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【#曲からストーリー】①『いつか王子様が / ビル・エバンス(pf)』2000文字

こんばんはPJです。
最近、中編と長編の小説を書いています。
中編は5.5万文字ぐらいの『冒険ファンタジーの児童小説』。
長編は多分10万文字ぐらいで着地しそうなコロナ前の東京を背景にした『ローファンタジー恋愛小説』。
どちらもオリジナル曲をベースに作った曲です。
小説はnoteに短編をあげるだけですが、手元に5万文字を超えるモノや10万文字クラスのストックが増えてきました。
早くご披露したいものです。

で、今日(昨夜)も長編の執筆をしようと思っていたのですが、急に音楽を聴きたくなり、気が付けばユーチューブで曲ばかり漁っていました。
曲を聞きながら、みんなの俳句大会にあった「曲から一句」という企画を思い出しました。
私は俳句は書けませんので、参加したことは有りませんでしたが、曲から短編を書いてみるのも面白そうだと思いました。
ということで「#曲からストーリー」と題して、2000文字程度の短めの短編小説を書いてみました。
みん俳公式からも、『休みん俳 勝手に企画』のOKが出ましたので。
さっそく募集要項を作りました。
募集要項は記事の一番下に貼り付け!
『#曲からストーリー』なんか、俳句には余り関係なくなってしまいましたが。。。ニコリ。

さて、今回選んだのはジャズピアニストの『ビル・エバンス』。
『ビル・エバンス』と言えば『ワルツフォーデビィー』が有名ですね。

もちろん『ワルツフォーデビィー』もマイフェイバリットソングの一つです。

でも、今日はもう少しハッピーに『いつか王子様が』で書きたいと思います。
いろんな方が『いつか王子様が』をやられていらっしゃいますが、私は特にビル・エバンスが好きみたいですね。
しっとりと前奏がはじまって、徐々に盛り上がり、段々とリズミカルになりハッピーな雰囲気でフィニッシュ!
夏の夜にもピッタリの曲。マッカランのロックを舐めながら、チョコとナッツをつまみに聞きたいものです。

Some day my prince will come/いつか王子様が

Some day when spring is here
We will find our love anew
(いつかここに春が訪れたとき
私たちは新たな愛を見つける)

And the birds will sing
And wedding bells will ring
(そして鳥たちは歌って
ウェディングベルが鳴る)

曲名:Someday My Prince Will Come(邦題:いつか王子さまが)から一部引用

作詞:ラリー・モリー

作曲:フランク・チャーチル


短編小説『いつか王子様が』著PJ 約2000文字

 『老人ホーム:ケアレジデンス恵愛(けいあい)』の音楽ルームからは、今日も『いつか王子様が』のピアノの音色が聞こえてきた。
 それは私の担当である、白川ユキさんが奏でるピアノだった。
 かつてジャズピアノプレーヤーだった白川ユキさんが奏でるその曲が、私は大好きだった。
 もう86歳になるにも関わらず、その音はしっかりと室内に響き、メロディは軽やかに紡がれた。ころころ動き回る両手。その演奏は私の心を揺り動かすものだった。
 彼女は演奏の後に、自分の若かりし頃の恋の話をした。
 60歳も年上の古い恋の話を聞きながら、私は「うんうん」と何度もうなずいた。
 認知症であるユキさんのその話が、現実なのかそれとも空想なのか私には判断できなかったけど、ピアノを撫でながら少女のような顔で話す姿を、私は同じ一人の女性として、とても美しいと思った。
 ユキさんの昔話は悲しい恋だった。愛し合う二人がいて、そして二人は引き離された。それでもいつか人生の最後を共にすると約束した、と。
「ユウスケさんと再会したら、私たちは結婚して、そして家族に囲まれ幸せに暮らすの。永遠に」
 そう言ってユキさんは、愛おしむうように何度もピアノを弾いた

