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色で素材を循環しよう~廃棄繊維をアップサイクルするカラーリサイクルシステムとは?~ 株式会社カラーループ 内丸もと子さんのStory
■年間200万トン 廃棄繊維の問題
皆さんは服をどれくらいの頻度で購入されていますか。
そして、どれくらいの頻度で廃棄していますか。
統計によれば年間200万トンの廃棄繊維があるといわれています。
その約半分は皆さんが購入している衣料品。200万トンというとなかなかイメージが湧きにくいですが、例えば東北6県の米の年間収穫量が200万トンです。
https://www.maff.go.jp/tohoku/press/toukei/seiryu/201209.html
かなりの量が廃棄されていることが、なんとなく伝わるかもしれません。
そんなに捨てられてしまう繊維を何とかできないだろうか。
廃棄繊維をアップサイクルさせようと取り組んでいらっしゃるのが、株式会社カラーループ代表取締役の内丸もと子さんです。
内丸さんがこの問題に取り組むきっかけ、そしてアップサイクルにつなげる画期的なアイデアについてお話を伺いました。
■廃棄繊維の悲惨な実態
――内丸さんはテキスタイルのデザイナーをされていらっしゃったんですね。
はい。テキスタイル、つまり布や織物など繊維のデザインをしていました。コンセプトを立案するところから素材や柄、後加工まで企画デザインする仕事をしてきました。
――テキスタイルを提供する側にいた内丸さんがリサイクルに関心を持たれたきっかけを教えてください。
あるとき、インターネットで故繊維回収業者の倉庫の映像を見ました。すると天井に届きそうなくらいに古着が山積みになっていたんです。
他の映像では、衣服に加工する前の反物のまま廃棄されているものありました。
――これから加工されて消費者に届くはずのモノがそのまま捨てられているのはショックですね。
はい。私はゴミを作っているのではないかと思いました。これまで通りにただただ作り続けていくわけにはいかないという気持ちが強くなり、繊維のリサイクルを研究したいと思うようになりました。
■繊維のリサイクルはどこで学べるのか?
――繊維のリサイクルを研究したいと思われて、どのように動かれたのですか。
調べると早い段階で「この分野の第一人者は京都工芸繊維大学の木村照夫先生だ」と知りました。そこで木村先生のところに話を伺いに行きました。
――行動力がすごいです。
実は京都工芸繊維大学は自宅から自転車で数分の場所にあったんです。そして話を伺うと木村先生は繊維リサイクルの現状や課題をいろいろ教えてくださいました。「自宅からも近いし、仕事をしながら研究できるかも?」と思って、京都工芸繊維大学大学院の先端ファイブロ科学専攻を受験し、木村先生の研究室で研究を始めました。
――先端ファイブロ科学専攻はどんな学科なんですか。
繊維をはじめとして細くて長い素材を「ファイバー状の」を意味するファイブロ fibroを対象に幅広く研究する学科です。工学など理系的出身者だけでなく、デザイナーである私のような文系出身者にも門戸を広げていました。
■繊維のリサイクルの問題「様々な素材が混ざってしまう」
――繊維のリサイクルにはどのような問題があるのですか。
衣料品を作る時、例えば肌触りのよいコットンだけでなく、しわになりにくいようにポリエステル、着やすさを求めて伸縮性のあるポリウレタンと複数の素材を混ぜることがあります。
――たしかにタグを見ると95%がコットンで5%はウレタンというように複数の素材が記されていることがありますね。
そうです、このたくさんの素材が混ざっていることが繊維のリサイクルを難しくしています。
――繊維を素材ごとに分けるのは難しいのでしょうか。
例えばアルミ缶やスチール缶は容器リサイクル法などルールや仕組みの整備が進んでいて、それぞれリサイクル率が9割を超えます。けれど繊維の場合、一部の化学繊維は溶かして原料にするなどのリサイクルの取り組みはありますが、雑多な廃棄繊維を素材別に分別することは難しく、リサイクル率は25%と非常に低いのが現状です。結果として廃棄される率が高くなってしまいます。
――繊維はリサイクル率が低いのですね。
もちろん再利用されている廃棄繊維もあります。その用途としては、ウエスと言われる工場の雑巾や車の吸音材などほとんどが産業用資材として「見えない部分」で使われています。
――見えない部分ですか。
これまでの繊維のリサイクルで使用されている繊維は例えばこんな感じです。
わかりやすく言えば「巨大な繊維のほこり」のイメージです。これでは見えないところでしか使えません。私はもっと消費者がワクワクできるような魅力的なカタチでリサイクル、あるいは付加価値のあるアップサイクルができないかと考えました。
リサイクルというと素材ごとに分けるとか、どうしても工学的に考えてしまいがちです。けれど私はテキスタイルデザイナーの経験から「もっと審美的にも魅力的な素材ができないか」と考え、新しい切り口で研究することにしました。
■色で素材を循環しよう
――それはどんな切り口ですか?
