見出し画像

【もうすぐグローブ座】ハムレットお勉強note②

これのつづき

【ローゼンクランツとギルデンスターン】

この名を聞いて、半分くらいの人は『お前誰や』と思うかもしれない。

ローゼンクランツとギルデンスターンは、なんというか主要ではないけどちょくちょくでてくる、しかもスピンオフ作品が作られてしまうかんじの有名な脇役さんである。

簡単に説明すると、ふたりは王(ハム叔父)の命令で、ハムレットが陥った狂気の理由を探る役割として登場する。

彼らはハムレットの友人であるものの、ハム叔父の手先として偵察活動に従事し、最終的には例に漏れず死ぬ。(安心設計)




物語の役割としては、主人公の敵の手下(雑魚)、ドラえもんでいうスネ夫に近い。

作中、ふたりはおべっかをつかってハムレットに近づき、彼の本心を偵察しにかかる。
しかし聡明なハムレットは彼ら2人を表向きは受け入れるものの、内心ではまったく信用しないし、ちょっとというか…相当2人を馬鹿にしている。

ちなみに、作中ハムレットが信頼を寄せるのはホレイショーただ一人である。

お気づきかと思うが、ハムレットは非常に不器用な人間であり、心根では愛に溢れているものの一方でかなり用心深い。繰り返すが、心の底から信頼しているのはホレイショーただ一人である。

サザエさん風に言うと、カツオは最初から最後まで一貫して中島ァしか信頼していないということだ。


どの世界でも中島ァと菊池は最高のバディ、1600年初頭でもan・an重版は不可避なのである。

【こいつらの死】

ローゼンクランツとギルデンスターンの死は、かなりポンコツである。(と、わたしはおもう。)

現王はハムレットの猟奇的な様子に、次第に自分が殺されるのではないかという恐怖を感じ始める。

そこで彼は、ローゼンクランツとギルデンスターンをお供につけ、ハムレットをイングランドの外遊にむかわせるのである。

さすが天才であるハムレットは道中、現王のかいたイングランド王宛の手紙を盗み見する。

するとそこには、ハムレットを殺すように、との内容が書いてあるのである。

(ちなみに、おそらくローゼンクランツとギルデンスターンはこの手紙の内容を知らない。単にイングランドに外遊にいったら、目のまでいきなりハムレットが殺されるという、ふたりにとってもびっくりな展開である。)

手紙の内容を盗み見たハムレットは、現王の手紙の内容を『ローゼンクランツとギルデンスターンを殺すように』と書き換える。

そして偶然にも船を海賊に教われたハムレットは、ただひとりデンマークに舞い戻るが、ローゼンクランツとギルデンスターンは自分が殺されるとも知らずに死の旅を続ける。(ちなみに、ふたりはちゃんと死にます)

この件に関して、我らがハムレットさまは『良心にかすりもしない』と言っている。

友人2人殺しておいてこのスタンス、頼もしい限りである。


小悪党としてハムレットを騙していたふたりには罰が下って当然、という作者の勧善懲悪的なメッセージともとれるが、キャラクターとしては正直かなりサイコな発言である。

さすがの私もテンションぶちあがって『オッ!ハムレット結構イカれてんな!』と声をかけたくなる。

でもまぁ、義父がそうやって自分を殺そうとしてたら、やっぱり普通にムカつくしかっとなるよなぁというかんじである。

わたしもやるかもしれない。

【ハムレットのうっかりさん】

話は前後するが。

ハムレットはオフィーリアに尼寺へいけと狂気のままにつたえ、周囲に気が狂ったことを印象づけたあと、叔父にたいしてある罠をしかける。

旅の一座に王が殺されるシーンを演じさせ、その時の叔父の様子をうかがうというものである。

結果、現王はうろたえマンの広東風蟹玉となり、ハムレットは父が殺害されたことを確信する

ハムレットは頭がいいため、思い込んで突っ走ったりはしない。亡霊のいったことが嘘である可能性も加味して、検証を挟むのである。現代だったら博士課程進学不可避である。

天才過ぎる。

しかし。

ハムレットも人間なので、うっかりすることもある。

父の他殺説を確信したハムレットは、犯人たる叔父の殺害に積極的になっていく。
しかしあれやこれやしている間に、なんと人違いでオフィーリアの父、ポローニアスを殺してしまうのである。