いつか私の王子様が迎えに来てくれる
いつか私たちは再会するの
そして私たちは遠い彼のお城まで行くの
永遠に幸せに暮らすために

 ユキさんが亡くなった。
 それはあまりにも突然で、あまりにもあっけない最後だった。
 職員が見つけたときは一人ピアノの上に突っ伏していたそうだ。心臓発作の一種だと聞いた。病院で治療を施したが結局亡くなられた。
 数日後、ユキさんの息子さんが、ユキさんの退所の手続きに来た。数少ない荷物の引き渡しも終わり、私と施設長は玄関の外まで息子さんを送った。
「母が大変お世話になりました。おかげさまで最後に母の死に目に会えました。本当にありがとうございました」
 そう言って息子さんは、私と施設長に丁寧に頭を下げた。
 私はただただ、ぼんやりとその言葉を聞いていた。
 ユキさんは、結局「ユウスケ」さんと最後まで出会うことが叶わなかった。それはとても悲しい、人生の幕切れだと思った。なんだか自分の事のように寂しく思った。私はきっと自分の恋とユキさんの悲恋を重ね合わせているのだろう。
「母は最期に『ユウスケさん、やっとあなたに会えたわ』言いました。私の事は忘れていたのに、父の事は覚えていたんですね。5年前に旅立った父が迎えに来たのかもしれないですね」と息子さんは言った。
「え? ユキさんの旦那さんは『ユウスケ』さんなんですか?」
「はい。なんだか大恋愛だったそうですよ。父は歴史のある茶道家元の跡取り息子、かたや母は当時としてはあまりイメージの良くない、キャバレーのピアニストでしたからね。父の実家の反対はすごかったみたいです。それでも父は家も地元も友人も何もかも捨てて、母と一緒になったみたいですね。いろいろとあったみたいですけど、詳しくは全然教えてもらえませんでしたよ」と、そう言って笑った。
 私はその二人の恋の物語の一担を知っていた。どれだけ二人の恋が困難だったか。どれだけの想いがあったか。電話も手紙もできない中で、どんな想いで過ごしたか……。
「あの、たぶん私、そのころの話を知っていると思います。ユキさんがいつも話していました」
「ああそうなんですね。今度是非とも聞いてみたいですね。車に家内も子供達も待たしてありますので、今日はこれで失礼しますね」
 私と施設長は息子さんを見送った。その車が見えなくなってから、私は施設長に話しかけた。
「施設長」
「なんだい」
「施設長は奥さんの事、愛していますか?」
「うむ、安藤君。君は突然何を言っているのだろう?」
「なんか、ユキさんの人生はすごかったなって思って」
「ああ、そうだな。私も今日は妻の好きなワインでも買って帰るとしよう」
「いいですね。施設長も奥さん大切にしてくださいね。そうじゃないと最後に思い出してもらえませんよ」
「そうだな、気を付けねばならんな」
 そう言って二人で小さく笑った。
 空の上では、ユキさんとユウスケさんが手を取って笑っているような気がした。

 その日、家に帰ってから、私は遠距離で別れた彼氏のことを思い出していた。
 先日彼氏から電話がかかってきていた。
「やっぱり花実のことが今でも好きなんだ」と。
 それは私も同じだった。でも彼はそれ以上は何も言ってくれなかった。
 『私もあなたが好き』
 そんなの言葉にしなくたって、私にとっては当たり前のことだった。
 でも、私たちには遠すぎる距離があった。
 ロンドンと千葉では、距離だけではなく、時差も大きすぎた。
 そして彼には帰ってくるめどがなかった。

いつか私の王子様が迎えに来てくれる
いつか私たちは再会するの
そして私たちは遠い彼のお城まで行くの
永遠に幸せに暮らすために

 ユキさんは、「いつか王子が様が迎えに来る」と言った。
 王子さまがユキさんを迎えに来て、だからこそユキさんは旅だったのだと思った。
 私は生きていた。そして、いつまでも待つのはイヤだった。
 好きなら追いかければいい。待ってるだけじゃダメ。
 私はスマホを開き、施設長に長期休暇のおねがいをして、ロンドン行きの飛行機を予約した。

《了》


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