#1
アインシュタインの相対性理論に関する考察本が、ベッド横のチェストの上に置かれている。理論上、人類が未来に行く事は可能だという。
「タイムトリップなんて、現代を生きる人間の傲慢さがそのまま表れた欲望だわ」
思う節があるのか、自嘲しながら彼女は言う。
「そもそも古代では、時間という概念は普遍かつ絶対だった」
布団を口元まで被った彼女はそう言うけれど、時間が絶対的なものではないという事を、俺は肌で感じているのだ。この部屋で過ごす彼女との時間は、外の世界とは遮断されているかのように、ゆっくりと穏やかに流れている。多くの秘密と障害を持つ俺達は、シェルターの中で暮らすように、二人で身を寄せ合っている。
彼女がいれば他に何もいらない。そう思うまで、俺には多くの時間が必要だった。
ベッドに横たわる彼女の手のひらを握る。彼女の翠がかった瞳に俺の姿が映る。それだけで、心臓に体温が流れ込んで、心地よく痛む。過去に失ったものを差し引いても、俺はきっと幸せだ。
ふっと彼女が微笑みを見せる。
「少しだけ眠るわ」
ゆるやかな欠伸と共に、彼女はゆっくりと呼吸をする。おやすみ、と俺は彼女のふわりとした髪の毛を撫でる。
俺達は夢に潜り込んで、何度もタイムマシンで旅をする。
(一部抜粋:同人誌「夢にタイムマシン」2020.8.23発行 / パンプキン)