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PJ【起B】→ちあきさん【承】→ちあきさん【転】→PJ【結】『白い貝殻(仮)』

PJ【起B】

風が吹き抜け、太陽が肌にじりじりと照り付ける。
今年は猛暑になるらしい。
海に行きたいと思った。
輝く海と、その水平線に浮かぶ白く大きな入道雲。
夏がやってくる。
生涯忘れることのない夏が。

ちあきさん【承】

なぜ、海だったのか?
いつものメンバーではなく、ひとりで行ったのか?
そして、彼女と出逢った。

夜、惹きつけられるように海辺を歩いた。
上半身だけが海の中に見えた。
“助けなきゃ”
咄嗟にそう思い、海に走った。

ちあきさん【転】

驚いた顔の彼女の肩に手を触れた瞬間、体がふわりと浮いた。
どのくらい彼女と一緒に居たのだろう?
笑顔が素敵で、癒された記憶があるけれど、

目が覚めると、ホテルのベッドだった。
そして、手の中に貝殻があった。

PJ【結】

 あの日、僕は君を助けようと思ったんだ。
 仲間と行ったあのバーベキューの日。
 みんなで、たくさんにお肉を食べて、たくさんビールを飲んだよね。
 酔った勢いで、ユウヤが出してくれた親父さんのボートに君と3人で乗った。
 浜辺でタカシとユナが手を振っているのが見えた。
 楽しかった、最高の夏だと思った。
 風を切るように走るボートの上、隣に君の笑顔。
 僕たちは、ユウヤにばれないように二人でキスをしたよね。
 あの時あたりまえだけど、ユウヤには悪気はなかった。いや、酔っ払ったまま一緒に乗った僕たちも同罪だった。
 転覆して放り出された僕は、君を一生懸命探した。
 ちなつ!ちなつ!
 大声で叫んだ。やみくもに泳ぎ続けた。体力の限り君を探し続けた。それでも僕は君を見つけることできなかった。
 結局、僕だけがボートにつかまって生き延びた。
 海上保安局の救命ボートで助けられた時には、ユウヤはもう冷たい体で見つかっていたようだ。
 その後は誰も君を見つけることができなかった。

 夜の海、月明りに浮かぶ君を見つけた。
 大声で叫んだけど、君は振り向かなかった。
 靴をぬぐのも忘れて、海の中を走った。
 君の肩に触れたとき、君は振り返って確かに笑ったんだ。
 そして僕に短いキスをすると「見つけくれて、ありがとう」と言った。
 気が付いた時には、僕はベットの上にいた。
 その手には『白い貝殻』あった。
 僕は泣いた。泣いて泣いて泣き続けた。
 君とのキスがこれで最後だなんて信じたくなかった。
 
 どれだけそうしていただろう。
 ふとスマホを見ると、たくさんの着信と、たくさんのLine通知があった。
 Lineを開くと全部タカシからの通知だった。
『テツジ、バカヤロー。こんな時にお前はいったいどこにいるんだ? ちなつちゃんが見つかった。まだ意識はないし、俺も状況は飲み込めていない。でも、生きている。ちなつちゃんは間違いなく生きている! 場所は……』
 気が付いたころには、僕は走っていた。
 右手にスマホ。そして左手には『白い貝殻』を握りしめていた。

《了》

 

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夏の少年少女のちょっぴりファンタジーな物語です(※ホラーではありません)。
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 僕の名前は、高畠のぶお
 彼女の名前は、安藤スナー
 二〇一二年。小学六年生の夏に僕と彼女が体験した、とても不思議な『命』と『遠い約束』と『別れ』の物語。

小説『世界の約束』より



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