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障がいのある/医療的ケアを必要とする子どもたちと家族に様々な体験の場を提供したい~NPO法人AYA 中川悠樹さんインタビュー(後編)


■はじめに

「病気にかかってから外に出ることを諦めた」「急に声が出たり、落ち着いていられないので周りへ迷惑をかけてしまう」「常に医療的ケアが必要で、何か起こった時を考えると不安だ」そんな子どもたちの状況に応じて、スポーツ・芸術・文化に触れて世界観が拡がる機会を提供しているNPO法人AYA。

前編では代表の中川悠樹さんが、この活動を始めるきっかけとなった原体験、団体を始めるまでをお伝えしました。後編ではAYAの活動や、活動を通じて感じたこと、目指す姿についてお伝えします。

■AYAで行っている活動

――AYAの具体的な活動を教えてください。

(中川)世界観が拡がる機会として、障がいのある / 医療的ケアを必要とする子どもたちをスポーツ・芸術・文化の様々なイベントに招待しています。スポーツでいうとバスケットボールBリーグ、車いすバスケットボール 、サッカーJリーグの試合などに招待しています。イベントによっては、チームや選手が気を利かせてくださり、コートに立たせていただいたり、選手と交流する場を設けてくださることもあります。


車いすメンバーも一般席メンバーも一緒にJリーグ観戦



Bリーグの試合を観戦後、コートに招待いただいて選手と記念撮影



Bリーグの選手からサインをいただくなどの交流も
シアター貸し切りでの映画鑑賞イベントを開催
カラダのいろんな場所を鳴らしてリトミックを楽しんだ音楽イベント


■サポートを必要とする子どもたちと、受け入れる側とのコミュニケーション

――障がいのある / 医療的ケアが必要な子どもたちがイベントに参加するとき、どんなところに課題があるのですか。

(中川)障がいの種類によっては、急に声を出してしまったり、じっとしていられず走り回ったりしてしまうこともあるかもしれません。また常に医療的ケアを必要とする場合、医療デバイスのアラーム音が鳴ったり、定期的な痰の吸引が必要で音を出してしまったりと、周囲に気兼ねすることが多くあります。

――たしかに親の立場で考えると周囲を気にして、外に出にくくなるかもしれません。

■サポートを必要とする子どもたちと、受け入れる側とのコミュニケーション

(中川)私たちが会場側と協力して受け入れ体制を整えることで、子どもたちも家族も気兼ねなく参加できる環境を整えます。また、トイレはバリアフリートイレが求められますが、なかでも車いすから移乗しやすいユニバーサルシートがないと使用が難しいというケースもあります。


ユニバーサルシートのあるバリアフリートイレ
ユニバーサルシート

――バリアフリートイレは増えましたが、ユニバーサルシートはまだまだ多くない印象です。要望としてわかる一方で、なかなかハードルが高くなってきますね。

(中川)障がいのある / 医療的ケアが必要なこどもたちのために何かをしたい、受け入れたい企業や団体はたくさんいます。しかし、受け入れ方がわからないケースが多いと感じています。例えば法律や条例などで「バリアフリートイレにはユニバーサルシートを設置する」とルールで縛ることもできるかもしれませんが、形式的に変わるだけでは、社会そのものは変わりません。そうではなく、様々なケアを必要とする子どもたちや家族が、全てが整っている環境ではなくても実際に外に出ることで、受け入れる側も実際の様子を目の当たりにして、「どこで困るのか」「どんなサポートが必要なのか」を体感して気づいてもらうことが大切だと感じています。

――たしかに実際の現場を見ないと、どんなサポートが必要なのか具体的に把握することができないですね。私たちパブリックマインドも、社会課題を「知ることから始めよう」を合言葉にこうした取材記事を発信していますが、知ること、そしてコミュニケーションを増やすことはとても大切だと感じています。

(中川)実際の様子を見て理解して、受け入れようと決めた企業や団体でも、「それでも何かあった時にどうしたらよいか」と不安を感じることがあります。そこは医師である私をはじめ「AYAの医療スタッフが対応するので安心してください」と伝え、受け入れる側の後押しをしています。

――中川さんがついてきてくださるなら、安心ですね。

■子どもだけでなく家族の喜ぶ姿が活動推進の原動力

――参加した方々の反応はいかがですか。

(中川)例えば障がいの一つで「音に敏感」な子どもたちがいます。学校や普段の生活では「音を遮る環境づくり」をしているので、家族は「大歓声や音響など音が出る会場には行けない」と思っていたそうです。ところが、AYAのイベントに連れて行ったら「本人はとても喜んでいて、意外と行けることに気づいた」といった、よい意味で期待を裏切る声をいただくこともあったりするのです。写真もそうですね。絶対に写真になんか普段映らない子が、試合後に選手が来てくれたら、まさかの自分から写真に映りに行ったこともありました。私以上に家族や普段接している方々がびっくりするようなことが起こったりもします。

――それは嬉しい反応ですね。

(中川)子どもたちの反応も嬉しいですし、保護者や兄弟など、家族が喜ぶ姿を目の当たりにするのもとても嬉しいです。

――家族が喜ぶ姿ですか?

