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【文学フリマ東京39】『追い風日記』試し聞き⑨(全10回)

野中莉奈
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文学フリマ東京39に出店する作品『追い風日記』の一部を紹介します。
「試し読み」でなはく、「試し聞き」という形にしました。
『追い風日記』に収録しているのは、2022年8月~2023年12月のわたしの日記です。

毎日1投稿していきます!(全10回)
今回は、第9回目の投稿。
気が沈んだときは、商店街へ行きましょう。

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10月30日
昨日は、気が沈んでどうにもならないときは、とりあえず着替えて外に出て、普段は行かない少し遠くへ行ってただただ散歩するといいと実感した。
たぶん、散歩した場所が、「にぎわっているけど、歩くのがストレスにならない道の広い商店街」というのが良かったんだと思う。気持ちは暗いままだけど、晴れ空の下、暑くもなく寒くもなくちょうどいい気温の中、にぎわう商店街で知らない人達に紛れて歩いていると、孤独感が薄まっていく。少しずつ少しずつ大丈夫になっていく。
「もうだめだ」と気力を失っていたのが、気づくとおいしそうなにおいに反応して、お店の中をのぞいていたりする。食べ歩きしている楽しそうな人たち、自分と同じようにひとりでいる人。刺しゅう入りのスリッパを指さして「キュート!!」と顔をほころばせている海外の女性二人組、ひたすら焼き鳥を焼く寡黙そうなおじいさん。だれと会話するでもなく、励ましの言葉をかけられているわけでもないのに、そこにただいる人達の存在に救われている。
巣鴨通り商店街は、大学のときよく来ていたので見慣れた場所だった。それも良かったのかもしれない。全くの初めての場所だったら疲れてしまっていたかも。当時と入れ替わっているお店もたくさんあったけれど、商店街の雰囲気、あとどのくらい商店街が続くのか、どこにどんな店があるのかがだいたいわかっているから安心感がある。
もし、ずっと家にひとりでいたらひたすら落ちてしまっていたと思う。

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