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蔵書紹介:『ILKA SCHÖNBEIN UN THÉĀTRE CHARNEL』(2017年)

『ILKA SCHÖNBEIN UN THÉĀTRE CHARNEL』
Naly Gērard  Marinette Delannē(写真)
I'OEIL(フランス)刊 2017 

図1

 イルカは、ドイツの人形劇芸術家。彼女の上演を最初に観たのは1994年のフランス・シャルルビルメジェール世界人形劇フェスでのことでオフ公演の街頭上演、市立劇場の傍で建物の壁に囲まれた狭い抜け道の折階段、そこが屋根のないイルカ劇場だった。
 早く行かねば座れないと聞いたから1時間ほど前に行ったがもう立錐の余地なし、ごみ箱の上も壁の窓枠に腰掛け、小屋根の上までも。そして松明の火が焚かれ、ほとんど脂肪も筋肉さえも拒絶したような彼女が立ち上がり、まずは洗濯物、雨傘などを遣う。そこには人形劇では見慣れたモノであるはずなのに、一切の言葉を発しない彼女の白塗りの肉体と思考から伝わってくる圧倒的な表現力を感じさせて、固唾をのむような1時間近いパフォーマンスの終演後、すべての観客は彼女に近寄り、声をかける。置かれた帽子に投げ入れ、その場の興奮は長い時間途絶えなかった。
 「いつか日本でも」と声をかけると、彼女は全身白塗りで唇を動かさず目を見開いたまま「Ich möchte(私も期待する)」と小さな声を発した。それが最後の街頭公演で以降、劇場へ上演の場を移し、「冬の旅」「さもないとお前を食らう」などの新作を立て続け発表し、21世紀人形劇芸術にILKAの世界を確立している。あれから15年、未だ来日の計画はないままだが、、。
 初期街頭時代を含む1994-2014の132頁は圧巻の写真集。

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