『ひまわり』とすごい絵
大学生の頃にバイトしていたコンビニは今は亡きローカルチェーンで、はっきりいってあんまり流行っているとはいえない感じで、特に地元の人たちが出かけている週末なんかは実に閑散としていました。
そしてなにせ、とてつもなくゆるいところだったので、私語も平気。
というか、同じ時間帯の人といかに私語を通じて仲良くなれるかが仕事のようなところがあって、ここでお付き合いを始めたカップルもいたし(そして付き合い出して、即座にふたりとも辞めた)、イケイケ系の先輩に二股の掛け方を教わったり(実践したことは一度もないけど)、いま思えば給料泥棒といってもいいくらいでした。
まあ、だから潰れたんだろうけど……。
そんな実にテキトーなバイト生活だったのですが、自分が週に何回か入っていたうち、日曜日のシフトは常に2人体制で、相方は年上のお姉さんでした。
このお姉さんはヴィジュアル系バンドを黎明期から追いかけていたいわゆるバンギャで、インディーズ時代のLUNA SEAの話とか、BUCK-TICKの皆様が髪を突っ立てていた時代の話とか、DYNAMITE TOMMYさん(この界隈ではいろんな意味で有名な方です)の数々の伝説とかを教えてくれました。
とはいえ、このお姉さんの本命は、XでもB-T(BUCK-TICKの略字)でもLUNA SEAでもなく、BY-SEXUALでした。
第2次ヴィジュアル系ブームを中学生で通った自分は、別冊宝島をひたすら立ち読みするなどして勉強を重ねていたのですが、第1次ブーム世代のバイセク(BY-SEXUALの略称)は全く知りませんでした。
その時点でバイセクはかなり前に解散していたのですが、その後に一部のメンバーがZIGZOというバンドを組んでいたことを知り、さっそくCDを借りて聴きました。
といってもそのZIGZOもすぐに解散してしまったらしく、アルバムは2枚しかなかったのですが。
それを聴いて、もうなんというか、心臓にビビッと……みたいなのは別になく、曲がポップなわりに、けっこう歌詞が暗いというか内向的だなあと漠然と思った……と思いますたぶん(うろおぼえ)。
CDには焼いたものの(CDに焼く=レンタル店などで借りたCDをパソコンに取り込み、電器屋などで売られているCD-Rに書き込む作業。個人で楽しむ分には違法ではない。ゼロ年代はわりと主流であった)、とりたててヘヴィーローテーションというわけでもなく。
そもそも解散しているのでライブもなく、完全にお姉さんとの会話の糸口として聴いているような感じ。
『ひまわり』という曲がいちばん売れたと教えてもらって、最初はそればかり聴いていました。わかりやすい歌詞(に見せかけて本当は重い内容だけど)と、たまたま夏だったこともあって、さっそくmp3プレイヤーに入れ、いろんな場所で聴きました。
mp3プレーヤーというのは2000〜5000円くらいの手頃な価格で売られていた携帯音楽プレーヤーで、iPodやウォークマンが欲しいけど高くて手を出せない貧乏学生の味方でした。
安いのですが容量が少ないため、ハードディスクに入れたCDのデータの中から、好きな曲だけを厳選して入れていきます。サブスクがない時代は、1曲ごとにポチポチとクリックしてパソコンから携帯機に取り込んでいたのですよ。今おもえば実にめんどくさい作業だ。
さて、彼女とは次第に、漫画の貸し借りをするなどしてふつうに友達になっていったのですが、ある時に、彼女はとてつもなく絵が上手いことを知りました。
自分はどうも芸術的なセンスに乏しく、画家さんの個展にも行ったことはあるものの、いつもふわふわした感想しか言えません。
上手い(のはまあ当たり前ですね)とか、すごいとか、面白いとかは思うのですが、その程度の語彙力でしか表現できない。
そんな自分は、彼女の絵を見て、ただただすごくてかんどうしました。
というかいいようがありませんでした。もはやかんじすらわすれてしまうほどに。
それから自分は大学を卒業するとともにそのバイトを辞め、以後しばらく続いていた交流もいつの間にか途絶えて、そのコンビニは敷地周辺が完全に整備されて、跡形もなくなりました。
つながっていたSNSももうずっと更新がなく、なおかつ自分もそのアカウントは実質的に消してしまっているので、彼女が今どこでどうしているのか全く知らない。
ZIGZOは再結成して、『ひまわり』は2014年に再び録音されています。たまたまそれをYouTubeで知って、曲そのものとは全く関係がないのですが、あのすごくすごい絵(としか言えない)を思い出しました。
『ひまわり』はSpotifyでも配信されているのでいつでも聴けるのですが、あの絵を見る手段は今はもうありません。
あの絵をまた見たいし、またZIGZOの話がしたいなあ。当時は活動していなかったLUNA SEAの再結成ライブに行った話とか。
サウナはたのしい。