現象グラデーション公演後記。
実験短編集について
言葉と物語の関係性を再検討する実験公演「現象グラデーション」
台本に書かれた台詞を読むのが演劇ですが、俳優が発するセリフは人が喋るのとは違う違和感がいつも付き纏います。稽古中でも一旦カットの声をかけて、役者が役から抜けた途端、人間らしい会話が飛び交います。読むと喋るの違いと距離はなんなのか。松本人志がコントの中で自由に役を演じるように、台本は役者にとって絶対の存在である必要はないと僕は想っています。そのための実験を行いと想いました。
また短編作品は想いきったアイディアを実現するのに、演出的にも目が全体に届くし、観客にとっても負担が少ない利点があると想う。それに単純に通し稽古を重ねやすいというのも大きな戸バンテージです。
実際僕も過去20年の作品に順位をつけるならば、ベスト5の半分は短編作品です。
タイトル文字。
映像でさまざまなタイトル表現をすることも昔よりずっと簡単になったし、幻想的な表現を演出することもできるけど、演劇で、LIVEとして目の前に人が居るということの現実感を失わないために、近年の僕は映像や音楽を極力使わなくなってきました。
今回は数人の声を前もって録音して、リミックスした音声と、白い紙に蛍光塗料を塗って明るいところでは白い紙が暗くなってブラックライトを当てることで文字が浮かび上がるという演出をしました。
オープニングでは僕が朗読した宮沢賢治の「春と修羅」の序文の朗読を照明と音響にこだわって流しました。後日これはYOUTUBEで公開できるかな・・・。レシラ3音のピアノの繰り返しの曲が朗読中と各話のタイトルだしの時にかかっています。
①童話が生まれた
2011年にオムニバス公演でエレベーターホールの美術セットで行う芝居用に書いた作品です。東北の震災後、被災地に通ってその中で最初に書いた脚本ですが、セリフや設定に大きく震災が関わってくるわけではありませんが、廊下の窓から見える景色は震災後の津波に街の全てが崩壊された景色が広がる中、ゴミ処理場の煙突の描写だけが出てきます。
人の生活がある日突然の自然災害に奪われて、壊れた生活の全てを瓦礫(ガレキ)とは言いたくない。ゴミは生活そのものだし、その廃棄焼却は再生の象徴でもあると想いました。
認知症の介護施設が舞台で、痴呆の症状の中で母を待つ主人公の少女。自分を医者だと想い続ける室戸。死んだ娘が見舞いに来て会話を続ける桃山。三人は結果痴呆症状の中で夢をみているだけなのですが、警官や猫の死骸を捨てに来る小幡は、三人の夢の中に共通して現れます。夢が繋がって、進行していくのが本作の不思議な要素です。
デヴィッドリンチのツインピークスのような怪しい世界観で物語を包みたかったし、監視カメラに映らない猫の死骸を持ってくる小幡の謎な要素によって色々に解釈してもらえばと想いました。
ラストシーンでいつも母を待つ主人公は姉ではなく、母だと明かされます。母は妹ではなく娘の為に四葉を拾いに小幡と外へ出てしまいました。
小幡の存在や「外」とはなんなのか?不眠症の妹は、「母を待つ」と言い、実際は自分が娘であること明かし、母の眠っていた毛布に包まれ、物語は終わります。
夢の中でみんなはどこに行くのか。来ない者を待つ行為は何に昇華されるのか。
解説すれば、自分の中では辻褄は通してるんですけど、観客が自由に感じてくれて構わない作品だと想います。僕の代表作の一つだと想います。またいつか再演することはあるだろうか?
