夜明けを告げる鳥の唄
みんな、鳥になろうよ。
もうさいいだろ、重だるいヒトの体なんか捨てて鳥になっちゃえよ。
いっそのこと鳥になって広い視野で、高い目線から気持ちいい風を身に受けて大空を軽い体で優雅に舞うんだ。
そうすればもうみんな自由さ。
僕らを閉じ込める狭くて暗い鳥籠なんか鳥類の力強い脚力で蹴飛ばせる。
何者にも縛られずに、今まで何かの奴隷として、操り人形として拘束されていた息苦しさも忘れられて一石二鳥。
大地を踏み鳴らして咆哮を轟かせていた恐竜から進化した僕らが弱いわけないじゃないか。
都会のビル群から、街から、町から、村から、やっと燦々とした太陽の下へ出られるんだ。
一度火のついたこの勢いは誰にも止めることはできない。
邪魔されたり奪われることもない。
小難しい何かを気にするまでもない。
だって僕らは鳥なんだからさ。
その美しい優雅な羽は何のためにあるんだって話。
交通規則も速度制限もきっちり整備られた道路すらないルールから超越した自由な大空で疲れて休みたくなるまで遊んで駆けよう出かけよう。
醜いアヒルの子みたいに、過去すら超越して眩しすぎる未来へ。
出かけた先が山かな川かなと思っていたら、ふわっとフラットに滞るのは生命の源である潮の匂いと海風。
そうか飛ぶのに飽きたらどこか遠い外国の白い星みたいな砂浜がある綺麗なビーチでバカンスすればいいんだ。
自由な鳥だからトランクも身分証明書もパスポートもチケットも飛行機も機内食もいらない。
必要なのはアツいハートだけ。
でも惨めに串刺しにされる焼き鳥にはなりたくないしならない、どちらかといえば僕らは不死鳥寄りだから。
思い思いの時間をストレスで焼け爛れた身を労るように心ゆくまで過ごせば一生残るキラキラした宝物の出来上がりってわけ。
そしたらきっと、痛みはすうっと知らないうちに消えていてもう全然苦しくない。
気持ちは伝わる。願いは届く。
遊んで、楽しんで、熱狂して。
はしゃいで、笑って、寝転んで。
海だ!夏だ!バカンスだ!って。
くすぐったい水鉄砲でも協力プレイで盛り上がるビーチバレーでも芸術的な砂遊びでも全身を使って泳いでも吹っ飛ばすようなアクアジェットでも気分爽快超最高。
溢れ出て爆発する生命のエネルギーを燃やして、激らせて、沸騰させて深い心の奥底に眠る情熱の活火山すら噴火させよう。
そうしたらみんなまたもっともっとどこまでも灼熱に限界突破してアツくなれるし心も躍る。
太陽に纏わるプロミネンスだって生きているみたいだ。
輪切りのレモンを挟んだフレッシュなトロピカルジュースを飲みきってもまだまだ夕方さ。
どこまでも広がっていく水平線に気を許してぼうっと眺めながら、海の中に落ちて沈んで消えていく夕日の暖かさに抱きしめられるんだ。
もういいんだって、君は今日から鳥籠を抜けたんだから自由なんだって。
苦しくて息が詰まることもない。
ストレスで気に病むこともない。
降りかかってきた煩わしい今までのトラブルの数々なんてうわの空。
飛んで、翔んで、滑空して。
楽しいことの繰り返し。
自由でいても大丈夫なんだよ。
どこまでも無限に連なっている新しい世界は僕らを待ってくれていたから。
そんな自由の身になった僕らを祝福してくれるみたいに、いつの間にか満天の星々で埋め尽くされた暗い夜空は輝きを放っていたのだ。
覆われた闇夜でも冷たくなんか寂しくなんかなくて、むしろそこに在るハートはあったかい。
その一つ一つに物語がある星座。
幾多の冒険を乗り越えてやっとのことで夜空に打ち上げられた彼らは、鳥になる前はせっせと働いていた僕らと少し似ているかもしれない。
今にも零れ落ちそうなきめ細やかな砂を侵蝕する、賑やかな昼間とはうって変わって落ち着いた波の音。
地球上の全ての生命は海からやってきたんだって、そう思うとなんだか安心するね。
こうして僕らは鳥になってまるで最初から運命の道しるべに決まっていたみたいに出会えた。
この奇跡が、かけがえのない宝物が。
ひとりじゃ寂しくて少し心細いから。
だからこそ群れをなして、決して折れない固い絆ができた。
空に壁はないから、青天井だから。
残されたのは静かな夜だけ。
星を数えて僕らは眠る。
さあ明日はどこまで飛んでいこうか。