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【文学フリマ東京39】『追い風日記』試し聞き⑤(全10回)
野中莉奈
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文学フリマ東京39に出店する作品『追い風日記』の一部を紹介します。
「試し読み」でなはく、「試し聞き」という形にしました。
『追い風日記』に収録しているのは、2022年8月~2023年12月のわたしの日記です。
毎日1投稿していきます!(全10回)
今回は、第5回目の投稿。
わたしの自慢の父との話です。この日のことは日記に残していなかったとしても忘れないと思いますが、日記を読み返したらより鮮明に思い出しました。
************************************************
8月14日
夕飯のデザートは、ばばがくれた桃。
今日は父とたくさん話した。酔っ払った父に、呪文みたいに何回も、「りなならできる」って言われた。「こわいこわいこわい」とか言ってごまかしたけど、喉の奥がキュッてなったー。
『ばらかもん』というドラマをおすすめされて、DVDにしてあるよ! と1話だけ一緒に見た。ある書道家の青年が、書道界の重鎮に「君の書く字はお手本に忠実だけれど、つまらない」と言われ、カッとなって騒動を起こしてしまう。ここで頭を冷やしてこいと父に言われた行き先は、長崎県の五島列島。知り合いは誰一人いない。都会とは全く違う価値観を持った島の人たち。今まで人との深い関わりを避けてきた主人公が、島の人達との出会いによって変わっていくという話。
ジーンときたシーンがあった。防波堤を登ると見える綺麗な夕日を見せようとした島の女の子に、「登るの大変だし、いいよ夕日なんて」と主人公は返す。すると、女の子が「登ってみないと分からない、見ようとしないと見られない」と言ってロープ一生懸命掴んで登っていくというシーン。よくある言葉かもしれないけれど、ほんとうにそうだなぁ。
見終わってまだジーンとしているときに父から渡されたDVDには、マジックペンで手書きで「ばからもん」と書かれていた。
『ばらかもん』ね。父はやっぱり父だった。
「試し読み」でなはく、「試し聞き」という形にしました。
『追い風日記』に収録しているのは、2022年8月~2023年12月のわたしの日記です。
毎日1投稿していきます!(全10回)
今回は、第5回目の投稿。
わたしの自慢の父との話です。この日のことは日記に残していなかったとしても忘れないと思いますが、日記を読み返したらより鮮明に思い出しました。
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8月14日
夕飯のデザートは、ばばがくれた桃。
今日は父とたくさん話した。酔っ払った父に、呪文みたいに何回も、「りなならできる」って言われた。「こわいこわいこわい」とか言ってごまかしたけど、喉の奥がキュッてなったー。
『ばらかもん』というドラマをおすすめされて、DVDにしてあるよ! と1話だけ一緒に見た。ある書道家の青年が、書道界の重鎮に「君の書く字はお手本に忠実だけれど、つまらない」と言われ、カッとなって騒動を起こしてしまう。ここで頭を冷やしてこいと父に言われた行き先は、長崎県の五島列島。知り合いは誰一人いない。都会とは全く違う価値観を持った島の人たち。今まで人との深い関わりを避けてきた主人公が、島の人達との出会いによって変わっていくという話。
ジーンときたシーンがあった。防波堤を登ると見える綺麗な夕日を見せようとした島の女の子に、「登るの大変だし、いいよ夕日なんて」と主人公は返す。すると、女の子が「登ってみないと分からない、見ようとしないと見られない」と言ってロープ一生懸命掴んで登っていくというシーン。よくある言葉かもしれないけれど、ほんとうにそうだなぁ。
見終わってまだジーンとしているときに父から渡されたDVDには、マジックペンで手書きで「ばからもん」と書かれていた。
『ばらかもん』ね。父はやっぱり父だった。