起ストーリー【C】/PJ 約1700文字
『海砂糖』【承】riraさん
『float_glass』【転】しろくまきりんさん
『海涙』【結】PJ
私が小学生の頃、サーフショップでお兄さんにもらったガラスの付いたネックレス。
お兄さんは「フロートガラスで作ったペンダント。海砂糖って名前なんだって言っていた。
私はそのペンダントを家に帰った後、試しにこっそり舐めてみたけど、それは何の味もしなかった。
高校生になって、それが『float-glass』なんだと知った。
まさか、夏祭りの日に、ひろきに振られるなんて思ってもみなかった。
「ごめん、今は受験に集中したくって。それに俺東京の大学目指しているんだ。本当に勝手でごめん」
そう言って私の元を去っていくひろきの後ろ姿を、私はその場に立ち尽くしたままずっと見つめていた。
お母さんに着せてもらった紺色の浴衣が寂しくて。一人花火を見上げて泣いた。
その時舐めたfloat-glassはしょっぱかった。多分、私の涙の味だ。これじゃあ『海涙』だなと私は思った。
花火の日の翌日、私は一人でサーフショップに行った。
ちゃんと甘い、新しい『海砂糖』が欲しかった。
店の中で商品を眺めてみたけど、今持っているfloat-glassより気に入るものはなかった。
店主であろう、アロハを来た白髪のおじいさんに、7年前にここで働いていたお兄さんを知らないか聞いてみたら、「ああ、あいつなら今、海に散歩に行っているよ」と言った。
私は、お兄さんお礼を言いたいのか、文句を言いたいのかわからなかったけど、もう一度会いたいと思った。新しいfloat-glassを教えてもらうのもいいのかもしれない。
砂浜に行くと、親子三人連れが歩いていた。おとうさんはあのお兄さんだった。私もいつかあんなふうになれたらいいなあと思った。
お兄さんに手を振る。
お兄さんがこっちに気が付いて走ろうとしたら、子供が転んでしまった。
私は慌てて家族の元に駆け寄った。
あ兄さんが「お嬢さん、何かあったの」と私に聞いた。
「あ、あの7年前にfloat-glassのネックレスをもらった者です」
緊張したままそう言うと、お兄さんは腕を組んでしばらく考えてから、思いついたように「ああ、あの時の!」と言って私を指でさし、それから「どいしたの?」と聞いた。
私はその大げさな動作に少し腹が立った。
「はい、この海砂糖全然甘くないんです」
私がそう言うと、「そうかぁ。残念だなあ」
そう言って、ちらりと奥さんの方を見てから「ねぇ、それ貸してもらっていいかな?」と言った。さっきと違って真面目な顔をしていた。
「はい、もともとお兄さんの物ですし」と私がfloat-glassを差し出すと、お兄さんは大切なものを受け取るように両手を出した。私はその真剣な目に緊張して、その手の上に丁寧にfloat-glassを置いた。
お兄さんはそれを太陽に透かすように空に掲げると、目を細めてゆっくりと光を反射させるように眺めた。その優しい目を見て、太陽がまぶしいのか、それとも懐かしさを感じているのかどっちなんだろう、と私は思った。
お兄さんは私を方を見ると「変なこと言うけど、これ舐めてみていいかな?」と聞いた。
「いいですよ、なんかしょっぱいですけど」と私は答えた。
「はは、そうかしょっぱかったかあ」とお兄さんは楽しそうに笑った。
やっぱり少し腹が立った。
それからお兄さんは奥さんの方を見て、少しだけ躊躇してから、ペロリとfloat-glassを舐めた。
お兄さんは、かみしめるようなゆっくりとした動作で奥さんの方を向くと「……甘い」とつぶやいた。
隣で奥さんが「え、私にも貸して!」と言って、float-glassを旦那さんから奪い取り舐めた。
「本当だ、甘い!」
「な!」
そう言って、二人で笑いあっていた。
「ボクもボクも」と子供が言って、奥さんからfloat-glassを受け取ると、二人の真似をして舐めてから「甘いよ」と言った。
「じゃあ持っててください。もともと貰い物ですし」私がそう言うと。
あ兄さんと奥さんは二人でありがとうと言った。その顔がとてもうれしそうで、もともとお兄さんの物なのに、なんだかすごくいいことをしたような気分になった。
「その代わり、私に新しいペンダントを選んでください」
私がそう言うと、お兄さんは「ああ、まだお店に出してない新作があるんだ。一緒に見に行こう!」そう言ってうれしそうに笑った。
《了》
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