四国遍路
四国で生まれ幼少時を過ごしたので、お遍路さんについてはその言葉も知っていた。今年とうとう80才を迎える年齢になったが、自身が歩き遍路をすることはなかった。大学生になるまでは人並みに順調な歩みを続けて来たのだが、転落の人生は学生時代から起こり始めたように思われる。
遊び惚けて親に迷惑もかけた挙句、働き始めたが、頭でっかちで周囲がみなバカに見えたのだろう。思い上がり、世間知らずでしかなかったけれどプライドだけは高かった。その反面、心の中にはそんな自分が嫌で嫌で仕方なかったもう一人の自分もいた。
失職・倒産・再就職などを繰り返し、プライドもズタズタになった。
それでも、『俺は違うんだ! 俺は・・』と思っていた。
解決する方法はないかと書物も読み漁ったが、さまざまなタイプがいる人間社会ではそれを頭の中だけで解決できるはずがない。プライドを捨てる!言葉では簡単だが、これほど内面的に切り替え実行することは容易ではない。
余計な知識教養も邪魔をするのだろう。理屈で解決できぬことを知っているのに、自分を正当化しようとしてしまう。駄目だな!
そんな折、子供の頃に見かけたお遍路さんの姿が思い浮かんだ。
自分を見つめ直すために四国遍路に出よう!と何度考えたことか。
それでも結局実行に移すこともできずにズルズルとここまで来てしまったが
世間体などどうでもよくなり、心の中の誤ったプライドを少しだけ捨てられたのは今の年齢になってからだと思う。人はそれぞれみんな違う個性なのだ!というこんな当たり前のことが判りかけたのも50歳過ぎた頃だったし、他者への慈しみの気持ちも芽生え始めたのだった。