ぶまれた」
クラムはまんまるくした目を見開いて男の話を聞いている。
「そこで私は苦肉の策をとることにした。どういうものかわかるかね」
クラムはふるふると首をふった。
「過去に戻り全ての文明を無に返し全てを更地にすることとした。そしてそれを実行したのだ。今君が見ている景色がその結果だ」
クラムは男の手を振り払い叫ぶ。
「ふ、ふざけるな!そんなわけないだろうが。母さんや弟はどこに行った⁈さっきまであった森や湖は⁈」
「全部消したよ。君が見ているものが全てだ」
「そ、そんな」
クラムは地面にしがみつくような姿勢で唸った。
「うぅ、嘘だ」
男が冷ややかな声で答える。
「嘘じゃないよ。だけどそんなに落ち込むことはない。まだ復活のチャンスはある」
「え、、、」
「私がどうやって過去に来たのか知りたくはないかい。これだよ」
男の手にはボトルのようなものが握られていた。
「これは我が文明が作り出した時を操れる機械でね。これを使い今さっき消滅させた文明を復活させることが可能なのだ」
クラムの顔に生気が戻る。
「本当か⁈なら、はやく」
「ただし!復活させる文明はひとつだ。この星に存在していた9つの文明のうちひとつを戻そう」
「なんでひとつなんだ!」
「それはもちろん。もう二度と争いが起きないようにだよ」
クラムは男に飛びかかり手を伸ばして男の手に握られたボトルを奪いとろうとした。
男はそれをかわす。
「おっと。これは君には扱えないよ」
「ふざけるな!そんな理不尽なことがあるか!あんたになんの権限がある!!」
「私は未来を知っているからだよ」
「あんたがもとに戻す文明を決めるって言うのか!」
「いいや。それはちゃんと公平に決めるさ。殺し合いでね」
「え」
男が手を叩くと男の後ろからガシャンガシャンという音とともにもう一人別の男が現れた。甲冑のようなものに身を包み武装した男が仮面をはずすと金色の髪と顔が見えた。端正な顔には無数の傷がある。
「彼にはもう説明済みなんだがね。もう一度説明しよう。私は9つの文明それぞれ代表一名づつをあえて残した。その選ばれし者が君達というわけだ。この選ばれし九名で生き残りをかけて戦ってもらう」
「な、何言ってんだよ。勝手に決めるな!」
「受け入れられないと言うのならこのまま滅びるだけだよ。文明もろともね」
「…!!」
「いいかい?君は文明の代表なんだよ。頭を使いなさい。理解して身のふりを考えるんだ」
「こんな状況、受け入れろったってむりだろ!なぁあんた」
クラムは甲冑の男に向かって言った。
「あんたはそれでいいのかよ。こんなのおかしいだろ」
甲冑の男は口を開いた。
「別にかまわない」
「なんで!何もかも一瞬にしてなくなったんだぞ!自分が生きてきた場所も見聞きしてきたものも、文化だって施設だって法律だって何もかも!」
「それがなんだ」
「…どうして⁈なぁあんたにも大切な人だっている
だろう?わかるだろぼくの言うことが。同じ人間じゃないか」
「かまわない。滅びるのは俺の文明じゃない」
「!」
甲冑の男は持っていた剣をクラムに向けた。
「俺の生きてきた文明は強い者こそが生き残る。それが当たり前だからな。別になんの不満もない」
そう言うと甲冑の男はもうひとつの剣をクラムの前に投げた。
「お前も生き残りたければ戦え。武器は貸してやる。その剣をとれ」
剣なんて創作物でしか見たことがない。そう思いながらもクラムは剣を手に取った。
「ぼくの暮らしてきた文明はそんなんじゃない。剣なんかなくてもいろんな種族が工夫をして仲良くやってきた」
クラムは剣を高く振りかざした。
「そんな力だけの文明なんかに負けないし、生き残る価値があると誇りをもって言える!!」
「やる気になったか」
そう言うと甲冑の男は剣を構えた。
その瞬間クラムはかざした剣を甲冑の男に向かって投げ飛ばした。
「何⁈」
クラムは甲冑の男が防御をしているうちに後ろを振り返り全速力で走り出した。
(逃げないと!あんな奴に勝てっこない。武器なんて握ったこともないんだぞ!とにかく今は逃げて隠れるんだ!)
「逃げるな!」
甲冑の男は剣を振るった。
その斬撃がクラムの背中を裂いた。
「うっ」
クラムは傷を負いよろけながらも足を止めなかった。
「待て!クソ!」
「あらあら逃げられちゃいましたね」
「まぁいい。あんなやつ逃げたところで生き残れないだろう。放っておいても問題ない。他の奴を探すか…」
「はあはあっなんで、なんでこんなことに…!!」
クラムは痛みを堪えながらあてもなく走った。
第二話リンク
https://note.com/preview/n97b290a3820a?prev_access_key=1e1466b471610e8ef542046ae6fc87e9
第三話リンク
https://note.com/preview/n770e8c1b5963?prev_access_key=7685b3628fb661f16d8154bc70e592c4