魚が泳いでいく

生きたお魚みたいなんだ。

先生が手にした木刀は。

水の中をスイスイ泳いでいくの。

ヒラリヒラリと華麗に身を翻しながら。


木刀なんだ。

私が手にした木刀は。

いや、木刀なんだけどさ

なんていうの? THE 物体って感じ。

生きてないのよ。


そんな私に先生は、
身を木刀に含ませる方法を教えてくださった。
(詳細は先生にお尋ねください)

立ち方がポイント

立ち方が悪いと、木刀に身を入れられない。

私の場合は、立っていても しゃがんでいる身体に
することが必要だった。


上半身は立っているけど、下半身は常にしゃがみ続けている

そんな立ち方をしたら

先生のように、いきのいいお魚じゃないけど

ヨロヨロって感じだけど

とりあえず魚には なったよ。


立っているけど しゃがんだ状態で立ち、

自分を、相手という月を映す水面にして

自分の身体で木刀の位置を整え

定まった位置にある木刀に、自分の身を入れていく


そうすることで、手にした木刀が
自分の身体がつくりだす円環の中におさまった。

木刀から生きたお魚になった。


木刀が木刀の時って(いや常に木刀なんだけど)
木刀、はみ出してるんだ、
身体がつくりだす円環から。

木刀は木刀で存在し、私は私で存在している。

別々の円環なの。


でも、木刀を中心に据え、
据えた木刀に身を入れることによって

木刀と私は同じ円環に居ることができる。

すると、木刀が私に含まれるんだ。


「この感覚は大切なんですよ」

木刀をスイスイ泳がせながら、先生は おっしゃる。

「この身体になれないとできないことが、剣術には
たくさんあるんです」


そうでしょうねと、私は思う。

人形も、この身体になれないとできないことだらけですよ。


だって、先生の手の中にいるお魚

活き活きと泳いでいるお魚は、同じ動きをしているもの。

私が、やりたくてもやりたくてもできなかった

うまい人形遣いさんの人形と

同じ息遣いで動いている。

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