②まるで悲鳴みたいに
オープニング波の音に包まれる。飛び去る海鳥の声。一人立つ恵美子が補聴器を外すと環境音がなくなります。傍に立つ大木を、見上げる恵美子。心の声の音声が会場に流れる。そこが火葬場で、大切なひとが亡くなったと明かされる。それから火葬場の中で待たないかと声かけにくる次郎だが、次郎が話しかける声も、録音音声で流れる。
聾者の主人公の目から見える世界を再現するため、すべての音声を録音音声で展開しました。故に当日役者は、前もって録音した自分の音声に合わせて動くだけということになります。俳優から声を奪ったときにどうなるか実験性の大きな作品でした。
現在では火葬場に煙突はないですが、僕が故郷の街で幼い頃に行った火葬場で、立ち昇る煙突の煙を見上げ、親戚のお兄ちゃんが「これが人を燃やした匂いなのかな」と言ったのを覚えていて、その日の記憶が大きく本作品に描かれています。その日に僕は紙飛行機を海に投げようとしました。
本作では「さよなら」という声のみ3回だけ、役者の肉声で演じてもらいました。
もしも友人が知らない女の運転する車の事故で死んだと知らせがあったら?その女は友人の恋人だが、結婚していて不倫関係にあった。女は事故によって耳が聞こえなくなった。という設定です。
恋人が燃える煙を見上げられない女が主人公ですが、単純に感情移入は出来ないように、それぞれの登場人物の複雑な感情のありどころを描こうと想いました。
③君の頷く作文
本作は僕の作品の中でも随一ファンタジーな物語です。2015年サクラを題材にしたオムニバス公演で発表した作品で、会話台詞は排除され、すべてが登場人物による独白で紡がれる物語です。実際の会話の内容は明かされないまま展開しますが、本来は見えない心の内側の声が観客には伝えられます。
オイスケールの作品にはコミュニケーションが出来ない人間模様がいつも描かれますが、本作でも母が死んだことを隠す姉と、母を待ち続ける妹、妹は咲かない花を咲く日を待ち、その花が咲けば母が自分を見つけてくれると信じています。魚を釣ることが目的ではない釣り人と、愛犬が死んでも散歩をやめられない愛犬家が登場します。植物は何もなくただ生きています
姉の言葉に少女が頷くまでのダイアローグが描かれます。
優しい物語が書きたい。って考えていたのに、僕が書くととても寂しい物語になってしまう・・・・。
ただ生きてるだけでいいんだよって言いたい。
辛くなったら林灰二に連絡くださいね。
本作も海峡に突き出した僕の故郷の港町をイメージして描いた作品です。
④wakka2023
全編通して、タイトルコールの時に流れていた音楽は本作のテーマ曲でした。本作と「加担」だけはタイトルコールがありません。
「今」から始める連想ゲーム。単語を積み重ねて、その音を発して、皆でくり返してみたときに物語に手をかけるイメージの共有が出来ないかという試みです。
脚本を書いての創作はせずに、何度も繰り返しながらパフォーマンスを作っています。なのでアドリブのようにも見えますが、決まった台詞と進行を10人で共有しながらパフォーマンスを行っています。
本企画の最後を飾る作品だし、自分にとっても特別なチャレンジをしている作品です。正直今回は10人揃っての稽古が数回しか出来なかったこともあり、まだ正解を見てないので、許されるならばまだ創作を続けたいです。
時計回りに単語を積み重ねていく。時間と共に。そしていつか忘れる。
忘れた記憶を辿るために半時計回りに時間を戻してみる。
全てが「今」の中にある。夢だって過去だって未来だって今の中にある。
ワッカメンバーがタイトルコールを出して、観客の誘導をしていました。
現象グラデーションの全てがwakkaの中に包まれるような作品になれたら良いと想っていました。
⑤以心伝心、或いはテレパシー
夜のキャンプ場を舞台にした2組の母娘の物語。テントサイトからトイレにいく途中の林道で流星群を見て、鹿の目が光るの見る。が中々四人の心は通じている様でバラバラの方見ているのが客席からは分かる。
「これ」「それ」「あれ」で意思疎通を行う日本語を操る日本人の特殊能力を可笑しく切なく描きました。
