筆は空中にある
墨をふくませた筆が、半紙の上にベチャッと置いてある。
半紙にじわじわと黒い染みが広がっていく。
私は、そんな身体で運動を始めようとしているのだと
体幹内操法の先生が気づかせてくださった。
半紙に字を書く前
つまり、筆先が半紙に接触する前、
筆は空中にある。
空中にあるんだ。
ベチャッと置いてあるところから始めると、
何かが弛緩している。
身体は、古くなって弾力を失ったゴムみたい。
空中に置いてあるところから始めると、
身体が新品のゴムになる。
行ったら、戻ろうとする力が働く。
「筆は空中にある」
そう思いながら、今日は人形を遣った。
遣っていたら、
筆は空中にあり続けているんじゃないかな?と思った。
半紙に筆先が触れた時も、
筆の中程まで半紙に押しつけた時も、
グッと筆を沈める時も、
筆は空中にある。
正確に言うと、
筆が空中にある時の身体であり続けている。
筆が地面に落ちてしまったら
つまり、ベチャッと半紙上に置かれた状態になってしまったら
動きは終わってしまう。
だから、筆はずっと空中にあるの。
なんとなく、私の中ではそんな気がした。