プラプラ堂店主のひとりごと㉘
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜
抹茶碗と抹茶のはなし
「たまには、お抹茶でもいかがですか?」
ぼくが店でぼんやりしていると、抹茶碗がそう言ってきた。
そうだよな。新しい年にお抹茶をいただく。いいかもしれない。でも、抹茶なんてうちにはないぞ。だいいち、ぼくは抹茶の立て方も知らない。でも、母がお茶をやっていたから、うちに道具は一通りあるんだ。
そう。この古道具屋をオープンするきっかけは、この母の抹茶碗のおかげだった。今までのぼくは、店を開いて、そして軌道に載せるのにいっぱいいっぱいだったなぁ。そういえば、一度もこの抹茶碗を使ったことがない。いつもアドバイスはもらうというのに。これからは、ときどきは抹茶を飲む機会を作ってもいいじゃないか。
そんなわけで、ぼくは抹茶を買いに行くことにした。どうせなら、ちゃんとしたお茶屋さんで買おう。まずは抹茶をいただけける場所があると、なおいい。調べると、月寒にお茶屋さんのやっているカフェがあった。工場の近くのその店はまだ新しく、和の雰囲気の落ち着く店だった。店内の一部はお茶や茶道具などの店になっている。ウェルカムドリンクに、体にいいというお茶が出た。ふう、あたたかい。ほっとするなぁ。メニューもいろいろあって楽しい。和のパフェや、あんこのサンドイッチなんかもある。目移りするけれど、今日は抹茶だ。抹茶と和菓子のセットを注文する。お盆の上に、抹茶と桜の花をイメージした練り切り。抹茶碗には、小さな雪だるが描いてある。
まずは、練り切りを一口。うん。上品な甘さだ。美味しい。そして、抹茶を一口。ん?思ったより、苦くない。…こんなに飲みやすかったっけ。そうだ、こどもの頃、母に無理やり飲まされた記憶があるからかなぁ。どこかに苦手意識が残っていたのかもしれない。抹茶って、本当は美味しいんだな。
「二煎目は、お好きな時に声をかけてくださいね」
お代わりがあるのか。うれしいな。今度の抹茶碗は桜だ。ゆっくりといただく。すっかり落ち着いた気持ちになった。
うん。たまに抹茶もいいな。店には数種類の抹茶が置いてあった。ぼくは、今日飲んだ抹茶と同じものを買って店を出た。自分で抹茶を立てるのも楽しみだな。いろいろと難しいやり方はヌキだ。まずは我流でやってみよう。
あ。でも。
あの抹茶碗が黙っていない気もする。あれこれ「違う!」って、怒られそうだなぁ。
ま、気難しい先生がついているのも悪くないかもしれない。