おばあちゃんのはなし 9

「おじいちゃんのはなし」

 認知症の事を書いたので、おじいちゃんのはなしを。

 おじいちゃんはしばらく認知症を患いました。
会話がかみ合わなくなりおばあちゃんとよくケンカをしました。
思い出せる記憶は、いつでも寡黙で晩酌をしながら水戸黄門を見ていた事。畑に行くのが楽しみで休みの日はお茶(お酒だったかも)を持って朝早く出かけていった事。たぶん真面目に仕事した証として会社からの表彰状のような物があった事。

おじいちゃんは時々その時の自分に戻りました。

尿意が解らなくなりオムツをしていましたが、今のように使いやすい紙オムツがなくて、平たい薄いオムツを大きなビニール製のオムツカバーでつけていました。

「仕事に行く」

ある日そう言って自分の革靴を出せと言いました。何とかごまかそうとしても「行く」の一点張りなので、靴を出して様子を見ていました。
寝巻の浴衣が少しはだけて、黄色い大きなオムツカバーが丸見えになっても、それでも一刻も早く外に出ようと靴を履きます。

一歩外に出て足が止まります。

<ここは 自分が通う 通勤路じゃない>

どういう事なのか解らないという顔で玄関に立ちつくしています。
自分がどちらへ行くのか、どこを曲がるのか、ゆっくりを首を回していくけれど、答えが見つからない。
狐につままれたような顔をして。
オムツをして革靴を履いて。

「家に帰ろうか」
「・・・うん」

おじいちゃんは静かに家に入って行きました。
働きに行きたいのに行けない。
畑仕事をしたいのに行けない。
でも自分ではどうしようもない。

毎日がそんな事の繰り返しだったのだろう。

(2009.3.24の記事転載)

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今ならば、おじいちゃんのこの生活をもっと違ったものにできる方法をたくさん知っている。おじいちゃんがもっと満足できたはずの対応を知っている。少しの知識と経験があるだけでおじいちゃんの心がきっとガラッと変わったはずだ。

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