PJ【起B】→「海と風と」友音さん【転】→PJ【結】
PJ【起B】
「海と風と」友音さん【転】
PJ【結】
ハットをかぶった老人の格好は、とても浜辺に似合うものではなかった。
黒色のジャケットはウールで、明らかに冬用だった。グレーのパンツに黒い革靴。ベージュのハットだけが、夏に溶け込んでいた。
「お嬢さん、かき氷でも食わんか」
その手を見ると、まだ溶けていない、作り立ての赤色のかき氷があった。ここは、近くに浜茶屋もお店も何もないエリアだったはずだ
「ほれほれ、はよう食べんと溶けてしまうぞ」
そう言ってぐいぐいと差し出す勢いに負けて、私はそれを受け取ってしまった。
大きめの紙コップには、青色の波の柄と赤色で『氷』と書いてあり、手に持つとひんやりとして気持ちがよかった。
先がスプーン状になったストローで一口食べてみると、口の中で氷がとけ、甘さがのどを通り抜けて行った。
私は、きっとのどが渇いていたのだろう、気が付けばそのかき氷をすべて食べ終わっていた。そしてその時にはもう、あのハット老人はいなかった。
海からの湿った風が吹き抜けていく。熱い夏の太陽は容赦なく私の肌を焦がしている。
『生きている』と思った。私は今、ここで生きていて、夏を感じている。
なんだか、いろんなことがどうでもいいような気がしてきた。
うん。帰ったら、そうめんにしよう。それからキンキンに冷えたビールと枝豆も買っていこう。
私はスカートのお尻についた砂を払い、車のキーをクルクル回しながら、夏だけの臨時駐車場へ向かった。
《了》
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