刀が消える時
お腹で持つと刀が消える。
正確に言うと、刀の重さが消える。
腕で持つと、刀がある。
その刀は重たくて、私は振りまわされてしまう。
先生に教えていただいたところを使うと
腕じゃなくてお腹で木刀を持っている気がしてくる。
(あ、溶けちゃった)
胸元に抱えた木刀が、身に溶けて消えてしまった。
そんな感覚を味わった。
持っているのに持っていないみたい。
「刀を顕(あらわ)すことも消すこともあるんですよ」
先生が木刀を遣ってみせてくださった。
木刀が手品みたいに消えるわけじゃない。
木刀はある。でも木刀の気配が消える。
すると意識のセンサーをすり抜けちゃうんだ。
気にならなくなっちゃうの。
気にしてないといけないのに。
「オラオラ、近寄ってくぞ」って主張する刀と
「………」気がつけば近くに忍び寄っている
忍者みたいな刀がいる。
(消す方が難しいだろうな)と私は思った。
身に溶けこませられないと、刀は消えないだろう。
お腹で持たないと、消えないんだ。
腕で持っている間は、隠れられない。
いや、消すことだけじゃなくて、顕すこともできてない。
お腹で持っていないと、刀を顕すこともできてないんだ、本当は。
腕で持っている刀は、刀を見せているんじゃないの。
見えちゃっているだけなの。
顕したり消したりしているんじゃない。
そんな操作できてないんだ。
腕で持っている間は、刀を操ってないんだよ。