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日記+α #1『アーツ・アンド・クラフツとデザイン』展に行った話

先日、府中市美術館で開催されている『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』を観に行った。考えてみたら都内で23区外に出たのは初めてかもしれない。

デザインという分野については(自分の美的センスは一旦置いておくとして)興味があり、デザイン史についての本を読んだりしていた。「アーツ・アンド・クラフツ」という語はそうしたデザイン史の教科書には序盤に出てくるタームであり、デザインという営みを明確な形(運動)にしてそれが抱えるジレンマも含めてその分野を方向づける上で重要な役割を果たしたエポックメイキングな出来事であったと認識している。

展覧会で最も目立っていたのは当然ながら「アーツ・アンド・クラフツ運動」の主導者であるウィリアム・モリスの作品だった。
モリス自身は明確に思想的なバックグラウンドを持っていて、どうやら社会主義思想などに傾倒していたらしい。モリスにとっては産業革命以降の機械文明においてはものづくりに係わる作り手はプロレタリアートに貶められ、人々は作ることの喜びを奪われてしまった、というような世界観を持っていたようだ。そのためアーツ・アンド・クラフツ運動については作り手が作る喜びを取り戻すとともに、そのようにして作られた物を一般市民が享受できるようにすることで、みんなで豊かになろう!という運動だったものと思う。
こう言うと私にはどうも学生運動などの時代が想起されてお腹いっぱい感があるのだが、モリスが当時置かれた環境を考えると、恐らく市中に出回る工業製品は粗悪なものが多かっただろうし、その作り手も資本家に搾取されるような労働者が多かったことだろうから、私がイメージするよりも切実で実際的な問題として認識していたことだろう。


そういえば「労働(labor)」と「仕事(work)」についてはハンナ・アレントが『人間の条件』でとやかく言っていたような気がする。いずれも人間の条件の一部であるが、労働は必要に追われて行うものであり、仕事は、まさにworkが作品というニュアンスを持つように、作品を作り上げることらしい。アレントによれば近代社会ではこの労働が他の条件を圧迫して人間性がヤバい!みたいな話だったような気がするが、そういう意味ではモリスの運動もプロレタリアートに貶められ労働に従事させられている作り手から人間性を復活させようという意趣を持つものなのだろう。

参考:

展覧会でも言及があったが、モリスのそのような理想の一方で、作家性が強く反映されワンオフになりがちな作品はかなり高価になる。結局のところ芸術家が作る作品は、中世の芸術作品がそうであったように、一部の権力者や資本家のみが手に入れることのできるものに成り下がる。そうであれば需要も少なくその仕事に従事できる人間もかなり限られたものとなり、皆で豊かになるという理想からはかけ離れたものになってしまう。

現代に生きる私が振り返ってみて思うことには、当時には資本家と労働者の歪んだ社会構造があったにせよ、工業化、機械化それ自体は物の民主化とも言うべき重要なプロセスとして見ることができると思う。それ以前であれば一般市民には手に入れることができなかったものが手に入るようになったという意味ではやはり進歩として見るべきだったのではないかと思う。

モリスが安直だったと言うつもりはないが、安易に「昔はよかった」などと懐古してその昔に存在していた問題を直視しなければ問題を再生産することになるというのはいつの時代においても当てはまる話だろう。時代の契機としてそのような思想のもと運動が展開された事自体の重要性は明らかだが、機械化の中でデザインやものづくりを考えることが主流となっていくのは必然だったと感じる。

それからモリスの作品として、動植物をモチーフにしたパターンが施されたテキスタイルが多く展示されていた。もしかしたらこれは東洋的な考えなのかもしれないが、自然というパターン化とは対極に位置するように見えるものをパターンに落とし込むという試み自体が意外性があって面白かった。と思うと同時に、それは西洋的な所有ないしは支配するという自然感に裏打ちされているのではないかなという気もした。
そして、明確に説明できるわけではないが、その感覚の行き着く先はモリスが批判する機械文明なんじゃないかという気もした。そもそもパターンというのはまさに機械が得意とするところであって、多分現代であればデザイナーがデザインだけ行い、あとは「中国語の部屋」のイギリス人のように、労働者が作り上げるという形になると思う。作品を流通させたいと願うモリスはそれを予測するべきだったのではないかともちょっと思った。

もちろんわざわざ私が偉そうに指摘しなくても当時の人々もそのあたりは意識していたようで、例えばフランク・ロイド・ライトのような人物はアーツ・アンド・クラフツ運動の内部にいながら手工芸への礼賛には疑義を唱えていたようだ。多分そういう機械化と人間性(自然?)の融合だったりバランスの取り方がデザインという分野の本質の一部なのかなと思った。

ここまで書いていて私がいかにも展覧会が楽しめなかったように見えてきたが、この展覧会自体はとても良かった。作品を何も考えず眺めているのも面白いし、美術館もきれいだったし、あとモリスのパターンみたいなスタンプが自由に押せるオリジナルの栞がもらえるのも大変よかった。


トップの画像は下記より引用
http://fam-exhibition.com/artsandcrafts/ , 2022/11/23取得.

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