色です。色しかないと思いました。雑多な素材が混在している廃棄繊維を素材別にするのはとても難しいですが、色で分別することはできるのではないかと考えたのです。
――たしかに色で分別することはできそうです。
既存の取り組みでは求める色にするため脱色することがありますが、その過程で環境への負荷が大きくなってしまいます。私たちは脱色することなく元の色をそのまま使うことにして、廃棄繊維を色分別するための数値化にも成功しました。
こうして色で素材を循環することを目指すことにしたのです。
■廃棄繊維の特長を生かしたアップサイクルの実現
――色で分別した廃棄繊維はどのようになるのですか。
解繊して、樹脂と混ぜて成形したり、
パルプと混ぜて紙にしたり、
わた状にしてヤーン(紡績糸)や
フェルト(不織布)にします。
どれも廃棄繊維を色材とすることで独特の風合や深い色合いのある新しい素材にすることができます。単なるリサイクルではない、付加価値のあるアップサイクルを実現しています。
――新しい素材にするには様々な分野の知識が必要になりそうですね。
私の博士研究の共同研究開発メンバーを中心に、繊維工学、成形加工、化学、故繊維業等、様々な分野の方々にご協力いただき、木村照夫先生をリーダーとするカラーリサイクルネットワークを立ち上げました。数年かけて実績を重ね、3年前に株式会社カラーループを設立しました。
■カラーループが手掛けるアップサイクル商品
――カラーループさんがアップサイクルした商品にはどんなものがありますか。
廃棄繊維と樹脂をハイブリッドすることで、使うごとに独特の素材感が出てくるシートを開発、ペンケースやファイルケースなど様々な商品を作っています。
例えば、セレクトショップのアーバンリサーチにも素材提供しています。
https://www.urban-research.co.jp/special/commpost/
また文具のKOKUYO MEというブランドの一つに取り入れてくださることになり、昨年12月からからノートカバー、メモカバーなどの販売を開始しました。
https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/category/20211130st2.html
――わたしたちの身近で手に入れることができますね。
■わたしたちにできること
――カラーループとしてこれから目指す姿を教えていただけますか。
廃棄繊維を使ったからこそできる魅力的な素材やプロダクトを提供できればと思っています。リサイクルだから無理に購入してもらうというものではなく、素敵だと感じてもらえるモノ作りを目指しています。それがサーキュラーエコノミーに繋がる価値創造だと考えています。そして近い将来、廃棄繊維を活用したリサイクル・アップサイクルが特殊なことではなく普通に繊維が循環できる素材として定着できればと思っています。アパレルメーカーも「リサイクルされやすい服とは何か」と循環を意識したモノづくりをするとか。みんなで考えるようになればよいと思います。
――つくる段階から廃棄やリサイクルのことを意識するようになると面白くなりそうですね。
はい。今は多くの繊維をつくり、着古したら廃棄することを繰り返しています。将来は「繊維を循環させること」が当たり前になるかもしれません。私たち消費者は今のように何着も服を買い、着古して捨てるのではなく、1着買ったら捨てることなくリサイクル・アップサイクルして最後まで使用する時代が来るかもしれません。
――まさに究極のサステナブルな衣料品のありかたかもしれませんね。
リサイクルにはReduce :減らす、Reuse:再利用する、 Recycle:リサイクルする、の3つがあります。私たちカラーループは廃棄繊維のRecycle:リサイクルをしていますが、廃棄する繊維をReduce 減らすことこそ重要です。
――そのためにわたしたちができることは何でしょうか。
まずは、自分が大事にできる服を購入して大事に着ることだと思います。価格が高いものでも安いものでもよいです。自分が大事に着られるものを大事に着続ける。大量生産大量消費ではなく、大事だと思うモノを大事に扱うことが大切だと思います。これは誰もができることだと思います。
(取材後記)
リサイクル率が低いという廃棄繊維の問題に対し「色で素材を循環する」という画期的なアイデアで取り組む内丸もと子さん。
「消極的に『リサイクルしたものだから』と選ばれるのではなく、思わず手に取り『よく見たらリサイクルだった』と選ばれる商品を作りたい」という言葉がとても印象に残りました。
モノをつくる側を中心にどんどんサステナブルに変化している兆しを感じます。同時に私たち消費者一人一人がちょっとずつ変わることでサステナブルに変わっていくのかもしれません。そんな期待を感じるインタビューでした。
内丸さん、今回はインタビューにご協力をいただき、ありがとうございました。