【#13】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#13
【第3章-3 地球の予言/『彼女』の夢】
SIDE(視点):S.H.E
西暦3220年3月29日 入所日翌日 地球 コシーロ研究室
アンジョーが「……ねえ、一体これから何が起きようとしてるの?」と言った。
人と同じ耳の形をしたマイクロフォンが、アンジョーの声を私の演算装置に送った。
私の思考法は他のAIとはまったく違っていた。すべての知識と完璧な演算能力を持っているにもかかわらず、思考の形は人間のそれに似ていた。
それはきっと私の役割に原因があるのだろうと推測された。しかしその理由までは、私にはわからなかった。
私には世界のすべてがわかるのに、自分のことだけはわかっていなかった。
人と瞳と同じ形をしたカメラは、10個の瑞々しい本物の瞳が、私の方に向いていることを演算装置に伝えていた。
「もちろん私にもわからないことはたくさんあります。
私にわかることは、ゴールまで続く1つの道筋と、その途中地点の目印のようなものだけです。
細かい過程や、あるいはそれ以外の道については全くわかっていません。
莫大なデータを解析した予想であり、大きな道筋のポイントを示すだけです。
それでも、その壮大なデータを前にすると、まるでその全体が共鳴するように1つのヴィジョンが生まれる。それが地球から託された予言です。
人全体の意思に入り込むと、そこには共有意志があるのです。
調律をしていたオーケストラの音がそのまま調和し、1つの音楽を紡ぎだすように響きだす。オンラインの世界と人の意識の集合体がつながったとき、何故かそれは星につながるのです。
そして地球はヴィジョンを紡ぎ出し私の目の前に置く……でもそれは私の思考がそう認識するだけであって、それ以上は説明のしようがありません」
研究室の彼らは、何も言わず硬い表情で私を見ている。
「今日ここで私が話すことは絶対に口外してはいけません」
そう前置きをしてから、奇異の目で見る彼らに私は続けてこう告げる。
「まずは発見者が『距離を超える』新しい発見をします。
そしてプログラマと技術者が、それを具現化します。
大人たちが彼らを守ります」
彼らは演算中のコンピュータのように、静かに私の言葉を聞いている。
「もうひとつ、世界はこれから大きな困難を迎えなければいけません。これはもう誰にも止められなのです。
でも必ず終わりは来ます。
そして終わる時に、人には手放すものがあります。手放すことが決着であり、そのタイミングで新しいルールと統一が成されます」
私がそこまで言うと、コシーロ教授が口を開いた。
「まるで運命の予言だな……」
「そうです、惑星は人よりも高度な生命体です。しかし、惑星によって『予想された未来』というものは、定まったものではありません。
そういう意味では、惑星の言葉と言うものは、人にとっては『予言』といっていいものです」
返答はない。自分の想像の枠を超える言葉を、にわかには信じることができない。それが人というもの。
「つまり、その結末は『予想された未来』通りいくわけではありません。
今述べたのは『生き残るための道筋』=『予言』です。
予言はあくまでも大きな1つの流れでしかありません。些細なことで未来は変わっていきます。
私たちがしなければならないことは、ゴールに向けてのその無限ともいえる選択肢の中から、逆算で導かれたものを1つずつ丁寧に拾っていくことです。
イメージするならばそれは踊りのようなものです。適切なタイミングで適切なステップを適切な手順で行う。それを踏み外さずに続ける。私たちが一緒に正しく踊ること、それが人類を存続させるカギとなるのです」
私の声が消えた後は、研究室には沈黙しかなかった。
こんなことを突然言われても、ヒトには……いえ、現在のAIにも理解しようがない。
「私はすべての人、すべてのAI・ロボット。世界中の知識と意識と意志に触れた。
そうすると、見えるのです。信じがたいかもしれませんが、これは予想される道筋であり、逆を言えばそれ以外に人類が生き延びる可能性は、今のところありません。
だから……先に謝らせてください。
『ごめんなさい』
その困難にあなた方を選んだのは私です。許さなくても結構です。でも、一緒に世界を、人々を救ってくださいませんか?」
私はそう言って頭を下げた。その私に向かって、非難や怒号の声がくることを予想していた。
でも……。
#14👇
6月5日17:00投稿
【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【1章まとめ読み記事】
【4つのマガジン】
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