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俺は途方に暮れていた。十二月の乾いた空気が疲れ目をちくちくと刺してくる。 「すみませーん!」 先ほどから古い民家に向かって声をあげているが、応答はない。 ずいぶんと久しぶりにやって来たこの町は時間が止まっているみたいだ。さびれた駅から徒歩三十分にある、片田舎の景色。車が通るのもやっとなほどの細い道に、密集する古い家。昔から変わっていない。 冬風が小道を吹き抜ける。晴天の下に侘しさが積もっていくのを散らすように、俺はわざと声を張り上げた。 「誰かいませんかー!」 俺の
商店街を歩いていると、見覚えのない店を見つけた。小さな看板には「旅できる香水」と書かれている。誘われるように私は引き戸を開けた。 「いらっしゃい」 出迎えた店主は、想像とは違って渋い顎髭を持ったおじいさんだった。 「旅できる香水屋にようこそ」 店主は私に、目の前にあるソファーに座るように促した。 店内はずいぶんと殺風景だった。無機質な空間に不釣り合いなほど柔らかなソファーが私を包む。ほどなくして、店主が棚から小瓶を取り出し、私にそれを渡してきた。 コルクを開けると、
十二月を彩る赤や緑に混じって、カラフルな光が乾いた空気に溶け込んでいく。 地下街の広場に飾られたツリーは、毎年のようにデザインが変わる。ホワイトベースで統一した年もあれば、カラフルさを演出する年もある。今年は、様々な形を施したオーナメントが緑色のツリーに点在していて、懐かしさが喉元に込み上がる。子供の頃にはあんなにもクリスマスツリーにときめいたのはなぜだったのだろう。 クリスマスまであと十日。仕事の疲れを引きずったまま呆然とツリーを見上げる私の傍を、手を繋いだカップルが