【一人うたすと】小説『ハロウィン・ムーン(前編)』【ハロウィンパーティー】
ずっとやりたかった創作。
それは、2022年に開かれた『十六夜杯』の【OP/ED】の物語を小説にすること。
この曲は私が作詞と作曲を担当し、歌は「shizugon」さん、イラストは「しち」さんが担当しました。
曲を作る前から私の中には、おぼろげですが一つのストーリーがありました。
9月の十六夜を見上げ、お互いを思い出すかつての恋人。
これがOP曲のイメージです。
OP曲を前編、ED曲を後編として小説にします。
今はあんまり言葉が出てこない時期なのですが、どうしても今年のハロウィンに間に合わせたく、エッセンスだけでも形にしたいと思っています。いつかちゃんとじっくり書き直しますね。
一人で、うたからストーリー。【一人うたすと】です。
そしてriraさんが行っている【みんはいハロウィンパーティー2024】にも参加です!
小説の後に、歌の動画と歌詞を貼りますので是非とも一緒にお楽しみください!!
【ハロウィン・ムーン(前編):白石咲】
作:PJ 1000文字
「私、絶対に30歳になる前に結婚するの。絶対にそう決めてるの」
「咲(サキ)はいつもギリギリだから、結局29歳になるね」陽一はそう言って下を向き口元を隠しながら笑った。
もう7年も前の事だ。
9月18日。私は一人、東京のビルの隙間に見える月を見上げていた。前日の十五夜から1日分だけ欠けたその月は、大学4年生の秋に陽一と二人で行った、最後の旅行を思い出させた。
彼、真柴陽一は北陸の温泉街にある創業300年老舗旅館『真柴屋』の一人息子。最初から大学を卒業すると地元に帰ることが決まっていた。
私の生まれた白石家は、東京の一等地に大きな日本庭園を持つ茶道の家元で、兄弟のいない私が家を継ぐことが決まっていた。幼い子供のころから厳しく躾られた私は、家から離れるということを考えもしなかった。
それぞれがそれぞれの『家』に入り、離れ離れになることは最初から分かっていた。それでも私たちは恋に落ちた。
「月が綺麗ですね」
恥ずかしがり屋の陽一の告白はそれだけだった。
私はその言葉に「私も好きです」と応えた。
私が25歳の時に『家』は燃えて無くなった。家元であった母は逃げることができず、火に焼かれ骨だけを残して死んでしまった。犯人は簡単に見つかった。それは母の一番弟子だった。彼女は裁判で母に対する恨みの言葉をしゃべり続けた。その言葉は私にもわかる気がした。母は家の名誉や伝統を守るためなら何でもやる人だった。伝統の前では、娘である私の心さえ軽んじられていた。宗家はその強大な力でこの事件を隠し、大きなニュースになることはなかった。
母と家の呪縛に囚われていた私は、母が死に『家』がなくなった後、空っぽになった。派遣社員になり、東京という大都市の歯車として、ただ忙しく空虚な毎日を過ごした。
29歳の9月の十五夜から1日過ぎた都会のビルの隙間に、十六夜の月を見た時、陽一と交わした言葉を思い出した。それは最後の旅行の日に、部屋で二人きり花火を見ながら交わした言葉だ。
……
「ねえ、陽一」
「なに?」
「この街、ハロウィンになると、毎年すごいパレードが開かれるんだって」
「そうなんだ」
「私、いつか来てみたいと思っているんだ」
「うん」
「今日の10倍ぐらい花火が上がるんだって」
「そっか、じゃあ一緒に見に……」
そこで陽一の言葉が途切れた。部屋の中にはすぐそばで打ち上げられる花火の音だけが残った。
私はずっと恋人も作らなかった。それは忙しさから来るものか、無気力から来るものか?
もしかしたら今でも陽一を想い続けているのかもしれない。私は自分の心がわからなかった。今の私に心のいうものが存在するかさえわからなかった。
真面目な彼は、代々続く温泉を引き継ぎ、今日も頑張って働いているのだろう。そこにはきっと彼にぴったりの優しい奥さんと、彼に似た可愛らしい子供がいるのだろう。
翌日、私はあの日の思い出の部屋の予約をとった。10月25日のハロウィンパレードとその花火を見に行くためだ。偶然キャンセルが出たらしく、奇跡的に部屋を抑えることができた。
「お客さん、ほんと運がいいですね。その代わり二人分の料金がかかります」
私は『家』と母に囚われままの自分の別れを告げたかった。前に進みたかった。そのためには陽一との想い出に正面から立ち向かうべきだと思った。新しい私がそこから始まるような気がした。
「はい、大丈夫です」
電話で告げられた問いに応え、私は震える指で電話を切った。
➡ 後編へ続く
ボーカル shizugon
作詞作曲 PJ
イラスト しち
ロゴデザイン rira
動画 PJ
十六夜、月。空の下
十六夜空の下 時が開いて
いざなう声がする
月明り空の上 星が待っている
途切れた言葉の先
コトノハ紡いで 見つめる先に
生まれるメロディ 誰に届くの?
緋色、燃え立ち、世界を染めて
失くした物を探し出すために
たどり着いた先、この長い夜
記憶の迷路でさまよう秋の日
ぽっかりあいた空 十六夜の月