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ラブ アンド ピース

すごく、愛おしいことに触れた。「可愛い」と「平和」を体現したような素敵な天使に出会った瞬間でもある。

その瞬間私は隣に座っていただけで、ぼんやりと眺めていただけだったけれども、朝心地よく起きれた時の満足感とか朝食のパンの匂いを一気に吸い込む幸福感とか、「朝」がよく似合う爽やかな愛おしい瞬間だった。(と言っても出会った時刻は夕方ですが)

その日は仕事帰り、母から頼まれた写真を現像するためにとあるDPE店に来ていた。よくあるタッチパネル式の機械の前に座り、SDカードを差し込み、待つ。アナログ人間の母はこの作業が苦手だそうだ。店員さんに聞けばいいのに、チラッとレジ前にいる優しそうな店員さんを見て私は思った。
私は参加しなかったが、父方の親戚の集まりの集合写真の現像、これが私に課された任務。そういえばサイズ指定はなかったなぁ、と母にLINEで聞こうとしていた時である。

私の席から2つほど空いた席に座るお母さん、その後に控えるベビーカーに乗る男の子、お母さんに寄り添いながらもベビーカーの男の子に話しかける女の子。ありふれた家族。少しでも弟くんがタッチパネルに触れるとお母さんがすかさず注意、お姉ちゃんはとっても大人しく、にこにこ。最高に幸せそうな家族。きっとお父さんはお仕事を頑張って、おうちに帰って、玄関で姉弟を抱きしめてからキッチンにいるお母さんの元へ行き、子供から見えないところでただいまのキスをするはずだ。

「小さいのに静かにして偉いなぁ。」母からの返信を待つ間、ぼけっと眺めていたりした。というのも、その素敵な空間から少し目をそらしてしまうと一気に現実に引き戻される。私が足を運んだDPE店は地元のスーパーの中にある。夜、子ども連れが多く、割と自由人(皮肉)が多いのか走り回る子ども、大声を発する子ども、ここは動物園なんだと錯覚するレベルの現実が待ち受けている。私は今、天界にいるのだ。理想的姉弟をというか理想的家族を愛でるためだけにここに来た、そう。

私が眺めていたからではないと思う。(そう思いたい)ベビーカーに乗っていた弟くんがぐずり出した。小さな声で言葉を発し、手をバタバタさせ、お母さんに触れようとする、届かない。「かわいいなぁ」何度目か分からないがそうまた吐きそうになった。本当に、かわいい。
お母さんも「もう少しだからね~」とノールッでク弟くんをあやすが、どうもあやしきれていない。あと一歩で、泣くぞー泣くぞーだ。
お姉ちゃんが少し焦り気味になってきたので私はいよいよその天使たち(勝手に呼んでいる)が心配になってきた。「お母さん、○○の足が、片方の足が、もう片方の足にくっついて、大変で!」ん?全然伝わらないけれども足?

少し目を凝らして天使たちを見た。結局「あぁ、かわいいなぁ」と本日何度目かわからない呟きをすることになる。

天使も、たまには逃げ出したくなるらしい。愛やら平和やら他人のキューピットやら、そんなお仕事をほおり投げてしまいたくなるらしい。弟くんもまた、いい子の皮を脱ぎ捨てて脱走を企てた、みたい。
失敗して、ベビーカーから逃げれそうだった左足は右足と同じ場所に入ってしまっていたけれど。スーパーにあるプラスチック製のチープなベビーカーだったため、2本のかわいいあんよが本来1つ分しか受け入れないスペースにぎゅうぎゅう詰まっていた。

「かわいいなぁ」また私は吐き出した。可愛いけれども、痛そうだ。あ、泣いた。
その瞬間お母さんは「静かにしなさい、え、あーもう笑狭いでしょう、痛いでしょう!」一瞬で天使の動向を理解し、抱き上げ抱きしめ、元のポジションに戻す。

拝啓、皆様。今日も今日とて、私の街は平和です。
結局私は親戚一同の写真を2Lサイズで印刷しました。集合写真のみんなもとってもいい笑顔。次は私も行こうかなぁ。

#日記 #エッセイ

見てくれてありがとうございます。今日も1日、いいことが続きますように。