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『となりの雑談』への憧れ

わたしには密かな憧れがある。

それは、ファミレスや喫茶店で隣の人たちの話を盗み聞きすることだ。
盗み聞きというと聞こえは悪いが、自然と耳に入ってくる、そんなイメージだ。

そんなこと?今すぐにファミレスにでも行ってきなよと思う人が大半だろうが、わたしにとってはカンタンなことではない。

好きなPodcast番組がある。
Podcastとは、ネット配信の音声コンテンツのこと。ラジオ番組のように、毎週何曜日の何時から配信とか、不定期で配信とか、番組によってまちまちだけど、遡って聴けるので自分の好きな時に聴けるのが良い。

さて、好きな番組というのは「となりの雑談」のこと。コラムニストのジェーン・スーさんと、雑談の人、桜林直子さんの雑談番組。物事の感じ方、捉え方が違うふたりが、それぞれの持ち物を出し合って、並べて、眺めて、全然違うね!とおもしろがって、認め合う。そんな、聴く人に共感と、新たな発見と、学びをくれる番組だ。興味のある方はぜひ聴いてみて欲しい。

番組冒頭、ふたりの話が温まってきたところで、ナレーションが入る。「喫茶店でたまたま隣に座った人たちの話が、耳に入ってきたな〜という感じで、サクちゃん、スーさんの話を聞いてみましょう」といって本題(雑談には本題はないか?)に入っていくのだ。

まさにコレだ。コレこそがわたしの憧れシチュエーションなのである。

補聴器ユーザーとはいえ、健聴者には聴力は及ばない。隣に座った人たちの話は、かなり断片的にしか聞こえないのだ。先日、こんなことがあった。

夫とふたりでファミレスに行った。

隣に座っていたのは白髪でメガネをかけた70代くらいの男性。誰かを待っているようで、20分ほどしたら50代くらいの男性が来た。少し日焼けをしてこざっぱりした印象。

「そんな、こっちに座ってくださいよ〜」
「いやいや、いいんだよ」
と言葉を交わしていた。
立場的には70代の男性のパワーバランスが上なのだろうか。でも、結局ソファ席は50代の男性が座ったので、圧倒的に差があるというんではなさそう。

その後の話は断片的にしか聞こえてこなかった。
「インプラントがね………歯医者が…」
「子どもが…」「…送って……すぐ施設に戻ったんで。…朝は捗りますね」
私にはこのように聞こえる。まさに、「少々お電話が遠いようで…」状態。くぅ〜、もどかしい。

しかも、これは夫が飲み物を取りに行っている間に集中して耳を傾けて聞き取った話で、かなり聞こえた方だ。
もう1m近付けば十分に聞き取れるだろうが、そんなことをしたらほぼ相席になってしまう。

想像を膨らませる。
インプラントの話?どういう関係?
社長と秘書?上司と部下?
放課後デイのような仕事をしているのか?それとも子育て中のパパ?
朝が捗るってことはふたりともシゴデキかな…

などと想像を膨らませていたら、30分ほどして帰って行った。

帰って行ったあとで、夫が
「隣の人、児童のデイケアの仕事してる人っぽかったね。」と言ってきた。
うんうん、やっぱりね。

「夜の仕事の人の方が、ルールを守るって言ってたね。」
え、それは知らない。

「夜の仕事の人はルール守らないんじゃないかって年配の男性が聞いたら、逆だって言ってたよ。どうやら、夜の仕事をしている人はお店に立たないと稼げない。その辺はシビアだから、子どもを預けるのもきちんとルールを守って、利用停止を言い渡されないように気を付けている人が多くて、余程、夜の仕事じゃない人の方がルールを守らない、いい加減な人が多いんだって。」

…なるほど。70代の男性の聞いたことにとやかく言うつもりはない。そういった事実があって、そういう風に感じる人がいて、そうやって世の中って回ってんだな〜とただ単純に、興味深い。

どうしたって、同じような人と同じような会話を繰り広げる毎日。偶然隣に座った、全然知らない人たちの話はあまりに新鮮だ。そして、少し嫌らしい話だが、無責任でいられる。

高校生たちの恋バナも聞きたいし、大学生たちのバイト先のムカつく先輩の話も聞きたいし、近所のママ同士の旦那の話も聞きたい。

わたしは、こんな話を聞ける夫が心底羨ましいのだ。隣の雑談にはワクワクが詰まっている。

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