おばあちゃんのはなし 16

「二人旅」

 まだおばあちゃんも自分も若かった頃、二人で奈良に行った事があります。若いと言ってもおばあちゃんはもう80歳を超えていましたが。
 私は仏像を見るのが好きで、だったらおばあちゃんも一緒に行こうと、車で休み休み4時間ほどかけて出かけました。

 たくさんのお寺、たくさんの見所がありますが、私はどうしても見たい仏像があって、私はその場所で30分くらい、仏像の前にじっと座って鑑賞してしまいました。おばあちゃんはその間、急かすこともなく、境内の景色を見たり、お寺の方と話をしたりして待っていてくれました。
 たっぷり一泊の旅だったのに、私の見たいお寺を三か所くらいしか行かず、おばあちゃんが行ったことのない、見てみたい所も聞かず、ご飯もその辺の適当なソバ屋でとっとと済ませて。宿もお世辞にも良い部屋ではなく、窓から入る虫やすきま風に「困ったねぇ」と笑いながら我慢してくれて。

 移動中、車のシートにずっと座っているのもきっと辛かったでしょう。
エアコンをかけると肩が冷えるけど、「止めると暑いだろ?」とタオルを羽織ってくれて。私がシート少し倒して寝てもいいよ、と言っても「ええよ ええよ」と運転している間中起きていてくれました。

 せっかく持っていったカメラ、風景写真ばかりでした。
たった一枚、宿の前で二人で並んで撮ってもらった写真があります。
二人ともニコニコしていました。

(2009.4.23の記事転載)

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 おばあちゃんと遠出をしたのは、この時と、妹と三人で京都に出かけた時くらいです。まだ就学前の小さい時にはおばあちゃんに連れられて、老人会の旅行やらなんやらに良く出かけていたらしいのですが、物心ついてからは数えるほどしか一緒に出かけた記憶がありません。
 なんとなく、おばあちゃんと旅行する、という事に照れがあったのだと思います。なにもわざわざ毎日一緒にいる家族と、とか思ったり。

 今、職場で「孫と食事に出かけたんだよ」とか「今度の休みにはひ孫が遊びに来てくれるんだよ」とか「運動会の写真を送ってくれたんだよ」とか、孫の話を聞くと、それがどれだけ嬉しい事かが分かります。

 私だけの想い出だけじゃなく、もちろんおばあちゃんの想い出にもなっているわけです。若い時は人の想い出を創るという事までは気づきませんでした。


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