ちピロさん【旬杯リレー小説】A承→転(PJ)
A:転 / PJ
あの日、ソフトクリームを食べる君に声をかけたとき、君は驚きながらも、あの頃と同じ笑顔で「えー久しぶり!」と言ってくれた。それで僕の緊張は一気に溶けた。
君の隣に座ると、僕達はこれまでの時間を埋めるようにお互いのことを話し続けた。
僕の助手席で、ソフトクリームを食べる君。
あの時には、まさかまた付き合えることになるとは思ってもいなかった。
実家に日帰りで行ったあの日、何気なく立ち寄ったあの道の駅で、君を見つけたのは本当に偶然だった。いや、それが運命ってやつなのかも知れない。
遠距離恋愛の僕達は、毎日のように電話し、LINEを送りあった。
君は、休みのタイミングが合ったら、僕の住む街に遊びに来たい、と言った。
僕が「そっちに行くよ」と言ったけど、「私、金沢行ったことないから、行ってみたいの」と僕を押し切った。
僕達は、混む前の8月の最初の土日にスケジュールを組むことにした。
どこに行きたいか聞くと、君は「海が見たい」と言った。
僕はとっておきの場所に君を連れて行こうと思った。
君を助手席に乗せ、8月の暑い日差しの中、海沿いの自動車専用道路を走る。
君は、はしゃぎながら窓を開け「海だー」と叫んだ。
長い髪が風で絡まりそうだった。
「もう少し先だよ。期待していて」
僕がそう言うと、「うん、楽しみ!」と窓を閉め、ショーケースの子犬のように、体を揺らしながら外を見ていた。
僕達の地元には海がなかった。だから僕も、海を見ると今でもワクワクする。
道もすいていて、ドライブは快調だった。僕達は目的地のすぐ近くの道の駅で、休憩を取ることにした。
君は「ソフトクリームが食べたい」と言った。
「さっきも食べたよね」と言う僕に、「いいの、さっきのとは味が違うから」と、君は二人分注文した。
二人で並んで食べるソフトクリーム。青く晴れた空には大きな入道雲が浮かんでいた。過ぎた日々の悲しみは、きっと涙雨が洗い流してくれたんだろう。
「さて行くか!」と言う僕に、君は「ねえ、どんなところなの?」と聞いた。
「すぐにわかるよ」そう言って僕はシートベルトを締める。
さあ、君をとっておきの海に連れて行くよ!