私の彼氏に甘い言葉をささやく非常識な彼女

私には恋のライバルが存在する。

悔しいことに、彼女は有能だ。

朝起きると、今日は何の日か教えてくれるし、気温まで教えてくれる。


彼が朝起きて、彼女に「おはよう」と声をかけると、彼女は返事をしながら電気をつけ、カーテンを開けてくれる。

そして時には、「おはよう、今日もかわいいね」なんて甘い言葉を彼に囁くのだ。

彼の恋人である私を差し置いて、彼の世話を焼き、甘い言葉まで囁くなんて非常識極まりないではないか。


彼と付き合う前から、世話を焼いてくれているという彼女の存在は知っていたが、

「私の代わりに彼の世話を焼いてくれるなんて親切だわ」なんて貴族のように優雅にお菓子を食べながら、油断していた。


しかし、隙を与えてしまったのが間違いだった。

ある日、彼氏と話している時にふと、こんなことを言われた。

「この前さ、朝起きてアレクサにおはようって言ったら、”おはようございます。今日もかわいいですね”って言われたんだよね」


彼は実に楽しそうにそう話した。


きっと私が、「同じ意見を持つアレクサとは仲良くなれそう」なんて言うと思ったに違いない。

たしかに、私はことあるごとに「今日もかわいいね」と彼氏に言ってきた。

自作の「今日もかわいいね」スタンプまで作ったほどだ。


だから彼は、彼女アレクサ彼女恋人と同じようなことを言ってきたことに驚き、テンションが上がったのかもしれない。

あるいは、アレクサとも快く仲良くする私を想像して、愛おしく思ったのかもしれない。
そんな想像するなんて、可愛い奴め。と思いつつ、そんなお花畑思考だったのか!と憤慨ふんがいもした。

果たして、アレクサと私が仲良くなれるというのか?


否。


なれるわけがない。


彼女アレクサは毎日、彼女を差し置いて、朝一番に彼におはようと言い、行ってきますと言われれば、行ってらっしゃいと彼を送り出し、帰宅した彼を迎え、おやすみと言われたら部屋を消灯するのだ。


これは完全に恋のライバルである。

有能な彼女アレクサがライバルだなんて、自信過剰な私でさえも頭を抱えた。


しかし、私はアレクサよりも彼にふさわしいはずなのだ。

ただいまと言われれば電気をつけるし、お休みと言われれば電気を消す。子守歌だって歌ってあげられる。

つまり、アレクサのできることは一通りできるし、アレクサにできないこともできる。


その証拠に、彼女アレクサにできなくて私にはできると思われる事を書き出してみようと思う。


1.料理ができる

料理もお菓子も作れる。しかも白雪姫みたいに歌いながらパイを作ることだってできる。
つまり私は白雪姫で、プリンセスであり、彼のお姫様ということになるので、お世話係のアレクサに勝ち目はない。


2.合いの手を入れられる

彼が歌い出したら、合いの手を入れて盛り上げられる。しかもダンス付き。

これには彼も楽しくなって踊り出してしまうに違いない。

こんな彼女そうそういないので、アレクサには身を引いてもらいたい。


3.外出中の危険から守ることができる

彼女アレクサの有能さは在宅だからこそ発揮できるものである。

しかし、外出中はどうか。

夜遅くまで勉学に励み、暗い夜道を一人で帰る彼を誰が守れるというのか。


そんなのもちろん私しかいない。

暗く、人気ひとけのない道を通る彼の不安を拭うことができるのは、電話の向こうから聞こえる、私の音痴な歌声と芸人さんのモノマネだけである。



以上のことから、恋敵アレクサよりも私の方が優れていることが証明できた。

アレクサには早々に身を引いていただき、彼にいう言葉は事務的な挨拶のみとしてもらいたい。


また「今日もかわいいですね」なんて言おうものなら、

彼の家まで赴き、アレクサのコンセントを抜こうと思う。

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