
上部が裁断されない製本方法:天アンカットのこと
東京インターナショナル・ギフトショー2022春の会場で、藤沢製本の藤澤さんとお話をさせていただきました。そのときに製本についてお話をお聞きした後、次のような記事をたまたま見つけました。
文庫本の上部が裁断されておらず、がたがたのまま製本されているものを見かけることがあります。「天アンカット」と呼んでいるそうです。
岩波書店のTwitterアカウントが以下のような書き込みをされています。「天アンカット」は「フランス装風の洒落た雰囲気を出すため」なのだそうです。
#意外にこれ知られてないんですけど 岩波文庫の「天」が不揃いなのは製本ミスではなく、アンカットと呼ばれる製本手法です。フランス装風の洒落た雰囲気を出すため、製本所さんにお手間をお掛けしています。ちなみに、岩波文庫「目録」は天もカットされていますので、お持ちの方は比べてみてください。 pic.twitter.com/MIxRsyOlPB
— 岩波書店 (@Iwanamishoten) March 21, 2021
新潮文庫のTwitterアカウントでも同様の書き込みがありました。こちらも「フランス装というおしゃれな造本」ということです。
天アンカットという小粋な技でございます。スピン(しおりに使えるひも)を機械で貼り付けるのに必要で、仕様となっています。フランス装というおしゃれな造本も天アンカットなんですが、その雰囲気を出そうという意味もあります。 https://t.co/LJxz2tkSCf
— 新潮文庫 (@shinchobunko) February 13, 2018
ハヤカワ文庫のTwitterアカウントでもありました。
@kowalskitravis 「ハヤカワ文庫はどれ?」という問い合わせをいただきましたが、実はあの中にはハヤカワ文庫を入れていません。ハヤカワ文庫は天のアンカット(新潮文庫さんも同じですが)なので、すぐにわかってしまうんです。あと、ちょっと飛び出してしまうかも。
— 早川書房公式 (@Hayakawashobo) July 3, 2014
最初に引用した記事には、「本は紙の束であるという原点を、より感じられるものだと思っています」という理由であると記載されています。
創元文庫のTwitterアカウントでもありました。こちらもフランス装の本を目指しているようです。
【くらりまめちしき】東京創元社の文庫本は「天アンカット」といって、本の天面(上側)をわざと裁断しないでふぞろいにしているのニャ。むかしのフランス装の本みたいなおしゃれさが魅力なのニャ。ほかにも新潮文庫さんなどが天アンカットを採用してるニャ
— 東京創元社bot (@sogen_bot) October 16, 2018
天アンカットはアンカットしない製本に比べて手間がかかると言われているそうです。こちらのサイトによれば以下のような記載があります。
印刷データの作成から(昔なら組版の段階から)印刷~折加工までをきっちり仕上げないとまともな本に仕上がりません。
しかし、フランス装という言葉がわかりませんでした。調べてみると、「中身の本に対して表紙を少し大きくする製本様式で上製本の表紙が柔らかくなったイメージです。 一枚紙の四方を折りたたみ表紙の強度を確保します。
ミシン製本と同様に希少な製本加工になります。」とありました。
しかし、私にはこれだけだとフランス装風に見せることがなぜお洒落で、わざわざ手間をかけて天アンカットにするかの理由まではわかりませんでした。
どなたか、背景お分かりの方、ご教示ください。
なお、本記事を書くきっかけをいただいた、藤澤さんをインタビューさせていただいた記事はこちらです。こちらもご覧ください。