リファレンスチェックとかいうのがあったので選考を辞退した話

 わたくしシステムエンジニア。思うところがあって転職活動中である。
 温度感としては「もう少しお金をくれたり休みが多かったり女を用意してくれたりする職場があったら移ってもいいかな」程度で、是が非でも現職を辞めたい感じではない。
 ということで各転職サイトに届く面接のお誘いに対して、知った名前の企業に手当たり次第に返信しているのだが、今回耳慣れない選考フローに出会うこととなった。

 事の起こりは一次面接に通った後である。相手先は新進気鋭のSaaSを展開する「だいぶ大きくなったベンチャー」という風情の会社。Java中心の会社だったため、サン・マイクロシステムズの亡霊と言われたほどのJavaラーである俺としては好感触にしかなりようがなかった。
 当然のような気持ちで選考通過の電話を受け、次のフローの日程調整をばというところ、人事担当者から出てきたのはこの言葉だ。
「最終面接前にリファレンスチェックを受けていただきたい」
 不勉強ながら『リファレンスチェック』というものを存じ上げず、そしてそれはどうやら世間にもそれほど浸透しているものではないらしく、電話口の彼は慣れた調子で説明してくれた。
「職務経歴書や面接内容の裏付けを取るため、弊社からあなたの現職の上司の方に直接、あなたの働きぶりをインタビューさせていただきます」

 んん?

 いや、俺は彼らに上司の名前も連絡先も教えてないし、インタビューしたいと言われてもそんなもん本人や会社の許可なく教えられるわけがないじゃないですか。
「はい。なので求職者ご本人から、リファレンスチェック対象者に対して交渉し許可を取った上で連絡先をお知らせください。ちなみに報酬は特にないです
 えーとつまり、わたくしが、わたくしの上司に、わたくしが会社を辞めてよその会社に行くために、その会社に対してわたくしの素晴らしい仕事ぶりをアピールしてくれ、ボランティアで、と交渉しろと、そう仰ってるわけですね。

 えっ、、、無理です(笑)

 常識で考えてみていただきたい。社員の自己都合退職は概ね会社にとっての不利益である。中でも一番不利益を被るのは直属の上司であり、たぶん部下が辞めたらもっと上から怒られる立場だ。わざわざ自部署の戦力を減らし、偉い人から怒られるために部下の転職活動に手弁当で協力する悲しき中間管理職。いるとすれば考えられる人物像はただひとつ、ドMである。

 そして求職者側としても、このタイミングでは当然ながら内定も出ていなければ待遇も確約されていない。現職に「わて転職活動してまっせ」と堂々宣告し、自分と上司の個人情報を無料で差し出した挙句に、面接で落とされたり年収200万で雇ってあげると言われたりする可能性があるのだ。こんなのどこのド阿呆がやるというのだろう。無理に決まってんじゃん馬鹿なんじゃないの。
 ※この辺きちんと説明すれば前職の上司でもOKになることがあるらしいけど、前職ってもう9年前で、そんな昔の働きぶりを聞いてなんの意味があるんだろう。それに当時の上司はお年を召しており定年は確実に迎えてるしそれどころかもう死んでんじゃねぇかな

 ということで以降の選考は辞退することにしました。

 こんなもん受ける奴おるんか、と思ってたけど、調べてみると外資だとけっこう当たり前らしい。
 すげぇな。カルチャーショックだ。「海外では転職は当たり前」とは聞いていたけど、もはや「ひとつのポジティブな選択肢」というレベルではなく、「積極的に推奨すべきだしむしろ転職しないような奴はダメ」という世界なんだな。
 だってさ、普通に考えて部下が優秀だったら長く勤めてもらった方がビジネス的にも有利じゃん。部下が部下の選択でいなくなるのは仕方ないとして、それに積極的に手弁当で協力するのが当たり前の文化って、ビジネス的な有利不利を越えて「ひとつの会社で長く働くなんて人としてダメだよね」という観念がなきゃ成立しないと思うんだ。

 まあ「日本で優秀な人を採用する」という目的に対しては悪手も悪手だろうけど。
 異文化理解に近づけた有意義な一幕であった。

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