最後にいじめられっ子の少女は見えない流星群に、ここにいない父親に向かっての想いを叫びます。
割と好きな脚本です。
⑥マテリアルガールと黒猫
20年テレビではなく舞台で笑いをやり続けてきた自負もあるので少し“笑い”を意識した作品でもあります。とあるバイオレンス映画を話の下手な女が話した、聞き手の頭に広がった模様を再現してみたという作品です。
台詞についての短編集を行うにあたって、書き下ろすのに割と早い段階で想いつていた作品です。
映画の再現シーンではなぜか役者たちが思いきり演技をして楽しそうだった。
⑦加担
加担だけは1作品で1プログラム。計4ステージやらせてもらいました。
自分の闘病記を下敷きにしつつ、闘病中に想っていた家族のことや創作のこと、川崎の家と公園のこと。色んなエピソードトークを交えながら、物語の中に自分が役として入り込んだり、作家として出てきて物語について側面から語ったり、トークアトラクションと銘打ってやっている形式の新作になります。
⚫️観客と僕。物語を語るパート。物語を書く自分についてを語るパート。
⚫️姉と僕。少女と僕。物語を演じるパート。
で照明は別れて、客席の明かりもついたり消えたりします。
公園で出会った少女との出来事を演じて、また僕がどうやって物語を作っているか。それを観客に話しかけ、同居する姉が話を聞いてるという設定で僕に答えていく。幽霊の存在の曖昧さを通し、演者と観客の関係性までを考察するという作品です。
共演してくれたさくらさんとひとみんさんは、ずっとこの作品と僕の味方でいてくれて心強かったです。
加担は4ステージ演じながらも、どんどん台詞の言い回しや自分の立ち振る舞いも変わってきました。音響、照明についても、ある程度臨機応変にゆるいルールでやっているので、スタッフワークとの呼吸も、もう少し時間が欲しかったのが本音です。本当に悔しいしまだ演りたいけど悔しいことはいくらあってもいいですよね。やらなければいけない事があって、それに情熱を持てるなら幸せなことなのだし。
加担を観てくれた皆様。沢山脚本を買って頂きました。ありがとうございました。加担については後日動画・脚本を公開したいと想います。無料・有料・また配信の方法については、劇場に足を運んでいただいた皆様と、機会が合わず見逃してしまった方、また自分の気持ちそれぞれ考えて最善の方法で、追ってお知らせ出来たらと想います。
加担の内容について、あれは事実なのか?どこが本当なのか?って聞かれるんですが・・・それについては全て創作でフィクションと答えています。あまり本作に関してどこの部分が真実かについてはあまり重要じゃないし、オープニングでスケルトンホームレスのように演劇だから嘘をつきますと断りを申しあげました。劇中でそれについてをまさに話していて、過去の出来事の記憶の掠れの補填、興味のある見えない部分へ想像で物語が出来上がります。本作も例外じゃないです。
ただ言いたいことや言ってることは全部本気で話してるんで、僕の筆圧も話の熱量も嘘と真実の境目はないです。それが本作の特徴であって、僕の執筆と演技のスキルでもあるっすよね。
集合写真
会場内の模様
企画公演・実験公演のこと
本公演とは区別して企画公演を継続して行なっています。
作品への向上心を最優先に持つことはもちろん変わり無いですが、ワークショップやオーディションにきてくれた若い俳優との初めての作品創作の場としての側面もあります。あるテーマにそって今回の様な実験的な場であったり、演劇界外部との表現者との作品共作の場として発表する場合もあります。本公演よりも、より自分を生々しく表現できる場合も多くありますし、僕は現代アートや映画や音楽も好きなので、そう言った要素も取り入れていきたいですし、食や街とのコラボもしたい。初めてOi-SCALEを観る観客層、またよりコアな劇世界を掘りたい観客へもアピールできる企画をしていきたいと想います。
映画やキャンプや怪談ともコラボした演劇イベントもやりたいな・・・。
「現象グラデーション」楽しかったけど、大変だったな。
2023年、暑かったけど短かったよな、夏。BY稲村ジェーン!
ご来場ありがとうございました!