いや~おちゃめ🥺

しかもあんまり悪びれない🥺

いや~さすが王子🥺

ハムレットはこのとき、息子の殺人現場に居合わせて怯えまくる母(ガードルート)を強く糾弾する。(どうして再婚した!とか、そんなかんじ)

抑えていた感情が爆発し、母への憎悪を言葉の雨のように降らせるのである。

しかし、そんなとき目の前に父の亡霊が現れ、ハムレットに『母を許すよう』に言う。
ハムレットは母のまえで父の亡霊と対話をするが、母では元夫の亡霊がみえないため、虚空と話をする息子に恐怖と悲しみを覚えるのだった。

『結局のところ、亡霊はいるのか問題』

ここでひとつ考えたいのだが、果たしてハムレットの前に本当に亡霊はいるのだろうか?
無論、目撃者が多数いるため亡霊らしきものはいるのだろう。しかし、その亡霊さんと対話に至っているのはハムレットのみである。

これはわたしの感想だけど、ほんとに父親が実の息子に復讐を望んだりするのかな…とも思ったりする。

ハムレットの頭のよさなら、『この義父、父殺したのでは?』と勘づきそうだし、復讐自体は本来ハムレットの心の中の欲望なのではないかともおもう。

母を許してやれ、と父の亡霊がでてくるシーンも、母を糾弾する自分の良心の呵責による幻想かもしれない。

うーむ、むずかしいところだが…それにしてもハムレットは何度読んでも新しい気付きのある作品である。

【オフィーリアの狂いと死】

愛するハムレットに裏切られ、父も亡くしたオフィーリアは、その純真さと併せ持った脆さから、気をおかしくしてしまう。

兄であるレアティーズ(冒頭でフランスへ戻っていたが帰国)さえ、オフィーリアは兄と認識することができなくなっている。

ハムレットの気狂いの理由がわからないレアティーズからすると、妹の精神崩壊は父と自身が心の底から恐れていた事態である。

オフィーリアは気がふれた行動を繰り返し、最終的に川で溺死をする。

ちなみにこの部分は、会話の内容としての(観客に伝えられる。語り手は、ハムレットの母ガートルードである。彼女はレアティーズにたいして、情景をこまかに描写しながら妹の死を告げる。

フィーリアは川へ落ち、しばらく浮かんでいたが暴れることもなくそのまま沈んだという。彼女は美しい花輪を枝にかけようとして足をすべらせたのだ。それは事故だった、と、ガートルードは語る。

オフィーリアの死の謎

それにしても、本来であれば舞台の脚本上、オフィーリアが溺死するシーンがあってもいいはずだ。しかし、オフィーリアの死はシーンとしては描かれず、先ほどつたえたとおり、ガートルードの台詞のみで観客に告げられる。(ここがガートルードっていうのも対比がきいていてとてもいいよね)

オフィーリアはガートルード曰く溺死、事故によって命をおとしている。


しかし、実際は自殺だったかもしれない。

キリスト教では自殺したものは弔われることができない。そのため、ガートルードは彼女が事故死した、と語った可能性もある。
作中でも、墓掘りの会話の中で、オフィーリアは自殺だったに決まっている、といわれているし、その可能性も大いにあるだろう。

しかしまた一方で、オフィーリアの死は他殺であった可能性もある。
なにしろ我々はその状況を見ていないのである。
私なんかは、ガートルードが殺しのではないかとすら思う。

ただひとつ確かなことは、オフィーリアという純粋な女性は恋人に裏切られ、父を殺され、失意のなか死んでいったということ。

ハムレットは父という存在の尊厳を守るため、愛する恋人を間接的に殺してしまったのである。

これこそが、悲劇のトリガーが引かれた瞬間である。物語はオフィーリアの死をきっかけに、大きな絶望に向かって展開していく。

オフィーリアの死こそが、その後のほぼ全ての登場人物の、そしてなによりハムレット自身の死を運んでくるのである。

つづく