おばあちゃんのはなし 20

「ボランティアさん」

 前のデイサービス(通所介護)施設で仕事をしていた時の話です。

 職員が入浴介助などしていて忙しい時間には、お年寄りの話し相手をしてくれるボランティアさんが日替わりで来てくれていました。全く個人で登録してくれている方から、民生委員や婦人会などの団体から順番で来てくれたり、曜日でローテーションを組んでいました。

 Tさんは個人のボランティアで、介護保険の施設として開館する以前から、ごく小規模でやっていたお年寄りの集まりの事業でボランティアをしてくれていて、規模が大きくなっても変わらず参加してくれていました。
 彼女はとにかくよく喋り、町内の事にも詳しくて「あの人がどうした」とか「あの場所がどうなった」とか延々と話し続けます。止まる事がないお喋りに現場のパートさんの中には「もう少し落ち着いて出来ないものか?」「うるさくて他の話が出来ない」とやや疎ましく感じる方もいました。

 ある日、お年寄りを送る車にTさんも同乗していつものように賑やかに喋っていました。みんなを送り終えて一息。

「みんな普段は家で一人の事が多いでしょ~~!だからここに来た時くらいは寂しい思いをしないように常に話をしてあげたいの。だからついずっとずっと喋っちゃうんだよね~!」

 さらっとそう言いました。

 職員は仕事に追われてゆっくり腰を据える事も出来ない。楽しいだけの会話以外の話もしなくてはいけない事もある。話のネタがなくて詰まってしまう事もある。でも、みんなに楽しいで欲しいという思いは一番の基本なわけで。
 それを一番頑張って、しかも無意識に実行できていたのはTさんだったもかもしれないです。

(2009.7.16の記事転載)

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 私は小規模の集会事業を担当していたので、Tさんとは長い付き合いです。規模が大きくなって雇ったパートさんはもちろん、後輩の職員よりも長いです。最近はTさん自身がけがをしたりでボランティアも断続的に行っているようですが、弾丸トークは相変わらずだそうで。
 私が帰省をすると約束したわけでもないのに、なぜかTさんと道端でばったり遭遇することが多いです。「また会えたわね~!」「Tさん待ち伏せしてんじゃないの~?」とか言いながらTさんの軽快な喋りは続きます。偶然会えないときはちょっと心配になってみたり。
 今の職場でも話に詰まると「Tさんがいればなぁ」と思ったりします。

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