(中川)イベントに参加した家族から「この子が生まれてからスポーツ観戦をするなんて一度も考えたことなかった。今回のイベントがきっかけとなり、家族でいろいろなことにチャレンジできるかもしれないことが分かってうれしい」という言葉をいただいたことがあります。

――たしかに、障がいのある/医療的ケアのある子どもたちに焦点が当たってしまいますが、その傍らには家族がいますね。

(中川)「感動すると鳥肌が立つ」と言いますが、AYAの活動で3回鳥肌が立ったことがあります。中でも最も印象に残っているのは、あるお父さんの姿です。Bリーグ 横浜ビー・コルセアーズの試合前に、医療的ケアの必要な子どもや障害のある子どもたちを中心としたチームでダンスを披露するイベントでありました。子どもたちは大勢の観衆を前に練習してきたダンスを披露し、観衆の中に親もいて我が子の晴れ舞台を見ることができる、そんなイベントでした。

ダンス披露が終わったあと、参加した一人の子がお父さんに抱きついたのですが、その瞬間のお父さんの喜び方が尋常でなかったんです。障がいを持って生まれ、もしかしたら社会の表に出ることができないかもしれないと感じていたところ、大勢の観衆が見つめる舞台で躍動する姿に感動しました、と仰っていました。

この時のお父さんの姿は今でも忘れることができません。AYAとしてこういう場を設けると、こんなにも喜んでもらえるんだと実感しましたし、もっともっとこういう場をつくることができるはずだと思いました。いま、AYAの活動を進める原動力は、子どもたちはもちろん、可能性が拡がった瞬間を目撃して喜ぶ家族の姿です。

■目指していること

(中川)障がいのある/医療的ケアの必要な子どもたちのためにサポートは必要ですし、受け入れる社会の側も理解を深める必要があります。しかし、サポートを受ける子どもたちとその家族も、閉じこもることなくもっと社会に出て行って「私たちはこういう人なんです」とアピールしていかないと、サポートしてほしい内容や課題が伝わりません。

障がいのある/医療的ケアの必要な子どもたちとその家族も、受け入れる側もどちらも頑張らないといけないことだと思います。

難しい顔をしながらではなく、お互い楽しく笑顔でコミュニケーションを取りながら前に進めていく。そんな双方の橋渡しの機会をもっと増やしていきたいですし、AYAがその役割を担えると確信しています。


Bリーグ横浜ビー・コルセアーズの前座イベントで、見事なダンスを披露する子どもたち

■応援してほしいこと

(中川)AYAの活動は2022年1月から始めました。少しずつ認知が広がっていますが、まだまだ知られていない部分もあります。障がいのある/医療的ケアの必要な子どもたちとその家族に、もっともっとAYAのイベントで受け入れる機会をつくらせてほしいです。周囲にそういう子どもや親、そして兄弟がいる方に、ぜひAYAの存在を伝えてほしいです。

――お知らせのページ(リンク https://aya-npo.org/news/)を見ると全国で毎週のようにイベントが開かれていますし、多くの子どもたちに参加してもらえる機会がありますね。

(中川)またAYAの活動を全国に広げていきたいと考えています。各拠点で協力いただける医療者・非医療者の方々を増やしていきたいと考えています。

――これから日本中で子どもたちと家族の世界観が拡がる機会が増えていくのはとっても楽しみですね。

■まとめ

NPO法人AYAの中川悠樹さんのインタビューを前後編でお送りしました。
世間一般で、障がいがある / 医療的ケアを必要とする子どもたちに対する理解は少しずつ増えていると思っていました。しかし、中川さんのお話を聞いて、まだまだ私たちの想像力が不足していると感じました。

特に、受け入れる立場になるときには、まだまだ不安を感じることが多いかもしれません。実際に会って一緒の時間を過ごすことで初めて課題が分かり、自信をもって必要なサポートをできるようになるかもしれません。中川さんが進めているのは、そうしたコミュニケーションを増やす貴重な機会とも言えます。

NPO法人AYAさんのウェブサイトでは、病気と闘っている・障がいと共に生きている・医療的ケアが必要であるお子さん・ご家族、医療機関、スポーツ・芸術・文化団体、行政・地方自治体、それぞれのお立場に合った応援や関わり方についても記されています。ご興味を持たれたら、ぜひご覧ください。


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